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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2024/04/21 (Sun) 00:02:59

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No.238
2010/02/24 (Wed) 04:03:04

登場人物

アデライン  天才科学者にして絶世の美女。十九歳。
セバスチャン アデラインの執事。彼女によって造られたアンドロイド。


アデラインとリヴィング・アルバム

「セバスチャン、ちょっと来てちょうだい」
アデラインに呼ばれて、第三実験室に来たセバスチャンは目を丸くした。そこにはアデラインとそっくりの少女が、十数名もひしめき合っていたからである。
「これは立体映像ですか、お嬢様?」
「ううん。リヴィング・アルバムっていうの」といって、たくさんの少女に混じって一人だけ白衣を着ていたアデラインは、手元のコントローラーを操作して他の少女をすべて消してしまった。「つまり生きたアルバムってこと。さっきのは一年刻みで過去のあたしの実物を実体化してみたの。つまり十八歳のあたし、十七歳のあたし、十六歳のあたし、という具合に一歳のあたしまで合計十八人がいたことになるわね」
「これは何の役に立つのですか?」
「もともと教育研究所ってところから依頼されて、教育者育成に役立つ研究なら何でもいいからっていうんで自由にやらせてくれてたの。そこで思いついたわけ。教育者が、実物の幼少時の自分と会って話ができれば、子供の心理を知るのに役に立つんじゃないかって」
「なるほど。誰しも大人になれば子供のこころを失いがちですしね。しかしああもたくさんのお嬢様がいらっしゃると、目を回しそうです」
「ふふふ。明日、教育研究所の所長さんがお見えになるから、今の私も入れて十九人のアデラインを披露しようってわけ。プレゼン効果はきっと抜群だわ。そうしたらまた補助金がたっぷり出て、普通ならできないような基礎研究に打ち込める」
「成功を祈ります。しかしもし十九人のお嬢様がめいめい勝手な行動をとられたら、わたくしどう収拾をつけてよいやら分かりかねます」
「十八人のアデラインは一分ほど見せてすぐに消すから大丈夫よ。あとは適当に幼少期のあたしを一人実体化させて、所長さんにインタビューしてもらうって段取り」

翌日。地球連邦第一教育研究所の所長と、科学省の幹部二名がアデライン邸に訪れた。
セバスチャンが出した紅茶を飲みながら、三人はアデラインによる「リヴィング・アルバム」の意義の説明を聞き入った。
「では、このリヴィング・アルバムをちょっと実演してみましょう。セバスチャン、テーブルをどけて……はい!」
一瞬のうちに鏡の館に迷い込んだかのように、アデラインがずらりと十八人そこに並んだ。といっても服装はさまざまだから、年齢は違えど同じアデラインだと来客が理解するのに数秒はかかった。
「どうです。まさに生きたアルバムです。さ、お隣のアデラインから順番に年齢をどうぞ」
「十八歳」とブルーのセーターと黒いパンツスーツのアデライン。
「十七歳です」とライトグリーンのワンピースを着たアデライン。
「十六歳!」白いブラウスと黒のミニスカートを来たアデライン。
「十五歳」
「十四歳」
「十三歳」……と、一歳のアデラインまでひととおり発声したところで、アデラインはコントローラーのスイッチを切り、全員をきれいに消してしまう予定だった。しかし……。
「あれ? ちょっと待ってくださいね」十八人のアデラインは依然としてそこに立っていた。「バッテリーが切れたのかしら……違うわね、もっと根本的な問題だわ。すみません皆さん、実験室に戻りますから、少々お待ちください。ほらみんな、第三実験室に行くのよ」

「さてと」十八人の過去の自分を実験室に押し込んだアデラインは、装置の不具合の原因を確かめるべく極微のテスターを操り始めた。
「何よ。十九歳にしては頼りないわね」と、勝気な十二歳のアデラインが言った。
「静かにしてよ。集中できないじゃないの」と十九歳のアデライン。
「あたし、気になってたんだけど……」と今度は十七歳のアデライン。
「何? いま忙しいのよ」
「あなた、今アランと付き合ってる?」アランは十七歳当時のアデラインの恋人だった。
「え、アラン? とっくに別れたわよ」
「なにそれ!? あなたが振られたの?」
「あたしが振ったの」
「信じられない。あたしこれからアランと話してくるわ」
「うーん、ややこしいときにややこしい話を蒸し返さないでちょうだい! あなたはここから一歩も外には出しませんからね。アランとよりを戻そうなんてもっての他よ」
すると十七歳のアデラインは指環からレーザーを発射し、勝手に実験室の壁に穴を開け始めた。
「もう! 大事な仕事の邪魔をしないでちょうだい!」といって十九歳のアデラインはブレスレットから麻痺光線を発射し、十七歳の自分の動きを止めた。「見なさい、十六歳のあたしを。あんなに大人しいじゃないの」
十六歳のアデラインは部屋の隅のソファに腰かけ、なにやらボソボソと熱心に独りごとを言っていた。彼女はラッキョをペンダントにして首からさげ、植物と話す通話機を使って絶えずラッキョと意思疎通していたのだ。そう、当時のアデラインはラッキョが恋人だったのである。
しかし十五歳のアデラインは白いベレー帽から何やら薬品を取り出して、床を溶かしにかかっており、十四歳のアデラインも特殊なヘヤピンで天井に穴を開け始めていた。
「セバスチャン、ちょっと来て! もう大変なの!」
執事が実験室に来てみると、そこは煙や火花が飛び散って大変な惨状を呈していた。
「あなた、セバスチャンっていうの。召使いね? あたい、退屈だわ。どこかに連れてってちょうだい」と二歳のアデライン。
「駄目よ、セバスチャンはあたしと遊ぶのよ」と一歳のアデライン。
「ちょっと通してください……お嬢様、ここは私が何とかしますから、別な実験室に移られては」セバスチャンは言った。
「本当に大丈夫? じゃ、悪いけど頼むわね」と言ってアデラインは、静かな第十実験室に行ってリヴィング・アルバムの修理に専念することにした。

一時間後。
「ふう。やっと装置が直ってみんなを消せたようね……ところでどうやってみんなを大人しくさせていたの?」アデラインはセバスチャンに尋ねた。
「みんなでビンゴゲームをやったのですよ。皆さん夢中になっておいででした」
「何か賞品を出したの?」
「金塊です」
「そんなものがうちにあったの?」
「正確には金塊のある場所の地図といいますか。以前ロジャーお爺様の遺産である砂金を、私とお爺様とでイオから持ち帰ったことがあったでしょう。あのとき少し大きな金塊が宇宙船に積みきれませんで、イオに残してきたのです。その大まかな場所を書いた地図を賞品として出したわけです」
「それ、どんな地図よ?」
「ええ、こういう地図を」といってアンドロイドの執事は、正確無比な衛星イオの地図をさらさらと紙に描いた。
「ちょっと出かけてくるわ!」といってアデラインはその地図をひったくり、自家用ロケット発射台へ猛然と駆けていった。
「あ、お嬢様! それは嘘の情報ですよ! もうイオには金塊はありません」というセバスチャンの声もアデラインの耳には届かず、彼女はロケットを噴射させてあっという間に空の彼方に消えていった。
「やれやれ」セバスチャンはみんなが騒いだ第三実験室の後片付けをしながら、ひとつ大きなため息をついたのだった。


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 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


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