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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2024/04/27 (Sat) 11:25:56

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No.32
2009/10/15 (Thu) 23:51:15

 だめだ、間に合わない! ヨシオは走りながら考えた。五年生になってもう九回も遅刻しているのだ。こんど遅刻したら小学生だからとて容赦はしない、落第だ、と担任の先生からも言われているではないか。家に引き返して、頭が痛い、風邪をひいたようだから今日は学校を休む、と母に言おうか。だめだ。その手はもう三度も使った。母も、先生も信用してくれまい。
 ああ、学校が急に休みになってくれないかなあ! 先生が具合が悪くなって授業がなくなるとか。まだ、学校まで三十分はかかる。一時間目が始まるのは二十分後だ。ああ、どうして僕は学校から遠いところに住んでいるのだろう。ヨシオは呪いの言葉を吐いた。
 その時地面が、ゆら、とゆれ始めた。ゆれはだんだんと大きくなり、通りに面した建物が、ミシミシと音を立てて震えた。地震だ! ヨシオは立ちすくんだ。通行人はいちようにうろたえていた。ヨシオも、こんなに大きな地震は初めての経験だった。
 永遠に続くかに思われたゆれは、やがておさまった。ヨシオは安心し、同時にこの地震が遅刻の言い訳になるかもしれない、あるいは学校が混乱して自分の遅刻など大目に見てくれるかもしれない、と思った。
 ヨシオは商店街を歩き始めた。電器店でテレビのニュースを見ることができた。
「さきほど、××地方で強い地震がありました。この地震により津波が発生する恐れがあります。海岸近くの人は、高いところに避難してください」
 学校は海岸近くにある。このぶんだと、生徒は全員避難だな、とヨシオは思った。いったん帰ろうか、それとも学校に行こうか。逡巡していると、また地面がゆれ始めた。こんどのゆれも強い! ヨシオは足をとられ、よろめいた。ガードレールに頭を強く打ち、意識が遠のいていった。
 どれぐらい昏睡していたろうか、ヨシオが意識を取り戻すと、そこは誰もいない教室だった。いつの間に学校に来たんだろう? 起き上がり、頭を振って窓に近づくと、校庭にクラスメートたちがいるのが見えた。
「あっ、ヨシオだ!」
「ヨシオ、早く来い、津波が来るぞ」
 海のほうを見ると、今しも巨大な波が陸に近づいてくる。ヨシオはあわてて校庭に出て、皆と合流し、高台のほうへ向かった。
 高台を登りきると、津波が校舎を呑み込んでなおも進み、数々の民家を押し流していくのが見えた。被害は広範囲にひろがるものと見えた。
 ヨシオは疲れていた。朝から走り通しだ。彼はベンチに横たわり、睡魔に身を任せ、再び泥のように眠った。
 どれほど眠ったろうか? ヨシオが目を覚ますと、辺りには誰もいなかった。夜だった。虫の声がしている。彼は空を見上げた。

「波だ」
 ヨシオはこれまでの想念を振り払い、静かに言った。彼はテーブルの前に座っていた。もう一人の人物が、テーブルの上に伏せられたたくさんのカードの中から一枚を取り上げ、ヨシオに裏を向けて示していた。それはESPカードだった。ESPカードとは、円、四角、十字、波、星の五種類の絵が描かれた、透視能力やテレパシー能力を測定するカードだ。ヨシオは、今、透視能力を測定する実験をしていたところだった。
 ヨシオはこの実験をすると、いつもある想念が浮かんできて、それが彼を正解に導くのだった。彼が見た津波の夢は、指し示されたカードが波型であることを示しているのに違いない。
 彼は、今日続けて九回この透視に成功している。十回成功が続けば、彼の透視能力は、優れたものといえるだろう。
「残念。星だ」
 相手は、カードをくるりと回転し、星型をヨシオに示した。
 しまった! さっきの想念の最後に、俺は夜空を見上げ、煌々と光る星を見つめたではないか。あれが正解の鍵だったのだ。
 ヨシオは悔しがった。しかし、相手は冷たかった。
「九回続けて正解したのはもちろんいい結果だと思うが……そのたびに君みたいに目をつぶって何分も瞑想にふけっていたんじゃ、たいした能力とはいえないね。これからの超能力は、もっとスピーディでなくちゃ」

(終)

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 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


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