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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2024/03/19 (Tue) 11:48:57

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No.22
2009/10/15 (Thu) 22:28:25

カマタ氏は、ひとかどの商社の社長である。
しかし不況のあおりを食って、会社の業績は落ちる一方……企業は人だ。今こそ良い人材を集め、再出発を図るのだ。
カマタ氏はひとけのない神社を詣でた。
「どうぞ優秀な人材が集まりますように」本殿の前で彼が祈っていると、
「死人でも?」と低いくぐもった声がどこからともなく聞こえてきた。
カマタ氏はあたりを見回した。誰もいない。しかし彼は、これぞ神が彼の祈りを聞き届けてくれる徴(しるし)だと考え
「ええ、死人でも」とはっきりと応じた。

新聞・雑誌に求人を出した翌朝、総務課長が慌てた顔をして社長室に来た。
「し、社長、我が社の門に、薄気味悪い連中が大勢……」
「なんだね騒がしい」
「とにかく、外をご覧になってください」
カマタ社長が六階の社長室の窓から下を見ると、ぼろぼろのスーツを来て、青ざめてあるいは顔面を血だらけにし、あるいは四肢を腐らせた人間……いや人間に似た生き物が大勢、正門のところにうごめいていた。
「なんだねあの連中は」
「はっきりとはわかりかねますが、映画に出てくるゾンビにそっくりです。彼らを間近で見た社員によると、いちように『仕事をくれ』と叫んでいるもようです」
「仕事をくれ? ということは、あの連中は求職者なのか」
「それがなんとも……」
カマタ氏は思い出した。神社で聞いたあの不思議な声を。
「よし、あの連中を中に入れろ。彼らを面接するぞ」

ゾンビたちは皆よれよれになった履歴書を持参していた。経歴を信じるなら、彼らは皆、生前は一流の商社でそうとうの活躍をしてきた人物たちだった。彼らの声はかすれていたりくぐもっていて、聞き取りにくく第一不気味だったが、受け答えははっきりしており、優秀な人材であることがうかがえた。そして彼らは面接の最後に決まって次のように言った。
「私は死人です。給料は要りません。ただ、別のかたちの報酬を望みます」。

彼らは見た目が不気味であるという事にさえ我慢すれば、いずれも大変なキャリアを積んだ有望な人物たちだった。よし、彼らに社運をかけてみよう……カマタ氏は思った。
かくしてゾンビの大量雇用となった。管理職待遇で入社するものも多かった。
腐汁が滴り骸骨の露出した顔面で部下を怖がらせながら、ゾンビたちは生身の人間たちに次々に指示を与えていった。
「よし、フジ電機のミツヤ部長と会う、段取りは君に、任せた。ヤブタ君。きのう言って、おいた、見積書はまだ、できておらんのか」
ゾンビの上司たちは地の底から響いてくるような不気味な声で話した。はじめはみな怖がっていたが、噛み付くわけでもなし、指示も的確だったからほどなく部下たちの信頼を得るようになった。

もちろん、優秀なゾンビたちのお蔭で肩身がせまくなった社員もいた。営業部のコヤマ氏もそのひとりだった。前々からぱっとしない社員だったが、ゾンビらと働くようになってからは、上司からはっきりと「無能」の烙印を押された格好になってしまった。
「コヤマ君。大会議室で社長がお呼びだ」ある朝、彼の上司が言った。
社長が? いったい何の用だろう……彼はいぶかしみながら会議室へ向かった。
「ああ、コヤマ君か」カマタ氏が言った。
「はい」
「急に呼び出してすまんね。だが、大事な用件だ……はっきり言うと、君は戦力にならん」
「解雇……ですか?」社長みずから? コヤマ氏は何がなんだか訳が分からなかった。
「いや、解雇ではない。つまり、その……わが社では死人を多く雇っとるだろ。その死人たちの要求しておる報酬というのが、普通と違っておってな。そこでだ……ちょっとここで待っててくれ」
社長は出て行こうとして振り返り、ひとこと言った。「悪く思わんでくれ」

一瞬ののち、会議室になだれ込んできたゾンビたちによって、コヤマ氏の体はズタズタに引き裂かれ、肉をむさぼり食われてしまった。

(終)

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 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


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