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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2024/05/16 (Thu) 08:28:07

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No.545
2012/01/27 (Fri) 15:07:41

 つい先日、古書街を得意先回りの帰りに歩いていたら「都電 懐かしの街角」というのが目を引いて、ペラペラと白黒の昭和画像のページをめくるうちにタイムスリップした気分になり衝動買いしてしまった。

 昭和の初期から庶民の足として、戦時中は軍需工場へ移動する工場労働者の足として、急速に発達したがやがて台頭してきた戦後の復興~高度成長期には路上をノロノロと12,3kmで通行する路面電車は邪魔者にされ、地下鉄路線網の整備進捗とともにやがて姿を消していく。
 都電の姿が消えていく順に地下鉄が整備されていく様子がよくわかる。

 都内の随所で細く長い散歩道のような公園や、みどりの小道などの名称で親しまれる公園を歩くと結構、片隅に動輪や線路の一部を遺した記念碑があり、そこに走っていた都電を偲ばせる。
 確か荒川遊園地?に行けば昔の何型かしらないけど旧い都電が鎮座していたと思う。トロリーバスと言うのもあったと思う。

            


 幼稚園か小学1,2年あたりにおぼろげな乗車した記憶と景色の思い出が一冊の写真集から甦る。黄色かグリンに塗られた素朴でユーモラスな車両が往来の真中をゆっくりと走っていたのは覚えてる。たまに、何処かの商店や事務所に飾ってある写真や、昭和の日付で描かれた日にちの入ったスケッチや水彩画などを目にすると立ち止まってしまう。
 昔の映画のポスターも往時の記憶の断片を見た思いがする時はあるが、これはまた違うノスタルジーだ。映画「三丁目の夕日」の続編が公開されて好評のようだがどちらもまだ見たことはない。

 セブンイレブンで、キャンペーンのトミカやマーブルチョコを扱っていたが、早くも見切られ始めた。もう少し、専門店やデパートの玩具売り場などできちんと売り場展開を継続すれば・・・とも思うのだが映画が終わるころにはキャンペーン商品も片付けたいのだろう。それが時代のスピードだ。

 都電が走っていた頃は、三和銀行とか富士銀行とかいろんな都市、ローカル銀行がたくさんあって、口座を開くと三匹の子豚やアトム、そしてミラーマンなどのキャラクター貯金箱を窓口でくれたと思う。これも立派なキャンペーングッズだった。
 ブルマアクなどで出していたいわゆるソフトビニール(ソフビと縮める言い方はどうも慣れないが)人形は今のそれと比べると格段に頭でっかちで顔がでかい。
 それより更にユーモラスなのがキャラクター貯金箱だ。大事に10円や50円、100円と貯めるのだからユーモラスより不細工なのはある意味仕方ない。

             

 今の銀行ではくれるのかどうかも知らないし、カードで皆コンビニでも済まされるからそんな貯金箱を目にする銀行へ行かなくなった。

 行ったところで、グローバル・スタンダードか自己資本比率かリーマン・ショックだか分からないけれど「搾取する側の目論見」で統廃合が進み、都電が通った通りの角にはシャッターが下りて何年も経ち、「○×へ移転しました。永らくの御愛顧を・・」などと書かれた黄色に変色した紙がウインドに貼ってある。
 やがてそれもなくなり再開発なんとか計画などと称してその建物はマンションに変わっていく。ユーロもドルも駄目、世界恐慌の前触れのような金融不安が世界的に・・・なんて記事や報道は嫌でも目につく。

 求めた写真集にはいくつかのこんな文章が書いてある。


 「都電は日本が経済成長を遂げた時代に下り坂を転げるように消え去っていった、時代の夢から裏切られ時代と擦れ違い続けた都電」

 「人から馬鹿にされてるような気がし、他人の目が気になっていた年頃に都電と出会った。時代遅れ、邪魔者扱いされながら健気に働く姿に、己の未熟さを痛感した」


            

