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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2024/04/26 (Fri) 18:27:49

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No.28
2009/10/15 (Thu) 23:42:43

 俺はS市市長選挙に立候補し、みごと当選した。
「市長選挙当選ばんざーい!!」万歳三唱。そのとき、選挙事務所に白いガスが流れ込んできたのを俺ははっきり覚えている。そのガスを吸った途端、俺は頭がくらくらして、気絶してしまった。

 目が覚めたのは、小さなホテルの一室だった。窓から外を見ると、見たこともない白い建物がたくさん並んでいて、チューリップ型の赤や青の奇妙な服装をした男女がたくさん歩いている。前輪の極端に大きな自転車が何台か走っていた。

「やあ、目を覚ましたな」部屋の中のどこかにあるらしいスピーカーから声が聞こえてきた。
「ここはどこだ」
「市だ」
「お前は誰だ」
「ナンバー2だ。ここの住民はすべて番号で呼ばれている」
「ナンバー1はどこだ」
「お前はナンバー6だ」
「番号なんかで呼ぶな。俺は自由な人間だ!」
「さて。お前はS市市長に当選したんだったな。市長としての研修で、むこう一年間ここへ住んでもらうことになった」
「そんな話は聞いていないぞ」
「それは残念」
「ここは何市だ」
「市長市さ」
「なんだそれは?」
自分が市長を務める市に住んでいない市長、その全員が住む場所だ。それ以外のものは住んではいけない。それが掟だ
「ここに住んでいるもの全員が市長なのか?」
「その通り。しばらくゆっくり過ごしたまえ」

 俺は外をぶらつき、人々を観察したが、みな白痴のようにへらへら笑っている。
 市長市? 馬鹿げてる。俺はここを脱出するぞ。
 俺は雑貨屋に入った。
「ここの地図がほしい」
「地図? 地図なんてどうなさるんで?」
「いいからはやく見せてくれ」
 その地図にはまんなかに「市長市」と大きく書いてあり、その他には大まかな地形図に「山」「海」「広場」という漠然とした名詞が書かれているだけだった。
「これじゃ、何にも分からん。もっと範囲の広い地図はないのか」
「地図はあまり売れないんですよ。あるのはこれだけです」
 俺は失望して、もといた部屋に戻った。玄関に「No.6」と書かれてあった。

 次の日の朝。スピーカーからナンバー2の声。
「ナンバー6、次の選挙に出てもらおう。市長市の市長の選挙だ」
「断る!」
 しかし俺はこの市の群集の力に負け、けっきょく立候補したのだ。

 市長市市長選挙

「ナンバー6、当選ばんざーい!」
「おめでとう、おめでとう」
「市長の中の市長、ナンバー6おめでとう!」
「いや、ありがとう、ありがとう」と言いながら俺は、こめかみに痛みを覚えた。
「ん……何かおかしいぞ……俺はここに住んでいる、ということは自分が市長を務める市に住んでいる市長だ。だからつまり、早くこの市を出なければ規則に反する! 規則! 規則! ぐわー、早く市の外へ!」
 俺は群集をかきわけ走っていった。
「これが市長市の境界線だ、早く出よう……いや、まてよ。出るには出たが、今度は俺は自分が市長を務める市に住んでいない市長だ、ということは市長市に住まなければならない! それが規則だ! それが掟だ! といっても市長市に住んでも矛盾が生じる、どうすりゃいいんだ!」

 俺はよろよろと浜辺をふらついていた。
「ぐわー、頭が割れそうだ! しかし例外のない規則はない! だから俺は市長市に住んでもいいはずだ。しかしこの『例外のない規則はない』という言葉も規則だ、だから例外のない規則も存在する!」

 俺はここから出たいが出られない、出られないが出たい! 
「オレンジ警報、オレンジ警報」
 そのとき、海の彼方から、不気味な白い風船が俺を襲ってきた……。

(終)

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 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


 ❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。

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