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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
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No.35
2009/10/15 (Thu) 23:57:19

映画「ジュラシック・パーク」と「ウエストワールド」(1970年代のSF映画)を混ぜてみた。


ウミネコワールド

ウミネコ食品が「缶詰を買ってアンドロイドの島へ行こう」というキャンペーンを予定しており、そのための画期的なレジャーランド「ウミネコワールド」が南太平洋の小さな島に建設されているとのことだった。開園に先立ち、事前のモニターとして、ウミネコ食品社長の遠縁に当たる僕、友人の水谷、関連会社で働いている友坂氏とその新婚の奥さん、あとどこかの女子高生二人連れの計六名が、施設を体験することになった。僕と水谷は大学院生で、夏休み中だった。マネージャーの鳥谷氏、ロボット工学者の宮島氏の二人に案内され、近くの島から僕ら六人は、船でその小島へ向かった。

「ウミネコワールドには、たくさんのアンドロイドがおります。そのアンドロイドたち、亜人間とも呼んでおりますが、彼らによって通常のレジャー施設では味わえない娯楽が用意されています」マネージャーの鳥谷が言った。

ここはたのしい夢の島
夢かうつつか人の世の
うれいを忘れたひとときの
不思議な蜜のよろこびが
あなたの心をつつみます

という歌声が、静かな波音にまじって聞こえてきた。一同はきょろきょろした。
「あ、人魚だ!」
舷窓から、波間に見え隠れする小さな岩に座って歌う、美しい人魚が見えた。青いうろこはきらきらと光り、腰まで届く栗色の長い髪が風になびいていた。
「あれは言うまでもなくアンドロイドです。亜人魚(mermaidoid マーメイドイド)とでもいうべきものです。美しいでしょう」鳥谷が言った。人魚はつづいて

ああ、ウミネコ、ウミネコ、ウミネコの
缶につまった栄養素
あなたのお腹を満たします
ウミネコ印の海のさち

「いまの宣伝文句? よけいだと思ーう」女子高生たちが言った。
「だからあれはやめようって言ったんだ」ロボット工学者の宮島がぼそりとつぶやいた。

一同が島に上陸すると、うすく七色に輝くタイル張りの、真新しいゲートが見えた。
「いらっしゃいませ、こんにちは」背の高いモデルのようなコンパニオンの女性が、にこにこして挨拶した。
「この人もアンドロイドですか?」水谷が聞いた。
「はい。今日は生身の人間はこの島でわれわれだけですよ」鳥谷が答えた。
「ほう」水谷は穴が開くほどコンパニオンを見つめた。「まるで本物の人間だ」
「あんまり顔を近づけるなよ。見っともない」僕が言った。
「いや、この際よく観察しておきたいね」
「ただしむやみにお手を触れぬように」宮島が言った。「これは門番でもありますから。暴漢と判断されると痛い目を見ますよ」
「ふーん」
「さ、ここで留まっていないでゲートの中へ」鳥谷が笑顔で皆をうながした。

赤い制服に金ボタンの少年たちが、トランペットやフルートで軽快なマーチを奏でながら、足並みをそろえて行進していた。
「あれも皆アンドロイドなのですか?」友坂氏が聞いた。
「ええ」と鳥谷。
人間の身の丈を超えようかという大きな車輪の一輪車に乗ったピエロが、球を何個も操って曲芸を見せている。
「あれもアンドロイド?」友坂夫人が聞いた。
「はい」
女子高生たちは掃除のおばさんを指さして「あれも?」
「そうですとも」
僕は足もとを飛び跳ねていたバッタをつかまえて「これも?」
「それは本物のバッタですよ」宮島が顔をしかめて言った。「誰がそんな酔狂なロボットを作りますか」

