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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2024/03/19 (Tue) 14:34:12

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No.20
2009/10/15 (Thu) 22:22:49

一時期、新聞の勧誘がものすごかったが、自宅の近辺に関する限り、最近は沈静化してきた。新聞業界の景気も落ち着いてきたということだろうか。しかし今でも契約者への特典がエスカレートしてるな、と思う。次のような妄想をする人も多いのではないか。


うそのような話

 ちくしょう、なんか面白れえことねえかなあ。ていうか、リストラされてからというものずっと引きこもり状態だし、そろそろ職探さないとヤバいんだけど、動く気しねえんだよな。誰だよ、朝っぱらからドアをどんどん叩きやがって!
「◎×新聞ですが」
「ああ、新聞の勧誘? うちは親父の代から産経って決めてるんだよ」
「いや、うちは産経さんより安いですから」
「そういう問題じゃないの。さいなら」
「いやちょっと、こちらをご覧いただけますか。うちの新聞を一年の契約で取っていただきますと、この中からお好きな商品を差し上げますので」
「あーん? 掃除機、ミニコンポ、電子レンジ……けっこう豪華だね。でも全部間に合ってるし」
「いや、この中にない商品もありますんで。何かご希望のものはございますかね」
 やせた貧相な顔立ちの、五十ぐらいの新聞販売員。よれよれのワイシャツにノーネクタイ、汚い無精ひげ、黒ぶち眼鏡の奥では疲れた目がどんよりと曇っている。きっとどの家でも断られ、くたびれてるんだろう。おれは無茶をいう事にした。
「別に欲しい品物はないけど、俺いま無職なんだよな。仕事を世話してくれたら、一年といわず五年契約で取ってやってもいいがな」
「仕事……ですか」販売員はポカンとした。
「それも、年収一千万以上。でもキツい仕事はいやだな。毎日定時で帰れて、しかも面白い仕事」
「五年……ですか」あいかわらず販売員はポカンとしていたが、やがて「分かりました。なんとかします」
 その言い方がいかにもイイ加減で、契約を取り付けるため、後のことは考えず取りあえず言ってみたという感じ。くたびれた販売員は帰っていった。なんか後ろ姿がかわいそう。でもおれはすぐにその事を忘れ、ごろりと横になった。

 何日かたったころ、再びその販売員はやって来た。前より一層やつれ、目の下にくまが出来ている。頓着しない脂ぎった髪の毛、いかにも貧乏神という感じ。
「◎×新聞です。この間、仕事って仰ってましたよね……イロイロ当たってみたんですがね」
「本気にしたんですか? そんなのあるわけないでしょ」
「ありました」
「え?」
「年収一千万以上、毎日定時で帰れる仕事。中村さんが面白いって思われるかどうかは分かりませんが」
「ちょっとちょっと」
「会社の住所はここです。あさっての午後一時に、部長の山内さんを訪ねてくれますか」
 販売員は相変わらずどんよりと生気のない目をして言った。
「面接ですか」
「いや、仕事はもう決まってますんで。畑山の紹介で来たって言ってもらえれば、話は通るようにしてありますから」
「にわかには信じがたいですね」
「いやもちろん、契約は中村さんにその会社に行ってもらって、直接確かめてからで結構ですよ」

 おれが明後日その会社に行ってみると、話は嘘ではなかった。大きなビルで、間違いなく一流企業だ。
 翌日から働き始めたが、楽そうな仕事だった。しかも皆、定時に帰っていく。
 一週間後、例の畑山という販売員がやって来た。今日はくたびれつつも、うっすらと笑みを浮かべている。
「では、五年契約を」
「そうだな……まだ入社して一週間だし、本当に俺の望むような仕事かどうか、もう少し様子を見させてくれないか?」
 畑山はみるみる元気のない顔になった。
「様子を見るって、どれぐらいですか」
「一ヶ月ぐらい」
「……そうですか。じゃ、一ヵ月後にまた来ます」
 うさんくさそうな顔をしながら、畑山はしぶしぶ引き上げていった。

 おれはすぐに仕事に慣れた。最初の給料ももらったが、かなりの額だ。楽だし、最高の仕事だと思った。
 もちろん◎×新聞、五年契約で取ろう……と思ったが、ちょっとふざけてやれと思った。
 一ヵ月後、畑山が来た。
「では、五年契約を」
「うーん、考えてみたんだけどね。やっぱり産経も捨てがたいなーって」
「は?」
「でもある品物を付けてくれたら、十年でも◎×新聞、取ってもいいかな」
「何ですか」
「家。土地つき一戸建て」
「家……ですか」
「そう。でも新築で頼むよ。この近くで」
「十年……ですか」販売員は、例の鈍そうなポカンとした表情で言った。
「ムリだよね」おれが言うと、
「なんとかします」畑山は困惑した顔で言い、疲れた足取りで帰っていった。
 ウソだろ? 仕事を世話してくれたうえ家まで……。

 畑山の話は嘘ではなかった。一週間後、おれは豪華な一戸建ての家を手に入れることになった。
「では、十年契約を」
 しかしおれはさらに意地悪をした。
「まてまて。住み心地を確かめてからだ」
「どのくらい……?」
「うーん、まあ一週間でいいだろう」
 畑山は明らかにホッとして「では一週間後に来ます」

 一週間後やってきた畑山に、おれはさらに無理難題を押し付けた。
「おれ、彼女がいなくて寂しいんだよね。ていうか結婚したい。いい女を連れてきたら二十年契約してやってもいいなー。でも、それが無理なら産経に逆戻りだな」
「女……?」畑山は脱力したように言った。
「新垣結衣に似た子がいいな。二十一、二歳で」
「二十年……ですか」
「ムリだよね」
「……なんとか、します」畑山は苦虫を噛み潰したように言った。

 さらに一週間後、畑山は新築のおれの家にやって来た。さらにげっそりと頬がこけ、目は落ち窪み、まるで生ける死人だ。
「正直、疲れました。もうこれっきりにしてくれませんか」
「女の子は?」
「連れて来ました。佐久間麻里さんです」
 そう言って畑山は、若い女を玄関のところに呼び寄せた。新垣結衣そっくりだった。
「佐久間麻里です。よろしくお願いします!」女の子は屈託のない笑顔を浮かべ、元気よく頭を下げた。
「ちょっと畑山さん、この子どこから連れてきたんだ」
「どうぞお好きになさってください。後日契約に参ります」畑山は投げやりに言って去っていった。おれは呆れた。
「佐久間さん、だっけ?」
「ハイ、佐久間です」彼女は明るい笑顔で返事した。
「どこから来たの?」
「えっと、寝屋川のほうから」あいかわらずニコニコしている。
「普段は何してるの?」
「音大でバイオリンやってます」

 さっそくその日から同居を始めた彼女とおれは結婚した。
 しかし、畑山と二十年の契約は結ばなかった。
「年商100億の会社の社長になれたら、一生◎×新聞取ってもいいなー」と言ったら、畑山がそのように取りはからってくれたのである。
 今ではおれはIT長者だ。世の中の「勝ち組」は、おおむねこの方法で生まれているようである。

(終)

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執筆陣
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快文書作成ユニット(仮)
自己紹介:
 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


 ❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。

 ❖ 呂仁為 Ⅱ 〜 昭和の想い出話や親しみやすい時代物、歴史小説などについて書きます。

 ✿ 流火-rjuka- ~ 主に漢詩の創作、訳詩などを行っています。架空言語による詩も今後作りたいと思っています。

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主に小説を書きます。気が向けば弟のカヲスな物語や、独り言呟きなことを書くかもしれません。

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