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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2017/10/17 (Tue) 18:44:56

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No.20
2009/10/15 (Thu) 22:22:49

一時期、新聞の勧誘がものすごかったが、自宅の近辺に関する限り、最近は沈静化してきた。新聞業界の景気も落ち着いてきたということだろうか。しかし今でも契約者への特典がエスカレートしてるな、と思う。次のような妄想をする人も多いのではないか。


うそのような話

 ちくしょう、なんか面白れえことねえかなあ。ていうか、リストラされてからというものずっと引きこもり状態だし、そろそろ職探さないとヤバいんだけど、動く気しねえんだよな。誰だよ、朝っぱらからドアをどんどん叩きやがって!
「◎×新聞ですが」
「ああ、新聞の勧誘? うちは親父の代から産経って決めてるんだよ」
「いや、うちは産経さんより安いですから」
「そういう問題じゃないの。さいなら」
「いやちょっと、こちらをご覧いただけますか。うちの新聞を一年の契約で取っていただきますと、この中からお好きな商品を差し上げますので」
「あーん? 掃除機、ミニコンポ、電子レンジ……けっこう豪華だね。でも全部間に合ってるし」
「いや、この中にない商品もありますんで。何かご希望のものはございますかね」
 やせた貧相な顔立ちの、五十ぐらいの新聞販売員。よれよれのワイシャツにノーネクタイ、汚い無精ひげ、黒ぶち眼鏡の奥では疲れた目がどんよりと曇っている。きっとどの家でも断られ、くたびれてるんだろう。おれは無茶をいう事にした。
「別に欲しい品物はないけど、俺いま無職なんだよな。仕事を世話してくれたら、一年といわず五年契約で取ってやってもいいがな」
「仕事……ですか」販売員はポカンとした。
「それも、年収一千万以上。でもキツい仕事はいやだな。毎日定時で帰れて、しかも面白い仕事」
「五年……ですか」あいかわらず販売員はポカンとしていたが、やがて「分かりました。なんとかします」
 その言い方がいかにもイイ加減で、契約を取り付けるため、後のことは考えず取りあえず言ってみたという感じ。くたびれた販売員は帰っていった。なんか後ろ姿がかわいそう。でもおれはすぐにその事を忘れ、ごろりと横になった。

 何日かたったころ、再びその販売員はやって来た。前より一層やつれ、目の下にくまが出来ている。頓着しない脂ぎった髪の毛、いかにも貧乏神という感じ。
「◎×新聞です。この間、仕事って仰ってましたよね……イロイロ当たってみたんですがね」
「本気にしたんですか? そんなのあるわけないでしょ」
「ありました」
「え?」
「年収一千万以上、毎日定時で帰れる仕事。中村さんが面白いって思われるかどうかは分かりませんが」
「ちょっとちょっと」
「会社の住所はここです。あさっての午後一時に、部長の山内さんを訪ねてくれますか」
 販売員は相変わらずどんよりと生気のない目をして言った。
「面接ですか」
「いや、仕事はもう決まってますんで。畑山の紹介で来たって言ってもらえれば、話は通るようにしてありますから」
「にわかには信じがたいですね」
「いやもちろん、契約は中村さんにその会社に行ってもらって、直接確かめてからで結構ですよ」

 おれが明後日その会社に行ってみると、話は嘘ではなかった。大きなビルで、間違いなく一流企業だ。
 翌日から働き始めたが、楽そうな仕事だった。しかも皆、定時に帰っていく。
 一週間後、例の畑山という販売員がやって来た。今日はくたびれつつも、うっすらと笑みを浮かべている。
「では、五年契約を」
「そうだな……まだ入社して一週間だし、本当に俺の望むような仕事かどうか、もう少し様子を見させてくれないか?」
 畑山はみるみる元気のない顔になった。
「様子を見るって、どれぐらいですか」
「一ヶ月ぐらい」
「……そうですか。じゃ、一ヵ月後にまた来ます」
 うさんくさそうな顔をしながら、畑山はしぶしぶ引き上げていった。

