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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2024/04/20 (Sat) 18:58:56

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No.36
2009/10/15 (Thu) 23:59:12

ウミネコワールド・マネージャーの鳥谷は、黒くてスマートな拳銃を僕に手渡した。
「いいですか、われわれ八名の人間は撃たないでくださいよ。いちおうロボットを倒すために作られた電磁気を帯びた弾丸が飛び出しますが、人間に当っても重傷を負いますからね」
「ええ、わかりました」僕は舌なめずりせんばかりの期待に震えながら、鳥谷に照準を合わせてみた。「ところで、銃を持ったロボットはここにはいますか」
「はい。亜警官(mappoid マッポイド)がいます。彼らは銃を抜いたあなたに発砲してくるでしょう。あと、西部劇風の街並みも造られた区画がありまして、そこでは無頼のガンマンたちがいます。彼らもあなたの敵となるでしょう」
「彼らの銃から飛び出す弾は本物なの?」
「まさか。模擬弾ですよ」

こうして僕は、銃の入ったホルスターを腰に吊って、ウミネコワールドを闊歩し始めた。まずは、さきほどのメイドカフェ風の喫茶コーナーに足を向けた。
「いらっしゃいませ、こんにちは!!」
白と黒のメイド服を着た美しい亜メイドたちが、声をそろえて言った。
「コーヒーをもらおうか」
盆にコーヒーカップを載せて運んでくる、透き通るばかりの白い肌の亜メイド。
「おまたせしま」と言い終わらないうちに僕は彼女の胸を銃で打ち抜いた。
一瞬、沈黙につつまれた喫茶コーナー。そこには、友坂夫人や女子高生たちがまだいた。
「きゃーっ」
そこは阿鼻叫喚に包まれた。箒を振り回して追いかけてくる亜メイドたちから逃げながら、僕はなおも彼女らに発砲し続けた。

しばらく走って彼女らをまくと、娼館の立ち並ぶエリアに来たようだ。今ごろ水谷が金髪女性のアンドロイドとねんごろになっているだろう。僕はその中の建物の一つに入った。金髪のアンドロイドが「いらっしゃいませ。どのようなサービスを?」というのを無視して、一番上の三階に登り、拳銃を窓から突き出して様子をうかがった。
どたどたしていると、一つの扉が開いて水谷が素っ裸で出てきた。「おいおい、何事だ」
「お前は金髪の姉ちゃんを抱いてろよ」僕が言うと、水谷はあっけに取られたようすで僕を見ていた。そこへロボット工学者の宮島もあらわれた。彼も素っ裸だった。
「あんた、自分が作ったアンドロイドとセックスしてるのか?」
「いや、最近欲求不満でして、つい……しかし何をなさっているので?」
僕は拳銃をちらつかせた。
「ほう、ロボット射撃ですか。そんな攻撃的なお方とは思いませんでしたが」

「君らは完全に包囲されている! 大人しく銃を捨てて出てきたまえ」建物の外から、青い制服の男がメガホンで訴えかけてきた。
「あれがマッポイドかい?」
「そうです」と宮島。
「ひとつ驚かせてやるか」僕は亜警官の一人に狙いを定めて発砲した。眉間を撃たれて、そのマッポイドは一発で倒れた。すると他の亜警官たちがこちらに向かって一斉射撃してきた。一発の弾が僕の肩に当ったが、赤いペンキが飛び散るだけだった。
「アハハ、これが模擬弾か。痛くも痒くもない」
「あなたもサディストですなぁ」
亜警官たちが散り散りに逃げていくと、急にあたりは静かになった。
「いい女はいるかい」
低い男の声が、ふいに階下から聞こえてきた。
「誰だろう」
「アンドロイドの一人じゃないか?」と水谷。

ぎゅっ、ぎゅっと階段を踏みしめながら、その男はこちらに近づいてきた。
そいつが姿を現した。帽子、上着、ズボン、すべてが黒ずくめの大きな男だった。その黒い男が水谷の姿を認めると「目障りだ」とつぶやいて、平手打ちを食わせた。
「何するんだ!」水谷が飛びかかろうとすると、男は銃を抜いて発砲した。水谷は胸に銃弾を受けて赤い液体を飛び散らせた。しかし、それは模擬弾ではなかった。水谷は痙攣して、本当にこと切れてしまったのである。黒ずくめの男は、帽子を下に落とした。彼はまったく頭髪のない、はげ頭だった。
僕が自分の銃を撃とうとすると、宮島はあわてて制止し、僕を連れて階下へ駆け下りた。
「なんだい、あのハゲ? あいつの銃からは実弾が出たぞ」
「奴はある意味アンドロイドの出来損ないで……ハゲ、正確には亜ハゲ(gehaid ゲーハイド)というべきですが、人間に危害を加えないというロボットにとって最も基本的な頭脳回路が壊れています。とにかく、逃げてください」

僕と宮島が血相を変えてウミネコワールドの入り口近くまで走ってくると、鳥谷が
「どうしたんですか!? 何があった」
「亜ハゲが暴れだした。今回の施設体験は終わりだ」と宮島。
「では女性陣と友坂氏を呼んで船を出しましょう」
死んだ水谷をのぞく七名が船に乗り込み、慌てて出発したが、岸まで追いかけてきた亜ハゲは銃の狙いを定めて、友坂氏の頭をみごとに打ち抜いた。
「おい、もっとスピードは出んのか」と鳥谷は宮島をせかした。

ここはたのしい夢の島
夢かうつつか人の世の
うれいを忘れたひとときの
不思議な蜜のよろこびが
あなたの心をつつみます

亜人魚の美しい歌声が聞こえてくる。
「ほんとにこんなレジャーランドをオープンする気なんですか」僕は言った。
「もちろん。どれだけの大金がかかっていると思ってるんですか」と鳥谷。
「人ひとり死んでるんですよ」と僕。
「あなたが射撃ではしゃぎすぎるからだ」
「もういい。僕は疲れたから寝る。陸に着いたら起こしてください」
僕は舟に揺られながら、この件を警察に届け出る夢を見ていた。
「ハゲのアンドロイドが本物の銃を撃ちながら追いかけてくるんです」
「こんな顔かい?」警官が帽子を脱ぎながら振り向くと、それは亜ハゲだった。

驚いてはっと目が覚めると、僕は病院のベッドに横になっていた。
傍らの椅子で本を読んでいた看護婦がにっこり笑った。「よく眠ってらっしゃいましたね。いま先生をお呼びしますわ」と言って彼女は病室を出て行った。
自分の体をあらためると、僕はウミネコワールドを出たときと同じ格好をしていた。拳銃も手元にある。
まもなく医者が入ってきて「あ、意識が戻られたようで何より」というのを無視して、僕は半狂乱で医師を銃で撃った。医師は頭を撃たれ、どたっと倒れた。
なぜって、その医者が若いハゲだったから。ただ、撃ったあとで気づいたのだが、彼は間違いなく人間の医師だった。

(おわり)

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快文書作成ユニット(仮)
自己紹介:
 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


 ❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。

 ❖ 呂仁為 Ⅱ 〜 昭和の想い出話や親しみやすい時代物、歴史小説などについて書きます。

 ✿ 流火-rjuka- ~ 主に漢詩の創作、訳詩などを行っています。架空言語による詩も今後作りたいと思っています。

 ☃ ちゅうごくさるなし
主に小説を書きます。気が向けば弟のカヲスな物語や、独り言呟きなことを書くかもしれません。

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