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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2017/08/20 (Sun) 16:59:46

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No.328
2010/08/04 (Wed) 16:37:22

閑自訪高僧
烟山萬萬層
師親指歸路
月掛一輪燈

ふらりと出で立って高僧を訪ねにでかけた。
その道は、烟雲たちこめる、幾万層とも畳なわる山なみのかなた。
やがてそこを辞し去るわたしに、師は親しく帰路を指さして教えたもうたが、
見れば月は一輪のともしびを掲げて、その道を照らしてくれていた。

(寒山詩より。入矢義高訳)

その師は高僧といってもずいぶん若く見える人で、親しく教えを受けること三日、短い滞在だったが、この師と過ごした時間は実り多いものだった。
さて明日の午前に所用があるため、夜の山道を帰ることになった。師は夜道であるし最も安全な道を教えてやろうというので、山並みを指さして道順を説明し始めた。
「まずここを道なりに一里ほど歩きたまえ。白い大きな岩があるから、そこで直角に右に折れる。白い岩はまわりから浮き出て見えるほど白く、ことに今夜は月光に照らされているだろうから見間違える心配はない。で、さっき言ったように右に曲がってまっすぐ行くと、やがて川が見えてくる。その川を渡らなければならないが、古い橋があるからそこを通ればよい。ただしこの橋はそのむかし大勢の人柱を沈めて作られたものだから、夜になると犠牲になった人々の苦しみや無念のうめき声が聞こえてきて、ともすれば亡霊が君の足を引っ張って川に引きずり込もうとするだろう。川を渡り終えるまでに二回は水に落ちることになるだろうね。そして川の底には夜行性の鱷魚、つまりワニがいて、まあ手足の一本や二本は食いちぎられる覚悟が要るな」
「は……はぁ……もっと安全な帰り道はないのでしょうか」
「ないね。別の道で行こうとしたら、出会ったら即あの世行きになる魑魅魍魎がうようよしているからね。さて君がなんとか川を渡り終えたら、こんどは古い街道に出る。通称水子街道だ。小さな池があるのだが、むかし周辺の集落で女が堕胎したら、子を汲んだババァが必ずそこに水子を捨てたんだな。それでその街道では、今でも夜な夜な不気味な水子の声が聞こえてくる。ホンギャアホンギャアとそれは気味の悪いもので、これを聞いたら常人ならまず発狂するね。だから耳をふさいで大急ぎで駆け抜けろ。水子の霊が二三体くっついてくるだろうがこれは仕方がないから、背中に油を塗って火をつけて退散させる。君に油をあげよう」
「背中が焼け焦げてしまうのではありませんか」
「それはそうだが、背中と命とどっちが大切か、天秤にかけてみるんだね」
「水子街道を抜ければ、もう安全ですか」
「いや、その次には首切り爺さんとその一家に出会うだろうね。気の狂った一家で、旅の者をつかまえては首をはね、その首を祭壇に供えて邪神に祈りを捧げるのだよ。狡猾な一族で、そこを通りかかった者の千人のうち九百九十九人までは首をはねてしまうだろうな。だから君が生きてそこを抜け出るのは千に一つの確率だね。しかしこれでも安全な道なのだ。他の道を通っていこうとしたら万に一つも助からないのだから」
「そうすると、やはり出発は夜が明けるまで待ったほうが良さそうですね」
「僕ならそうするね。ところで意地悪を言うようで気が引けるのだが、今晩は宿泊料をいただくよ」
「はぁ、いかほどでしょうか」
「金は要らないんだ。実は数年前から心臓を悪くしてね。いくら修行を積んだ禅僧でも命は惜しい。そこで君の心臓をもらいたいのだよ」というと師は懐から柳刃包丁を取り出した。「君は刺身にしても美味そうだね」
「やっぱり今晩のうちに出かけます」

さて高僧のもとを発って道を一里ほど進むと、師の言ったように白い大きな岩が輝いていた。そこに錆びた鉄柱が転がっているのが見て取れた。起こしてみると、古いバス停のようだった。
「待てよ、これによると午前三時にバスが来るんじゃないか。それまでここで待っていよう」
「お晩です」
「誰だ君は」
「大昔に川に人柱として埋められた犠牲の者ですよ」
「君は幽霊なのか。人を川に引きずり込むという……」
「そんなことしやしませんよ。タバコありますか」
「ああ」
二人で煙草を吸っていると、しばらくしてエンジンの音が聞こえ、バスのライトの光が見えてきた。バスが停車した。
僕は自分が金を持っていないのに気がついた。
「バス代、貸してくれないか」僕は亡霊に言った。
「私もすっからかんなんですよ」
「じゃあ無賃乗車するか」
「そうですね」
バスの乗客は僕と亡霊の二人だけだった。亡霊は話してみると気のいい奴だった。
「こんどメイド喫茶に行きませんか」亡霊が言った。「冥土の土産になりますよ」
「月がきれいだね」僕はそのつまらない駄洒落を無視して言った。

(終)

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快文書作成ユニット(仮)
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 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


 ❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。

 ❖ 呂仁為 Ⅱ 〜 昭和の想い出話や親しみやすい時代物、歴史小説などについて書きます。

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 ♘ ED-209 〜 PNの由来は映画『ロボコップ』に登場するオムニ社の敵役ロボットからです。今まで書き溜めてあった自身の体験談やコラムを発表するには良い機会と思い寄稿させて頂きました。是非、御読みになってみてください。そして何より皆さんに楽しんで貰えれば嬉しいです。

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