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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2024/04/27 (Sat) 05:25:04

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No.567
2012/05/14 (Mon) 04:44:20

 三島由紀夫の「憂国」には若い軍人が切腹する場面が克明に描かれているが、とにかく腹を切るというのは目が回るほどの苦痛だということになっている。しかし最近読んだ科学雑誌によると、体の中で痛覚を感じる部分は皮膚に集中していて、腸などの内臓にはほとんど痛覚はないそうだ。とすると刀で腹を切るのも痛いのは最初だけで、深く刺してしまえばあとはどうということもないのかも知れぬ。H.G.ウェルズの「モロー博士の島」に登場するモロー博士も、痛覚というのはさほど重要な感覚ではないのだと言いつつ手術用のメスをずぶりと自らの太腿に突き刺し「これでも私は露ほどの痛みも感じてはおらんのですぞ」と喝破していた。ウェルズも生物学を専門とした人だから、僕が科学雑誌を見て思ったように、自分の体を切るのは思ったほどには痛くないというのが本当かも知れない。漫画のブラックジャックは自分で自分の開腹手術をときどきしていたけれど、あるとき寄生虫を摘出するために腸を切って痛がっていたが、あれはリアリティを出すための演出だったのだろうか。そう思うと、剣術で肉を切らせて骨を断つなどというが、骨まで切られたほうがむしろ痛くなくて、例えば腕の骨を切られても戦意はなお盛んで、残った四肢を使って勝ってしまうこともあるかも知れない。モンティ・パイソンの映画版で、アーサー王ものか何かだったと思うが、主人公の騎士が決闘相手の両腕を斬りおとし、勝ったと思って立ち去ろうとしたら、両腕を失った相手が「まだ勝負はついていない」といって主人公の背中をキックする場面があった。ついに主人公は相手の両足も斬りおとし、ようやく勝ったと思い立ち去るのだが、相手は身動きが取れなくなっても「まだ勝負はこれからだ、逃げるのか腰抜け野郎」と悪罵を浴びせ続けるのである。
 
 これまで生きていて一番痛かったことといったら何だろう。子供のころ夏に花火をしていて、打ち上げ花火に火をつけて待っていると花火の筒が倒れ、それを立てようと触った瞬間に花火が噴き出し、手に大きな火傷を負ったが、それが猛烈に痛かったのが記憶に残っている。あと背中に出来物ができて、医者にその膿をしぼり出してもらったとき。ああいうとき、あまりの苦痛に思わず声がもれるが、男ならカン高い悲鳴を上げるのは格好が悪い。医者からも軽蔑される。そこはやはり腹式呼吸で「ウッ」と太く男らしい苦悶の声を出さなければならない。歯医者で奥歯を削られる痛みも酷い。自分の顔から血の気が引いていき、自分がまさに気絶しつつあるのが分かったことがあるぐらいだ。歯医者によっては「緊急用蘇生装置」なるものが置かれていることがあるのもうなずける。気絶の話が出たが、ある小説に出てきた軍の特殊部隊の訓練の中に「対拷問訓練」というのがあり、それはどんな苦痛を与えられても相手の質問に答えない忍耐力を養う訓練だった。それこそ電気ショックから、水槽に窒息寸前まで頭をつっこまれる、爪の下に針を突き刺される、などありとあらゆる苦痛が用意されているが、その訓練にも慣れてくると、拷問されながらも意図的に気絶できるようになる、ということになっていた。気絶してしまえばもう苦痛は追ってこないのである。

 三島由紀夫は実際に切腹して死んだが、同志の森田必勝による介錯は何度も失敗したといわれる。人の首を斬りおとすことなどきっと初めてで仕方なかったろうが、何度も斬り損いされる三島は大変だったろう。斬れないとしても鉄の刀で首をどやされるのだから、首が落ちる以前に死んでいたかも知れない。戦国時代の腹の据わった武将は、刀傷を体中に負いいよいよ命数が尽きたのを感じ、しかも近くに敵がいないときは、わざわざ敵兵を呼び寄せ「おい、俺の首をやろう。名の知れた武将の首だぞ、お前もちょっとは戦功を立てたいだろう」といってわざわざ首を斬らせた、などという話がある。その敵兵のほうが臆病で「腰が抜けました」という場面が、講談の「真田幸村」にあった。


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快文書作成ユニット(仮)
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 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


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