「さあ、喉が渇いているお方もおいでかと思います。ひとまず喫茶コーナーへ参りましょう」
マネージャーの鳥谷が言った。
「いらっしゃいませ、こんにちは!」メイド姿の若い女の子が三人並んで挨拶した。
「メイド喫茶みたいな雰囲気だ」と友坂。
「流行を取り入れてみたんです」宮島が応じた。
「メイドたちも美しいでしょう! 亜メイド(maidoid メイドイド)と呼んでいますが、彼女らはウミネコワールドの売りのひとつです」鳥谷が説明した。
「ご注文はお決まりですか!?」
皆はめいめいに注文した。運ばれてきたコーヒーに水谷がミルクを入れようとすると、
「はっ。それは私が!」と亜メイドの一人が、スプーンでカップをかき混ぜ「おいしくなーれ!」
「なんかイライラするなあ」と水谷。
「そそうがあったときはひっぱたいてください」宮島が言った。
「そんなことしていいの?」
「ほら、こういう風に」宮島はその亜メイドに平手打ちを食らわした。
「ひい、ご主人様、ごむたいな」亜メイドは床に横座りになって涙をこぼした。
「そんな趣味はないなあ」水谷が困惑して言った。
「うーむ」と宮島。「メイドの醍醐味ってこれじゃないかと思ったんだが」
「それは誤解でしょ」と僕。
「宮島さん、ひどーい!!」女子高生たちが叫んだ。
「ほらほら、女性陣のためにマトリックスがパフェを運んできましたよ」鳥谷が言うと、ウェイターがサングラスをはずしながら
「お待たせしました」
「きゃーっ、キアヌ・リーブス!」
「これ、キアヌ・リーブスに許可を取ってあるんですか?」僕が尋ねると、
「誰ですかそれ? これはあくまでマトリックスという名のアンドロイドです」鳥谷が澄ました顔で言った。
「悪どいなあ」

マトリックスに夢中になっている女性陣を残して、男性陣は次の体験コースに向かうことになった。
「さて次は、卓越した運動能力を持ったアンドロイドによる、オリンピック選手顔負けの体操競技を……」と鳥谷が言いかけると
「ちょっとちょっと。われわれ男だけになったところで聞きたいことがあるんですが」と水谷が口をはさんだ。「きょうは魅力的な女のアンドロイドをずいぶん見てきました。どれも人間そっくりです。そこで男性なら当然期待するであろう、刺激的な娯楽がひとつあるかと思うのですが」
「つまり、セックスですか?」鳥谷が言った。
「はい」
「用意してありますよ。娼館があります。ご案内しましょうか?」宮島はけろりと応じた。
「金髪の女性はいますか?」
「ええ、亜金髪女(patzkinoid パツキノイド)ならたくさんいますよ」
水谷と宮島は足早に娼館に去っていった。

「あなたたちは行かれないのですか?」鳥谷が言った。
「わたしは妻と来ていますから」友坂はとんでもないとばかりに手を振った。
「あなたは?」
「興味ありませんね。すぐなんでも言いなりになる女性が相手で何が面白いんですか」僕は言った。
「とくにご希望のことはありますか?」
「そう、射撃なんかどうですかねえ。人間を撃つなんて、ふだんの生活ではできませんから。この場合、アンドロイドを撃つわけですが」
「ふうむ。高くつく娯楽ですので、きょうのモニターの方々にはご案内しないつもりだったのですが……」
「じゃあ、できるんですね?」僕は興奮して言った。

(つづく)

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HN:
快文書作成ユニット(仮)
自己紹介:
 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


 ❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。

 ❖ 呂仁為 Ⅱ 〜 昭和の想い出話や親しみやすい時代物、歴史小説などについて書きます。

 ✿ 流火-rjuka- ~ 主に漢詩の創作、訳詩などを行っています。架空言語による詩も今後作りたいと思っています。

 ☃ ちゅうごくさるなし
主に小説を書きます。気が向けば弟のカヲスな物語や、独り言呟きなことを書くかもしれません。

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