 「その虫のような、しかし辛抱強い都電の動きが、立ち止まっていた自分の背中を押してくれる気がした」


 移動や通勤にも多少のラッシュはあっても、それほどの不快感を感じない便利な時代だ。
 通勤や通学にゲームをするのは老若男女共通だし、「スマホ」というガラスの板を懸命にこすれば夢の世界が待っている。
 音楽を聴くのも携帯かチューイン・ガムくらいのMP3にヘッドフォンを挿せばいい。音も快適だ。

 貧乏だったあの時代が脳裏をよぎる。
 便利になった暮らしからはあの時代に戻れない。
 ただ、あの時代、都電が走っていたあの頃のたくましさや気概が何処に消えたのか
・・・?変わったのか?なくしたのか?

 亀戸で観る軌道跡の公園は桜の名所に今はなっている。
 近所には大きな商業施設もある。

 軌道の跡、線路と動かなくなった動輪は、雪が降っても桜が咲いてまた散っても、物も言わずにひっそりと其処に佇んでいる。



 (c)2012 Ronnie Ⅱ , all rights reserved.




 ☆ 索引 〜 昭和の憧憬  へ戻る
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No.542
2012/01/24 (Tue) 22:18:09

 人工冬眠装置の温度が徐々に高まり、そこに眠っているバイアンズの四人のメンバーが次々と目を覚ました。セカンドの獄目鬼(ごくめき)、ファーストの火戸羅(ひどら)、ライトの鹿羽根(しかばね)、それに控えの外野手だった魔具虎(まぐどらー)。
 監督であるモンスターを除いて、今まで起きて任務についていた四人のうち、六減(ろくふぇる)と零刻苦(れいこっく)の二人が松平に殺され、生き残ったのはショートの牟残(むざん)とキャッチャーの兀奴(ごっど)である。つまりもともと三十名ほどいたバイアンズのメンバーも、今は六人だけが残っていることになる。
 土星の衛星タイタンの大気圏に突入態勢に入った宇宙船ドリムーン号だが、高性能のコンピュータ・ズバットが松平によって破壊された今、モンスターによる手動操縦に頼らねばならず、危機に瀕していた。
 船内が猛烈な熱を持ち始めた。
「船内温度、五十二度。なおも上昇中!」兀奴が言った。
「この船が燃えつきずにいられるかどうかは神のみぞ知る、だな」モンスターがつぶやいた。
 やがて船内の温度は下がりだした。
「よし、ひとまず大気圏突入は成功だ。牟残、外の様子はどうだ?」
「前方に厚い雲が見えます。どうやらその下は嵐ですね。液体メタンの雨と大風が吹き荒れていると思われます」
「松平、こんな窒素とメタンだけの星にあんたの妹さんがいるとはとても思えんがな」とモンスター。
 しかし松平はそれには答えず、黙ってメインスクリーンを凝視していた。そしてふいにブリッジから出て行った。

「監督、ドリムーン号の二番ハッチが勝手に開きました!」
「何? 二番ハッチの映像を出せ」
 するとスクリーンに、サングラスをかけた松平平平がパラシュートを背負って船から飛び降りるのが映し出された。
「あのおっさん、酸素ボンベなしで出てったぜ」兀奴がいうと
「真空の宇宙でも平気だったやつだからな。今後も松平には油断するな」とモンスター。
 やがてドリムーン号は地表に着陸した。モンスターは一同に向かって
「さて、バイアンズの諸君。われわれの任務は、タイタンでのエイリアンの生態系の調査だ。知っての通りエイリアンは危険きわまりない怪物だが、彼らと戦いに行くのではない。やむをえない場合を除いて、エイリアンとの無用な衝突は避けること。いいな。では各自装備を準備。雨が上がったら地表の探索に向かう」

