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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2024/03/19 (Tue) 18:50:15

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No.23
2009/10/15 (Thu) 22:35:44

取調室にて。ある敏腕刑事の取調べの様子をここに紹介しよう。


刑事 さあ、容疑者のAさん! これから素晴らしいセッションが始まります! あなたが容疑をかけられている強盗の罪について、あなたから自白を取るなどということは実に瑣末な問題に過ぎません! あなたはこれから世界の実相について知るのです。用意はいいですか?
容疑者 ……俺は何も喋らないよ。
刑事 用意はいいですかと尋ねているのです! でもあなたは私の話を聴いているようですね! なら準備は出来ているのです! さきほども言いましたように、あなたの犯罪がどうこうなどというのは、実は大した問題ではないのです。わたしはそんなことにはこれっぽっちも興味を持っていません。なぜならあなたはわたしの同志なのですから! いや分身と言ってもいいかも知れません。そのわけは、このセッションを通じておいおいと分かってくることでしょう! では第一問! 「意識」とはいったい何でしょう?
容疑者 何だい、こりゃ訊問なのかい? 意識ってつまり、人間が心の中で思っていることとか感じていることのこったろ。
刑事 ブーッ!! でございます! 意識は人間だけが持つものではありません。生きとし生けるもの、いや生きていないものも含めて、世の中に存在するもの全てが意識を持っているのです! 物体が起こす物理現象は、すべて意識と呼んでいいのです。ただわれわれの慣習上、生体の脳の中で起こる物理現象に限って「意識」と呼ぶことが多いのですが、まず生物と無生物というカキネをとっぱらって考えてください! とっぱらってください! 意識とは、物体が物理法則にしたがって時々刻々と状態を遷移させていく「過程」に他なりません。だんだん話が難しくなってきましたね! 
容疑者 いったい何なんだ、ここはいったい警察なのかい?
刑事 まず意識というものの大雑把なイメージをつかんでもらうために、目を細めて辺りを見回してください! ほら、目を細めて!! ほーら、周囲の物がだんだんぼやけて来たでしょう。わたしやドアのところに立っている警官、机、椅子、なんでも輪郭がぼやけてきて、もしかしたら二つのものがくっついて見えるかもしれません。意識とは、そんなふうに物体をぼんやりと取り巻いている「気」のようなものと考えると、視覚的に分かりやすいでしょう。さあ、目をパッチリと開いて! では第二問! 「自分」とはいったい何でしょう?
容疑者 さあ……自分って、自分だろ。俺が俺であると思っているものだよ。
刑事 では「他人」とは?
容疑者 そりゃ、俺じゃない奴のことだろ。
刑事 またまたブーッでございます!! こういうと酷かも知れませんが、あなたそういう風に考えているから孤独なのでございます! でも心配ご無用! このセッションがあなたを覚醒させるのです! あなたは生まれ変わるのです! まず、他人を「自分でないもの」と考えては「自分」が特別なものとしてこの世界から浮き上がってしまうのです。ここがセッションの第一の山場ですからよく聞いて! あなた、ご自分の肉体にご自分の意識がなぜ宿っているのか説明がおできですか? あなたの肉体には、他の誰かの自意識が宿っていてもよかったのではありませんか? なぜそこにあるのが「あなたの」自意識でなければならないのですか? よーく考えてください。どうしても説明がつかないでしょう! 結論から言いましょう。あなたは、わたしなのです。ほら、言ってご覧なさい。あなたは、わたし。
容疑者 なんなんだよ……言えばいいんだろ。あなたは、わたし。
刑事 よく出来たでございます! 要するに、あなたもわたしも、世界中の人間ぜーんぶ、一つの意識なのです。いや世界中の生き物、いや宇宙の全ての物体が、一つの同じ意識を共有しているのです! だから「他人」などはじめからいはしないのです! だから、あなたもわたしも同じ「自分」なのです。ほらこの机も! 椅子も! ぜーんぶ自分。ではもう少しこの「自分」というものを一般的見地から見てみましょう。では第三問、この世界は何次元で出来ているでしょう?
容疑者 えーと、三次元、いや四次元かな。
刑事 正解です~おめでとうございます! そう四次元なのです! 縦、横、高さ、それから時間という四つの次元からこの世界は出来ているわけでございますね。だから四次元時空などとも申します。しかしわれわれの世界は、空間的にも時間的にも無限の広がりを持っているわけではございません。有限なのでございます。数学でいうところの四次元空間は、四方向に無限の広がりを持っていますが、われわれの世界はちょうどそこから、有限なかたまりを切り抜いてきたような物なのでございます。しかし滅茶苦茶に切り抜かれたのではありません。われわれが物理法則と呼んでいるものが常に成り立つような形に、みごとに切り抜かれているのでございます。こうして切り抜かれたわれわれの世界、われわれの四次元時空が、われわれそのものなのです! あなたなのです! わたしなのです! 原始仏典で言う「アートマン」がそれに近いかも知れませんですね。あなたと、他の人を分け隔てするものは何もないのでございます。
