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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2024/04/25 (Thu) 14:23:13

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No.40
2009/10/16 (Fri) 00:11:26

「私に双子の姉がいたなんて!」景浦家の令嬢、麗子が叫んだ。
「はい。法子お嬢様といいまして、お生まれになった直後に大叔父様がひきとられ、その後出来たベルリンの壁に隔てられてお会いすることが叶わなかったのでございます」
「で、お姉さまは今、チューリッヒにいらっしゃるのね!? すぐ行くわ。秀じい、車を廻して!」
「僕も行こう」と、麗子の婚約者、鏡隆一郎が言った。

法子はホテルをチェックアウトして空港へ向かうところだった。そこに自分と容貌のそっくりな女が現れたものだから、法子は大いに驚いた。
「お姉さま、法子お姉さま。わたし、あなたの双子の妹の麗子と申します。長く生き別れになっていました」
「まあ……じゃ、私が双子だというのは本当だったのね! 私、自分の赤ん坊のころの写真で、もう一人の女の子と一緒に抱かれているのを見たわ。でも叔父様に尋ねても答えてくださらなかった。あなたが、あなたが私の妹なのね」法子は涙ぐんで言った。
「よかったね、麗子さん」と、彼女の婚約者が言った。
「あら! ひょっとして、ひょっとして、あなたは鏡隆一郎さんじゃなくて?」法子が言った。
「どうして法子お姉さまが隆一郎さんをご存知なの?」
「だって、だって隆一郎さんは十年前に船が難破して離れ離れになった私のいいなずけなんですもの」
「なんですって!」
「法子さん、本当に法子さんなのかい? てっきりあのとき君は死んでしまったものと思っていたんだ」隆一郎は言った。
「私、私、あなたからもらった銀のペンダントをまだ持っているわ。ほら」法子はそれを見せた。
「しかし法子さん、いま僕は麗子さんと婚約してるんだ。すまない、許してくれ」
「でも、でもあなたは私と先に婚約したのよ! こっちの方が正当性があるはずよ」法子は麗子をキッとにらんだ。「弁護士の先生もきっとそう仰るわ」
そのときである。ちょうど獅子座流星群のまっただ中にあった地球に、流星のかけら、すなわち隕石がチューリッヒ上空に飛来し、法子の頭を直撃した。昏倒する法子。
「法子さん、しっかりするんだ! 気を確かに! 秀じい、救急車を!」
救急車の中で、昏睡状態にある法子をみまもる隆一郎と麗子。
「すぐに輸血が必要だが、この血液型は、用意がない……」救急隊員が言った。
「血液型は何ですの?」
「O型、RHマイナス」
「わたしと同じだわ」麗子は言った。「さ、わたしの血で法子お姉さまを助けてあげて」
法子は昏睡状態の中でこの会話を聞いたのか、一粒の涙が彼女の眼からこぼれ落ちた。恋人を争う私を助けてくれるなんて……。

病院に着くと、法子はすぐに集中治療室に運ばれた。若い女医が、てきぱきと法子の心拍や脈搏、脳波などを検査した。「頭蓋が陥没して脳を圧迫しています」レントゲン写真を片手に女医が言った。「頭蓋を修復して神経を整復しなければなりません。すぐに手術に入ります」
チクタク、チクタク。手術室のランプがともり、長い時間が過ぎた。麗子と隆一郎は手を取り合い、固唾をのんで待った。三時間、四時間。神経の疲れた麗子はいつしかウトウトとして、そしてハッと目を覚ました。手術室のランプが消えて、女医が出てきたところだった。
「ひとまず手術は成功です。でも、今夜が山ですね」そう言って、女医はマスクをはずした。
女医の顔を見た麗子と隆一郎は驚いた。彼女は、麗子と法子に生き写しの顔をしていた。
「私は速水涼子。しかし本当は景浦家の三つ子の長女。ふふ、こんな所で二人の妹に会えるとはね」女医は言って、そして鏡隆一郎のほうに向き直った。「隆一郎さん。私もあなたのことがずっと好きだったわ。思えば十五年前から……私は今はこの病院の院長、速水賢太郎の娘。私と結婚すれば巨万の富が手に入るわ。どう、私と結婚なさらない?」
「そんなことは無理よ! 私や法子お姉さまは正式に隆一郎さんと婚約してるんですからね!」
「そんなものね」涼子は煙草をふかして言った。「お金の力でどうにでもなるものなのよ」
「隆一郎さん、何とか言って!」麗子は叫んだ。
隆一郎は、額から汗を流し、苦悩の表情を浮かべた。彼の頭から、湯気のようなものが立ち昇っている。
「こうなっては、僕も本当の事を言おう。本物の鏡隆一郎は二十年前に死んでいる」
「ええっ!!」
「麗子、覚えているかい。二十年前、僕が誤ってクレーン車に挟まれたときのことを。僕はあのとき死んだのだ。そのとき父の親友であるロボット工学者の天馬博士が、僕とそっくりのロボットを造り上げた。それが僕さ」
「そんな、信じられない」麗子と涼子は声をそろえて言った。
「ごらん、僕のお腹の中を」隆一郎が自分の腹についた扉を開けると、そこには電気回路がびっしりと詰まり、無数の歯車が回転していた。
「しかし僕は、こんなところでぼやぼやしてはいられない。僕が天馬博士から託された本当の使命は、未知の宇宙空域の調査にあるのだ。ベントラー、ベントラー。これからアルタイル星系に向かわねば」
すると病院の窓から、オレンジ色に光る円盤が飛来するのが見えた。
「では、さようなら!! 地球の皆さんによろしく!!」
隆一郎が靴底からジェットを噴射して飛びたち、円盤に吸い込まれていくのを、麗子と涼子はぼんやりと眺めているだけだった。

(終)

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自己紹介:
 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


 ❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。

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