 やがて液体メタンの雨がやんだ。特殊な宇宙服を着て、モンスターとバイアンズのメンバーはタイタンの砂漠を歩いていった。遠くに丘が見え、ひとまずそこを目標地点と定めた。
 二時間ばかり歩いて目標の丘に到着したが、エイリアンの生息している気配はまるでなく、ただセピア色の砂漠が延々と広がっているだけだった。
「ここで小休止しよう」モンスターが丘のふもとで言った。「兀奴、探知機に生命反応はないか?」
「何も反応ありません」と兀奴。「少なくとも松平の反応はあっていいはずなんですが」
「おい、これ何だ?」火戸羅が、丘の側面に出来た断層を注視していた。
「きらきら輝いている……ダイヤモンドじゃないか?」と牟残。「しかもこれは原石じゃない。明らかに人の手が加わっている」
 バイアンズのメンバーは、断層から見え隠れしているダイヤモンドを掘り出そうとしてスコップでつつきまわした。
「これは古い文明があった証拠だ。掘り出す前に写真を撮るから皆そこをどいてくれ」
 モンスターが言ったが、バイアンズのメンバーはダイヤモンドに目の色を変え、掘り出し作業をやめる気配はなかった。
「おいみんな、我々の使命を忘れてるんじゃないか? そこをどくんだ」
「うるせえ」火戸羅がダイヤの大きな塊りでモンスターの頭をぶんなぐった。
「ぐおっ」モンスターは昏倒し、その場に伸びてしまった。

「お前は誰だ?」モンスターに誰かが尋ねてくる。
「俺は、モンスターだ。一つ目の、無敵のモンスター」
「ここで何をしている?」
「思い出せない……ここはどこだ。天国か?」
「天国? 悪魔の毒々モンスターが天国になんか行けるもんか」
「では地獄か?」
 しかしそれには返事がなく、轟々と吹き荒れる風の音が聞こえてきた。
 モンスターは意識が朦朧としていた。どうやら今の声は幻聴だったようだ……そう、俺はエイリアンの探索にタイタンまで来ていたのだった。そして殴られて……。
 目を開けるとそこは暗闇で、息苦しかった。手を伸ばすと壁にぶつかる。どうも棺桶の中にでも入れられているような具合だ。力いっぱい手を上げると、棺のふたが開いた。目に飛び込んできたのは蛍光灯の光だ……。
「モンスター君、目が覚めたのかね?」近くから声がした。
 起き上がってみると、そこは和室で、松平平平がこたつに入ってこちらを凝視していた。
「いやいやいや君が植物人間になってしまったのではないかと心配しておったのだよ」松平が言った。
「ここはどこだ? 日本か?」
「そんなはずないじゃないか、タイタンだよきみ」
「タイタンのどこにこんな家があったんだ?」
「ここは私の妹の家なんだよ。紹介しよう、妹の松平竹子(まつだいら・たけこ)だ」
 見ると松平の隣に、おかっぱ頭をした安倍晋三元総理そっくりの人物がいた。まるで男のような顔だし、男の声で
「はじめまして、モンスターさん。いつも兄がお世話になっております」
 と言ったが、これが松平竹子らしい。
「竹子、お茶を入れてきなさい」松平平平が言うと、その安倍元総理そっくりの女が「はい」と言って席を立った。
「そしてモンスター君、こちらがお隣に住んでいるテッキク君だ」
 見ると、こたつにエイリアンも入っているではないか。そのエイリアンは押し殺したような低い声で
「よろしく、モンスター君」
 と挨拶した。
「ちょっと待ってくれ、あんたエイリアンとどういう関係なんだ?」モンスターがうろたえて尋ねると
「どういうもこういうも、ただの茶飲み友達だよモンスター君。断っとくがこれは愛人じゃないよ」松平は真剣な顔をして言った。
 エイリアンと人間が友好関係を結べるとは……さっきの安倍元総理そっくりの妹といい、俺はまだ夢を見ているんじゃないか? モンスターは何がなんだか分からないというふうに頭をかきむしった。
「これは夢じゃないんだよ、モンスター君。そうだ、テレビでも点けよう」
 テレビに、ドリムーン号を後ろにして整列したバイアンズの面々が映し出された。牟残や兀奴、魔具虎らが、アナウンサーと談笑していた。手にはダイヤの指輪をいくつもはめている。
「さて、タイタンへの探検で巨万の富を得たIRバイアンズのメンバーです。地球に帰還して以来多忙な日々を送っておられる皆さんですが、今日はお忙しい合間を縫って、インタビューに答えていただけることになりました。皆さん宜しくお願いします」
「宜しくお願いします」
「さて、本来モンスターさんとタイタンへ探検に赴いていたバイアンズですが、モンスターは不幸な事故に遭って亡くなってしまいました。改めて今のお気持ちをお聞かせください」
「モンスター監督は、一生の恩人です」火戸羅が涙ぐみながら言った。「それが探検の最中、砂漠の流砂に飲み込まれて……必死で助けようとしたんですが」
 バイアンズの六人は、みな涙を浮かべて嗚咽していた。
「思い出した! 火戸羅が俺を殴ったんだ!」モンスターは叫んだ。「畜生、俺を置いて勝手に帰るばかりか、ダイヤに目がくらんで俺を抹殺しようとしたな!」
「へえー」松平平平と竹子はみかんを食べながら無関心そうに言った。
「よし、これからお前らバイアンズのメンバーに復讐してやる! 首を洗って待ってろよ」
 モンスターはみかんを握りつぶしながら叫び、復讐の鬼となることを心に誓ったのだった。