容疑者 じゃ、刑事さん、俺が他人と同じって事は、俺が他人から物を盗ってもかまわないってことになりませんか?
刑事 大間違いでございます!! あなたが「物を盗ろう」と考えている時点で、あなたはその相手を「自分とは違う他人」と考えているのでございます。だからこっそり見つからないように空き巣に入ったり、包丁で脅して無理やり奪い取ったりするのでございます。あなたがその相手と「同じ自分」であるなら、どうして堂々と欲しいものを下さいと言えませんか。ここでセッションの次の段階に入りましょう! 先ほど、われわれの四次元時空は、物理法則が成り立つように切り抜かれていると申し上げました。その物理法則の中には、「不定形の物体はなるべく表面積を小さくしようとする」という法則があるのでございます。テーブルにこぼれたたくさんの水滴が、徐々にひとつに固まっていくのをご覧になったことがあるでしょう。ああやって一つに固まれば、表面積は最小になれるのでございます。われわれの意識も同じことでございます。あなたとわたしの意識は結局はひとつながりのものなのですが、あなたの意識はあなたの場所に、わたしのは私の場所に、不定形ながら濃い固まりをなして存在しているのです。しかし肉体的・精神的にあなたとわたしの距離が縮まれば、意識の固まりも近づきあい、ついには一体になって表面積を最小にしようとするのです。そうなればわたしとあなたは、猜疑心のない、真に親しい関係を築いたことになるのです。一体であることを実感できるのです。ですから、もし他人の物が欲しいとなったら、あなたはその人物と親しい関係を築き、意識を一体化させればよいのです。そうなれば、その物は、もう相手と自分どちらの所有物であろうと問題ではなくなります。そうしたとき、あるいはその物品があなたの所有物となるかも知れません。そのように、人間の意識はなるべくひとかたまりになって、丸く固まって表面積を小さくしようとするのです。これがこの宇宙の摂理です。だから孤独でいることはつらいことなのです。男と女が惹かれあうのは、意識が一つに固まるのみならず、いずれは新しい生命が誕生してさらに球形に近いまるっこい固まりを生ずることが可能だからです。あなたは人とのつながりというものを誤解していたのではありませんか? 猜疑心や不平不満は、すべての意識が一つにつながっているという事実から目をそむけさせます。うそをつくことも、自ら相手との間に障壁を作り一体化を妨げ、自分の首を絞めることにつながります。あなたは皆の意識との一体化、宇宙との一体化の喜びを知らないで生きてきたのではありませんか。さあ、こころを開くのです。めくるめく四次元時空のはるかな広がりと高みがあなたを待っています!
容疑者 う、うう……俺が間違ってたよ。強盗をやったのは俺だよ……。
刑事 そう、つらかったですね。でも、これであなたと他者との障壁はまずは消え去ったのです! あなたは大いなる未来へ羽ばたくのです! あ、それから、この宇宙には「慣性の法則」というものがあります。あなたはこれからも、以前強盗を働いたのと同じ境遇になったら、また同じことを繰り返してしまう、これが慣性の法則です! あなたはこれから刑務所に行って、その不幸な慣性をすっかりぬぐいとらなくてはなりません! でも忘れないで下さい、塀の中にいてもあなたは、世界と、そして宇宙と一体なのです!
容疑者 け、刑事さん、ありがとう……俺、目が覚めたよ……。
刑事 さあ行こう、いざ刑務所へ!


警視庁の夜は今日も更けていく……。


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執筆陣
HN:
快文書作成ユニット(仮)
自己紹介:
 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


 ❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。

 ❖ 呂仁為 Ⅱ 〜 昭和の想い出話や親しみやすい時代物、歴史小説などについて書きます。

 ✿ 流火-rjuka- ~ 主に漢詩の創作、訳詩などを行っています。架空言語による詩も今後作りたいと思っています。

 ☃ ちゅうごくさるなし
主に小説を書きます。気が向けば弟のカヲスな物語や、独り言呟きなことを書くかもしれません。

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 ☠ 杏仁ブルマ
セカイノハテから覗くモノ 



 我ら一同、只管に【快文書】を綴るのみ。お気に入りの本の頁をめくる感覚で、ゆるりとお楽しみ頂ければ僥倖に御座居ます。









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