 おれはすぐに仕事に慣れた。最初の給料ももらったが、かなりの額だ。楽だし、最高の仕事だと思った。
 もちろん◎×新聞、五年契約で取ろう……と思ったが、ちょっとふざけてやれと思った。
 一ヵ月後、畑山が来た。
「では、五年契約を」
「うーん、考えてみたんだけどね。やっぱり産経も捨てがたいなーって」
「は?」
「でもある品物を付けてくれたら、十年でも◎×新聞、取ってもいいかな」
「何ですか」
「家。土地つき一戸建て」
「家……ですか」
「そう。でも新築で頼むよ。この近くで」
「十年……ですか」販売員は、例の鈍そうなポカンとした表情で言った。
「ムリだよね」おれが言うと、
「なんとかします」畑山は困惑した顔で言い、疲れた足取りで帰っていった。
 ウソだろ? 仕事を世話してくれたうえ家まで……。

 畑山の話は嘘ではなかった。一週間後、おれは豪華な一戸建ての家を手に入れることになった。
「では、十年契約を」
 しかしおれはさらに意地悪をした。
「まてまて。住み心地を確かめてからだ」
「どのくらい……?」
「うーん、まあ一週間でいいだろう」
 畑山は明らかにホッとして「では一週間後に来ます」

 一週間後やってきた畑山に、おれはさらに無理難題を押し付けた。
「おれ、彼女がいなくて寂しいんだよね。ていうか結婚したい。いい女を連れてきたら二十年契約してやってもいいなー。でも、それが無理なら産経に逆戻りだな」
「女……?」畑山は脱力したように言った。
「新垣結衣に似た子がいいな。二十一、二歳で」
「二十年……ですか」
「ムリだよね」
「……なんとか、します」畑山は苦虫を噛み潰したように言った。

 さらに一週間後、畑山は新築のおれの家にやって来た。さらにげっそりと頬がこけ、目は落ち窪み、まるで生ける死人だ。
「正直、疲れました。もうこれっきりにしてくれませんか」
「女の子は?」
「連れて来ました。佐久間麻里さんです」
 そう言って畑山は、若い女を玄関のところに呼び寄せた。新垣結衣そっくりだった。
「佐久間麻里です。よろしくお願いします!」女の子は屈託のない笑顔を浮かべ、元気よく頭を下げた。
「ちょっと畑山さん、この子どこから連れてきたんだ」
「どうぞお好きになさってください。後日契約に参ります」畑山は投げやりに言って去っていった。おれは呆れた。
「佐久間さん、だっけ?」
「ハイ、佐久間です」彼女は明るい笑顔で返事した。
「どこから来たの?」
「えっと、寝屋川のほうから」あいかわらずニコニコしている。
「普段は何してるの?」
「音大でバイオリンやってます」

 さっそくその日から同居を始めた彼女とおれは結婚した。
 しかし、畑山と二十年の契約は結ばなかった。
「年商100億の会社の社長になれたら、一生◎×新聞取ってもいいなー」と言ったら、畑山がそのように取りはからってくれたのである。
 今ではおれはIT長者だ。世の中の「勝ち組」は、おおむねこの方法で生まれているようである。

(終)

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執筆陣
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快文書作成ユニット(仮)
自己紹介:
 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


 ❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。

 ❖ 呂仁為 Ⅱ 〜 昭和の想い出話や親しみやすい時代物、歴史小説などについて書きます。

 ✿ 流火-rjuka- ~ 主に漢詩の創作、訳詩などを行っています。架空言語による詩も今後作りたいと思っています。

 ☃ ちゅうごくさるなし
主に小説を書きます。気が向けば弟のカヲスな物語や、独り言呟きなことを書くかもしれません。

 ♘ ED-209 〜 PNの由来は映画『ロボコップ』に登場するオムニ社の敵役ロボットからです。今まで書き溜めてあった自身の体験談やコラムを発表するには良い機会と思い寄稿させて頂きました。是非、御読みになってみてください。そして何より皆さんに楽しんで貰えれば嬉しいです。

 ☠ 杏仁ブルマ
セカイノハテから覗くモノ 



 我ら一同、只管に【快文書】を綴るのみ。お気に入りの本の頁をめくる感覚で、ゆるりとお楽しみ頂ければ僥倖に御座居ます。









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