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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2024/03/29 (Fri) 16:17:14

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No.237
2010/02/23 (Tue) 00:30:32

ヘルパー1級の資格を得た一つ目のモンスターは、やりがいのある介護の仕事を求めて、N県のさびれた町にやってきた。そこには二つの精神病院が並んで建っていた。どんより曇った空の下、その二つのコンクリートの古い建物は不気味にひっそりとたたずんでいた。リュックを背負ったモンスターは、向うから走ってくる犬を見て驚いた。その犬はなんと、ちぎれた人間の腕を口にくわえているではないか。
モンスターが赴任することになっていた熊沢病院の門のブザーを押すと、しばらくして痩せこけた厳しい目の看護婦が現れた。
「丑寅病院の若い者なら帰っておくれ。いま院長は忙しいんだから」
「何のことを言ってるんだ? 俺は今日からこの病院でヘルパーとして勤めるモンスターだ。履歴書を送ってあるだろう」
「ふーん」看護婦は怪訝そうにモンスターを見つめてから「いいよ。入っておいで」
そのとき、一人の若者が包丁を振り回しながら通りに現れた。老婆と口論している。
「このいくさは天下分け目だ、離してくれ!」
「馬鹿お言いでないよ、何が天下分け目だ、百姓は田んぼを耕してりゃいいんだよ!」老婆は若者のそでを掴んで離そうとしない。
「なんだ、あの騒ぎは? いくさなんてものがあるのか?」モンスターは看護婦に尋ねた。
「あんた何も知らずに来たのかい? 命知らずだね。さあ、まずは院長にお目通りだ」
暗い廊下を渡り、三階まで上がりモンスターは院長室に案内された。
「おお、よく来てくれた。わしが院長の熊沢次郎兵衛というものだ」
「この町は様子が変だな。なにやら不穏な空気だ。説明してくれ」
「うむ。窓から向うの病院が見えるだろう。あっちも精神病院で、丑寅病院という名だ。丑寅という男はもとはこの熊沢病院の先代のときの副院長だったのだ。それがわしの代になって独立するといいだしおった。しかし一つの町に精神病院は二つはいらねえ。そこで二つの病院の若い者がしょっちゅう血で血を洗うケンカをしてるってわけだ」
「若い者? 若い医者同士がケンカしてるのか?」
「とんでもねえ、小競り合いをやってる若い者はおもに患者だ」
「入院患者を抗争に巻き込んでいるのか?」
「そう怖い顔をするな。これは森下博士という偉い精神科医も効果を認めている『狂人の解法治療』にもなっているんだ。狂人が心に抱えている鬱屈したエネルギーを、太古の人類が経験したであろう部族同士の抗争を追体験させることによって発散し、頭をすっきりさせるという効果があるんだ。そしてここに現実の抗争をしている二軒の精神病院がある。相手をつぶし、しかも患者の治療にもなる。一石二鳥というわけだ」
「俺はどういう仕事をすればいいんだ?」
「そのうちケンカにも加わってもらうが、しばらくは簡単な介護でもしながら病院の様子をひととおり見てもらおう」

というわけでモンスターは、まず九十二歳の老人を車椅子に乗せて散歩させることになった。その老人は長谷川という名前の男性だった。
「さあ、長谷川さん。今日はいい天気だ、散歩に行こう」モンスターは介護学校で習ったとおりに車椅子を押しながら、老人に話しかけた。老人は何も言わなかったが、ふところから一枚の写真を取り出してぼんやりと見つめていた。
「それは長谷川さんのお孫さんかな」モンスターが話しかけると、老人はニッと笑った。
「長谷川さん、口の中が変だぜ。入れ歯がずれてるんじゃないか?」モンスターが老人の顔をのぞきこむと、口の中に粘土状のものが詰まっており、そこから黒いコードがのびているのが認められた。
「なんだこれは」とモンスターが言うやいなや長谷川の頭が爆発し、その爆風でモンスターは後ろに吹っ飛ばされた。「た、大変だ、長谷川さんが爆発した! あれはプラスチック爆弾だぞ」
看護士の男がやってきて「丑寅のしわざだ。新入り、油断するな」
「俺なら大丈夫だ。それより向うから敵が来るぞ」
パジャマを着て鎌や日本刀を持った丑寅病院の狂人たちが四名、奇声を発して襲い掛かってきた。モンスターはとっさに辺りに飛び散っていた長谷川老人の四肢を拾い集めると、それぞれを敵に向かって投げつけた。長谷川の右手左手右足左足がそれぞれ敵の喉や腹に突き刺さり、鮮血を飛び散らせてあっという間に四人の相手はこと切れてしまった。

「おい、とんでもねえ奴が来たじゃねえか」丑寅病院の院長、丑寅小太郎はつぶやいた。そして部下の若い医師に向かって「おい、俺の考えてることが分かるか!? モンスターをこっちに抱き込んで熊沢の野郎を一気に叩き潰すんだよ! そのためには一万両払ったって惜しくはねえぜ」

またもや暴力沙汰に巻き込まれることになったモンスター。彼はこの町でも生き残ることができるのか?


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快文書作成ユニット(仮)
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 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


 ❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。

 ❖ 呂仁為 Ⅱ 〜 昭和の想い出話や親しみやすい時代物、歴史小説などについて書きます。

 ✿ 流火-rjuka- ~ 主に漢詩の創作、訳詩などを行っています。架空言語による詩も今後作りたいと思っています。

 ☃ ちゅうごくさるなし
主に小説を書きます。気が向けば弟のカヲスな物語や、独り言呟きなことを書くかもしれません。

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 我ら一同、只管に【快文書】を綴るのみ。お気に入りの本の頁をめくる感覚で、ゆるりとお楽しみ頂ければ僥倖に御座居ます。









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