(c) 2012 ntr ,all rights reserved.
No.541
2012/01/24 (Tue) 00:06:00

「みんな、みんな、いずれはエイリアンに殺されちまうんだ!」バイアンズの控えピッチャー、六減(ろくふぇる)が叫んだ。顔面を蒼白にして、体をがたがた震わせている。
 ここはIR鉄道が派遣した宇宙船ドリムーン号の中。少年野球チーム・バイアンズのメンバーと監督である一つ目のモンスターが、この宇宙船に乗り込み、土星の衛星タイタンに向けて旅立ってから、八カ月がたっていた。目的はタイタンにおいて、エイリアンをはじめとする宇宙生命体の生態系を調査することである。
 リーダーのモンスターは、バイアンズのメンバーをえり抜きの戦士として頼りにしていたが、ここに来て一つの誤算が明らかになった。地球では強心臓の抑えのピッチャーだった六減三蔵(ろくふぇる・さんぞう)が、宇宙病とでもいうのか、極度に神経質になってエイリアンの影に怯えだし、ノイローゼ状態になってしまったのである。
「六減はタイタンにつくまで人工冬眠させておいたらどうですか?」ショートの牟残(むざん)が提言した。
「駄目だ。人工冬眠装置は四つしかないし、その四つは旅の前半の任務を終えたメンバーが使っている」モンスターが言った。その四人とは、セカンドの獄目鬼(ごくめき)、ファーストの火戸羅(ひどら)、ライトの鹿羽根(しかばね)、それに控えの外野手だった魔具虎(まぐどらー)だった。現在目を覚まして任務についているのは、いま発言した牟残、レフトの零刻苦(れいこっく)、キャッチャーの兀奴(ごっど)、それにピッチャーの六減の四人と、監督のモンスターである。モンスターはリーダーという立場からずっと起きてドリムーン号の操作に当たっていたが、バイアンズの八人はタイタンにつくまで、公平に四人ずつ人工冬眠させることになっていた。

「まあ、僕だって六減の代わりに起きて任務につけと言われたら、腹は立ちますがね」
「零刻苦、六減に鎮静剤を飲ませてやってくれ」モンスターが指示した。
 しばらく鎮静剤の効果でぐったりと落ち着いていた六減だったが、やがてブリッジの席を立ってふらりと出て行こうとした。
「おい、どこへ行く?」牟残がいうと、
「展望室にいって頭を冷やしてくる」

