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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2017/08/20 (Sun) 16:51:59

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No.42
2009/10/16 (Fri) 00:15:50

(これは、作者が mixi日記にてお題を募集し、「ショッピングモール」「バルカン」「ビール」の三語をいただいて三題噺にしたものです。)


航星日誌・宇宙暦0402.3075。われわれエンタープライズ号は、科学士官であるミス・文子(あやこ)の父にして高名な東洋学者・沼波成行(ぬまなみ・しげゆき)氏をお迎えし、惑星ハイドラ4号へお送りする使命を帯びていたが、航程に余裕があるため娯楽施設として名高い惑星エトセラに立ち寄ることになった。

―*―*―*―*―*―*―*―*
「惑星エトセラはなんでも星全体が巨大なショッピングモールのようなものだそうだね」船医であるドクター・マッコイが言うと、カーク船長は
「ああ、中には映画館や遊園地もあって娯楽にはことかかないらしい」と応じた。
「あの頑固なおやじさんが果して喜んでくれるかね」マッコイが渋面を作りながら言った。さすがのマッコイも、沼波博士の扱いには困り果てていたのである。
「磁気嵐が多少吹き荒れていますが、上陸には問題ないでしょう」バルカン人のスポックが言った。何よりも論理を重んじ、感情の表出を極度に嫌うバルカン星人の彼も、心なしかマッコイの困った様子をすこし面白がっている風があった。

転送ビームで、カーク、スポック、マッコイ、そして沼波博士と娘のミス・文子が惑星エトセラに上陸した。その広場では、子供たちがぬいぐるみを抱えて走ったり一輪車に乗って遊んでいた。
「ほほう、人間味にあふれた場所じゃないか。子供というのはそもそも遊ぶべきもので、机に縛り付けて学問させたってロクなもんになりゃしないよ」沼波博士は言った。
「気に入っていただいて来た甲斐があるというものです。何かご希望の娯楽はありますか?」
「川で魚が釣りたい」
「釣りですか。たしか自然公園があります。そう遠くないようですね」
「みんなでぞろぞろ行くには当るまい。それに文子は釣りなんかつまらないだろう、どこかで買い物でもしておいで。スポックとやら、お前はちっとも笑わんから、釣りの面白さを教えてやる。ついてきなさい」
というわけで、沼波博士とスポックは釣り、カークとマッコイと文子はショッピングに出かけることになった。
しかし沼波博士はそこらで遊んでいる子供たちに興味津津で、何度も立ち止まった。
「君は何をしているね」
「おはじき! でもつまんないや」
「おけらめ。たかがおはじきといって軽んじてはいけない、人間どんな小さな遊びごとでも全力を尽くし勝たずんばやまずの心がけが必要だ。闘鶏においても負け癖のついたものを下鳥(したどり)と言って人はこれをはなはだ忌む。それ、おじちゃんが相手だ」
「釣りに行くのではないのですか」とスポックが言うと
「おお、そうだ。ところで君のとがった耳は秀でた知性をよく表しているな。反面瞳の小ささは情愛の薄さを表している。太公望はなるほど智者だったが、それだけでは八十を過ぎたって登用されるはずはない、君も人間の情愛というものをもっと……」
「川に着きました。道具もあるようです」
「よし、釣具の扱い方を教えてやろう。いったい釣竿にもピンからキリまであって、その上等なものとなると好事家は土左衛門の手からでも奪い取るものだ、そこに釣りという趣味の魔力、業の深さが……」
「釣れました」
「なんだ、立派なマスじゃないか、やったな」
「はあ」
「もっと嬉しそうな顔をしろ! 人間の根本は情だ、いくら理において優れても成功の喜びを分かち合うことなしに社会の存立は有り得ない、禽獣が今なお穴居羽衣の状を呈する一方で人類が進歩発展してきた由縁はなんだと思う」
「バルカン人は感情を表にあらわしませんので」
「ならばバルカン人は渇虎餓狼がごとき狂態を呈して滅び去ると断言しよう」
そのときである。川から半魚人のような化け物たちがぞろぞろと姿を現した。するどい牙をむき、シーッシーッという声を発して今にも襲い掛かってきそうである。
「なんだこいつらは!」沼波博士は叫んだ。
「とにかく逃げて!」スポックが博士の手を引いて潅木の茂みに隠れようとすると、沼波博士は一歩も動かずに
「見れば君らは人間と同じに二本足で立っている。人間がこのような立派な建物を建てて日々孜々として努力し今日の発展を見ているというのに、貴様らは十年一日のごとく川底でナマズかなんぞを食ってその日暮しを続けているのであろう、汝らも二本足の人類の端くれならば我らのごとく造化の妙に参与してささやかなりとも文明の端緒を築いても良かろうものを、そのきたならしい、いじけた魚のようなエラを後生大事に生やして生き恥をさらし続ける外道めら、汝らに人の恥が万分の一でも残っているならば己が巣窟に帰って自らに憤り発奮して、善美なる心の陶冶にこれ努めよ」
すると凶悪な顔をした半魚人たちは、しょぼんとしてうなだれ、ぞろぞろともと来た川へ引き返していった。

沼波博士とスポックは広場に戻ってきて、カーク船長らと落ち合った。
「みんな、スポック先生が鱒を釣ったぞ。今夜はこれを焼いて祝杯だ」
「ちょうどよかったわ、ビールを買ってきてるのよ」と文子が言った。
そこらにいくらでもレストランがあるというのに、薪で鱒を焼いて食べるというのはいかにも沼波博士流だった。
皆が酒盛りしていると、暗闇の中から先ほどの半魚人がひとり現れ、気味の悪い蟹の干物のようなものをぽい、と放り出して去っていった。
「なんでしょうか」
「我らに対する礼儀のつもりなのだろう」といって沼波博士はその干物をむしゃむしゃ食べた。「何でも食ってみなきゃ味は分からないよ」

その後、半魚人たちはどうなるのだろうか。幸せに発展するのか、あるいは人類に逆襲を企てるのか、それは神のみぞ知ることである。

(終)

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快文書作成ユニット(仮)
自己紹介:
 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


 ❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。

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