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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2024/03/29 (Fri) 21:06:55

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No.175
2010/01/07 (Thu) 23:40:36

針礼須(はり・れいす)は非常に真面目な青年だったが、その几帳面すぎる性格が災いしてか、どんな仕事をしても長続きしなかった。
あるとき彼は司書補助として、ある図書館に勤めることになった。
その館長も几帳面な性格で、あるときこんなことを言った。
「この図書館にある学術書は、気味の悪いことに、その本の文中でその書物自身に言及していることが多い。巻末に載っている参考文献のページにも、その本自身が記載されていることがある。私はこんなおかしな記述には我慢がならん。そこでちょっと大変な作業になると思うが、きちんとした本、つまり本の文中にその本自身が言及されていない本をピックアップして、その背に青いラベルをつけていってくれんか」
針は愚直に図書館の蔵書の一冊一冊についてページを繰っていき、書物を分類し、必要なら青いラベルを貼っていった。彼はこういう単純作業になると非常に強い忍耐力を発揮した。一カ月かけて、図書館の大量の書物をすべて分類し終えたのである。
「館長、終わりました」
「おお、ご苦労だったな。では今日でなくてもいいから、今度は青いラベルを貼った本の目録を作ってファイリングしてくれんか」
針はうなずいて、窓際の椅子に腰掛け、しばしぼんやりと夕陽を眺めてから、目録作りに着手した。ふと、彼はおかしなことに気がついた。
「館長、このファイルの目録には、このファイル自身の書名を載せるべきでしょうか、載せるべきでないでしょうか」
「ファイルの書名を? そりゃファイルは蔵書とは違うから、載せる必要はないと思うが……まあどちらでもいいよ」
「ちょっと待ってください。仮にこのファイルの目録に自分自身を載せるとします。するとこのファイルは『その文中にそれ自身が言及されている本』と分類されることになり、このファイルが自分自身に言及していない本の目録であるという趣旨に反します。逆にここに自分自身を載せないとします。するとこのファイルは『その文中にそれ自身が言及されていない本』となり、このファイルの趣旨に沿うならここに自分自身の書名を載せねばならないことになります」
「ん? いや、君の話はちょっとよく分からんが……とにかく適当でいいんだよ」
「駄目です。どうやったって自己撞着に陥ります」
「君、疲れてるんではないかね。今日はもう帰って休んでいいよ」
「いえ、疲れてなんかいません。こんな矛盾に満ちた仕事は……もう僕には無理です。神経が耐えられません。やめさせていただきます」
という訳で、針は図書館を退職した。

このように真面目すぎて不器用な針だったから、ずっと貧乏暮らしをすることになるのではと周囲は思った。しかしあるとき、川で溺れている少年を助けたことがもとで、針は億万長者になるチャンスを掴んだ。その少年の父は大変な大金持ちで、感謝のあまり針に対し、金額のところが空欄になっている小切手を渡したのだった。真面目な針は、どれだけの金額をそこに書き込めばいいのか真剣に悩んだ。
「遠慮なくできるだけ大きな金額を書けばいいじゃないか」友人たちは口をそろえて言った。針もそのうちその気になった。その小切手の金額の欄をあらためてみると、16個のマスからなっている。
「つまり、16個のマス全部に9を書き込めば最大の金額になるのか。9999999999999999……9999兆9999億9999万9999円だ。いや、待てよ」
針は16個のマス目にこう書き込んでみた。

  16字以内で書ける最大の数

これで13字だ。いやしかしその右に「+1」と書いてみた。

  16字以内で書ける最大の数+1

これで15文字、16個のマス目に収まる。しかし明らかに
  16字以内で書ける最大の数 < 16字以内で書ける最大の数+1
なのだが、16字以内で書ける最大の数は、文字通り16字以内で書ける最大の数でなければならない。つまり
  16字以内で書ける最大の数 ≧ 16字以内で書ける最大の数+1。
これは矛盾である。つまり「16字以内で書ける最大の数」など存在しないということだ。ということは、この小切手の16個のマス目には、無限に大きな数を書き込むことが出来ることになる。
そう気づいた針はたじろいだ。そしていつまでも、空白の小切手を茫然と見つめ続けるのだった。


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 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


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