 ドリムーン号の中央上部に位置する展望室は、もともと天体観測などのために作られた部屋で、見晴らしが良かった。六減は星を眺めるのが好きというわけではなかったが、居心地のいいしつらえの部屋で、ときどきここに来てひとり物思いにふけるのだった。
 ふと窓の外に目をやると、ドリムーン号の左翼、二号ジェットの上あたりに見慣れぬオレンジ色のものがチラチラと動いているのに気がついた。六減がそちらへ望遠鏡を向けると、信じがたいものが目に入った。サングラスをかけた中年の男が、オレンジ色のTシャツにトレパンといういでたちでそこに立っているのである! 外はもちろん真空であり、宇宙服を着ずに平気でいられる人間などありえようはずがない。さらに観察を続けると、男は傍らに置いたゴルフバッグから一本クラブを取り出し、それを使って左翼の装甲板の一つをはがしにかかったではないか。これはゆゆしき事態である!

「監督、監督!」六減は急いでブリッジに戻り、事の次第をモンスターに話して聞かせた。
「今度は幻覚か? そんなことあるわけないだろう」兀奴(ごっど)が呆れていった。
「念のため左翼をスクリーンに映してみよう」モンスターは言い、メインスクリーンにダークグリーンの広い翼が映し出された。「六減、どの辺だ?」
「二号ジェットの上です」
「何も見当たらんがな」
「さっきは確かにいたんです。宇宙服を着ないで、そこに立ってたんです」
「ま、とりあえず今のところは異常なしだ。もうすこし休んだらどうだ」
「監督、信じてください。確かにいたんだ」

 六減はそういうと展望室に駆け戻って、また望遠鏡で左翼を拡大して観察した。やはりサングラスの男が見える。その男はにやりと笑って、巨大な木づちで船体を破壊し始めた。
「このやろう、ドリムーン号を壊す気か!?」六減が叫ぶと、不審者はそれが聞こえたかのように望遠鏡のほうを見てにやりと笑い、サングラスをはずした。どこかで見たことのある顔だった。そう、あれは政治家の……。
 やがて不審者は電気ドリルで左翼の基部に穴を開け始めた。あんなところに穴を開けられては大変だ。
「ちくしょう、もう好きにはさせんぞ」六減は怒り心頭に達し、もはや分別がつかなくなったのかレーザーガンを展望室の中で発射し、不審者を片付けようとした。
 窓の強化ガラスに穴が開き、たちまち轟音とともに室内の空気が船外に吸い出されていった。六減自身も窓の穴に吸い寄せられ、宇宙空間に投げ出されてしまうかに思われた。
 そのとき、六減の手を掴む者がいて、彼は船内に引き戻された。たちまち非常用の装甲シャッターが下り、空気の流出は食い止められた。六減を助けたのはモンスターだった。
「おい、気を確かに持て! 落ち着くんだ!」モンスターは強い口調で言った。
「……すみません、取り乱しました。判断を誤りました」六減は言った。
「まだ先は長いんだ。しっかり頼むぞ」モンスターはそう言って、六減の肩を叩いた。

「ちくしょう、また負けだ。ズバット、ちょっとは手加減してくれ」モンスターはコンピュータを相手にオセロをしていた。
「これでも限りなく手加減しています、ミスター・モンスター」コンピュータが答えた。
 このコンピュータはドリムーン号のすべての機能を制御する高性能のもので、正式名をZBT7000といったが、乗組員は親しみをこめてズバットと呼んでいた。実際ズバットは感情を持っているかのように振る舞い、ドリムーン号の十人目の乗組員として皆に受け止められていた。
「ミスター・モンスター。ブリッジ横のトイレですが、一番奥の便座のウォシュレットが二時間十五分後に壊れます」
「確かか」
「ZBT7000型コンピュータはこれまで誤りを犯したことがありません」
「よし、六減。修理してきてくれ」
 六減は工具を持ってトイレに入っていった。モンスターは再びズバットを相手にオセロを始めた。

