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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2024/04/20 (Sat) 05:10:13

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No.551
2012/03/16 (Fri) 21:44:30

 数年間、電話料金を余分に払っていたことに気づいた。昔インターネットを始めたころ、ネットに接続しているときは電話での通話が出来なくなる、と聞いてひとつ余分に電話番号を作ったのだった。常時接続が当たり前の世の中になって久しいのだから、うかつなことだったが、僕は解約せずにその余分の番号の料金を払い続けていたのだ。NTTとしては、一家で二つ番号を使う家庭もあろうけれど、回線を光にしたときやひかり電話にしたときに助言してくれても良かったのではないか。NTTに悪気はないのだろうが、この「いじわるされた感」は拭い去れないものがある。NTTはその辺のサービス向上がいちじるしく遅れていると思う。

 ずっとパンクしていて乗れなかった自転車を修理しに行った。前輪後輪ともに空気が抜けていたから、両方チューブを替えるつもりで自転車屋に行ったが、前輪は自然に空気が抜けたものでパンクではないとのこと。後輪はチューブが傷んでいるが、タイヤの亀裂が原因で、チューブだけ替えても良いが、高くつくができればタイヤも交換したほうが良いらしい。もともと両輪とも修理する予算を用意してきていたから、チューブとともにタイヤも換えるよう伝えると、自転車屋は張り切って作業を始めた。修理が済むとベルが外れて無くなっているのに気づいた。ベルも付けてくれ、というと自転車屋は、なんと気前の良いお客だろうといわぬばかりの笑みを浮かべた。僕はそのときパイプでも吸ってみせたいぐらいに裕福な人間の気分を味わった。

 その足で焼きたてパン屋兼喫茶店に寄って、アメリカンコーヒーをすすっていると、窓から見える富士山がいきなり大噴火を起こした。その衝撃で客たちは皿を取り落としコーヒーをこぼした。そして真っ赤な溶岩が山頂からあふれ出し、こちらに向かって流れてくる。すわ一大事とみな慌てふためいていたところ、富士山の遥かかなたの空から魔王とその眷属と思しき怪人奇獣たちが天をかけってきた。魔王は六頭の虎に引かせた車に乗り鞭をふるって怒号を発していた。魔王が巨大な剣を抜くと驚くまいことか日輪がじゃらんばらんと銅鑼のような音を立ててびりびりと震えた。魔王の後ろに従う無数の黒豹は溶岩のあふれる富士山の斜面を駆け下りてきた。その大きな豹たちは鉄のごとき爪で自動車やトラックを踏み潰して近づいてきた。タンクローリーは火を噴き、横転したバスは乗客の阿鼻叫喚に包まれた。
 私は落ち着いてパイプを吹かし、その様子を悠然と眺めていた。私は魔王に大声で話しかけた。
「愚かしきかな大魔王、虎を駆り八極に遊び、その指のさし示すままに日月は逆行し、宴には千万年の長寿をもたらす酒杯を欲しいままにするほどの汝が、西は崑崙山脈の峨々たる霊峰、南は天竺の九万尺に及ぶ大山を踏み潰すならいざ知らず、高の知れたる富士山ごとき小峰に火を噴かせ魔王の威を張るとは笑止千万、おおかた魔王の仮面をかぶる狐の化け物の類でもあろう、車から降りて正体を見せ、いざ尋常に勝負いたせ!」
すると大魔王の頭の冠が割れ、その黒い顔面にもひびが入り中から邪悪な大狐の顔が現れた。いままで車を引いていた虎も、いつの間にか子狐に姿を変えていた。
「ひひひ、よくわたくしの正体を見破ったわね、まさしく私は蛾眉山中にて三千人の人魂を食らって霊力を得た大狐。そういうお前はいったい誰なんだえ」
「性悪狐を殺す男だ。それだけ知って冥土に行けい!」私は北の空からしもべの鶴を呼び寄せ、その背中に乗って大狐の頭上をくるくると舞い飛び、ころあいを見計らって千手院村正、そのむかし徳川家を呪ったとされる稀代の妖刀を抜き、えいやとその化け物の首を打ち落とした。その首は富士山頂からごろごろと転がり落ち、件の喫茶店のガラス戸を打ち破って入ってきて、焼きたてパンと狐の血の匂いが入り混じった異臭が立ち込めた……かに思えたときに目が覚めた。ここは大阪だ。窓から富士山など見えようはずがない。僕はカップに半分ほど残ったアメリカンを飲み干し、喫茶店を出た。

 ユイスマンスの作品は『彼方』しか読んでいないが、その小説は黒魔術について詳述するクライマックスがある一方で、風景描写に優れた作家であることをうかがわせる。古本屋サイトでこのユイスマンスの『出発 苦悩と高邁の神秘学』『腐爛の華』『ルルドの群集』などが売られていて気になっているが、面白いのだろうか。ちなみに『黒ミサ異聞』という本もあるが、これは『彼方』の不完全訳らしく、間違って買ってはいけない。ユイスマンスは黒魔術からカトリックに改宗したそうだが、キリスト教に縁遠い僕らが読んでもピンと来ないような作品もあるのだろうか。

 レ・ファニュの『吸血鬼カーミラ』は持っていたはずなのに家の中に見当たらない。この映画化である「血とバラ」をYoutubeで見たが、ロジェ・バディム監督だけあって美女がたくさん出てくる。趣があっていい映画だった。


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快文書作成ユニット(仮)
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 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


 ❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。

 ❖ 呂仁為 Ⅱ 〜 昭和の想い出話や親しみやすい時代物、歴史小説などについて書きます。

 ✿ 流火-rjuka- ~ 主に漢詩の創作、訳詩などを行っています。架空言語による詩も今後作りたいと思っています。

 ☃ ちゅうごくさるなし
主に小説を書きます。気が向けば弟のカヲスな物語や、独り言呟きなことを書くかもしれません。

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 我ら一同、只管に【快文書】を綴るのみ。お気に入りの本の頁をめくる感覚で、ゆるりとお楽しみ頂ければ僥倖に御座居ます。









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