「監督。六減、遅すぎやしませんか」兀奴が言った。
「そういえばそうだな」
 モンスターと兀奴はトイレに行き、六減に声をかけた。返事はない。内側から鍵がかかっていたから、モンスターは体当たりして個室のドアを開けた。六減が泡を吹いて倒れていた。白目をむいている。
「死んでるぞ」
「ええっ。いったいどうして!」

 モンスター、兀奴、零刻苦、牟残はこの問題を討議した。
「このトイレは完全な密室だった。しかし六減は首を絞められ殺されていた。ズバット、どう思う?」
「完全な密室だったというのは誤りだと思います、ミスター・モンスター。通風孔があります」
 画面に、ブリッジ周辺の天井を通るダクトが図示された。それは六減が死んでいた個室の通風孔にも通じていた。
「では、犯人はどこに行ったのだろう?」
「生命反応のありかを調べてみます」ズバットが言うと、
「いや、それには及ぶまい」といってモンスターは槍を持ってきて、天井のあちこちを突き刺し始めた。
「ぎゃー!」
「ここだ、この周辺をレーザーで焼き切れ」
 レーザーを使って天井に穴が開けられると、中年の男が落ちてきた。オレンジ色のTシャツにトレパン姿の男。六減が報告した特徴と一致している。モンスターがその男のサングラスをむしりとると、その顔は麻生太郎元首相とそっくりだった。
「松平!」
「監督、この男を知ってるんですか」

 モンスターは、RS電機陸上部の鬼監督にして蟻濠図帝国(ぎごうとていこく)の使者である松平平平(まつだいら・へっぺい、第四回・第五回に登場)について皆に説明した。
「お前はなぜここにいるんだ」とモンスター。
「いや、生き別れになった妹がタイタンにいてね、たった一人の肉親だ、そりゃあ元気なうちに会いたい、会いたいとも。で君がタイタンに行くと聞いてだね、わしも連れて行ってもらおうと思ったのだよ」
「その男は嘘をついています、ミスター・モンスター」ズバットが冷静な声で言った。
「なんだね、機械のくせに。失敬だぞきみ」松平が言うと、
「ズバットには高性能の嘘発見器が内蔵されている。あんたの脳波や内分泌物や血流を調べてるんだよ」とモンスター。
 すると松平はトレパンの中からショットガンを取り出して、ズバットのメイン画面を撃ちぬいた。
「これで邪魔者はいないというわけだ。わしをタイタンに連れてってくれるね」
「なぜ六減を殺したんだ」
「いやそれは、密航者だなんだと騒ぎ立てるから仕方なかったのだよ。な、昔のよしみでどうかひとつ、頼むよモンスター君」
「じゃあなんで宇宙船の左翼を壊そうとしていたんだ」零刻苦が口を挟んだ。
「そりゃあ穴を開けて中に入るために決まってるじゃないか、若いの」
「なぜ宇宙空間で宇宙服を着ずに平気でいられたんだ」と零刻苦。
「そりゃ陸上で鍛えとるからだよ。しかし細かいことにこだわるねきみも」
「監督、こいつ、宇宙船からほっぽり出しましょうよ。ろくなやつじゃないですよ」
 零刻苦が提言すると、松平はただちにショットガンで彼の胸をぶちぬいた。
「本当の狙いは何だ? 松平」とモンスター。
「だから言っとるだろ、生き別れになったたった一人の妹にひとめ会いたい、ただその一心でだな」
「もういい。宇宙船がタイタンの引力圏内に入る。あんたがコンピュータをぶち壊したおかげで手動で着陸させなきゃならなくなった。兀奴、高度計を見ててくれ。牟残は操舵装置の回路が無事かチェックしろ」

 けっきょく松平平平を同行してタイタンに赴くことになったモンスターとバイアンズ。
 この先どんな展開が待ち受けているのであろうか?


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執筆陣
HN:
快文書作成ユニット(仮)
自己紹介:
 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


 ❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。

 ❖ 呂仁為 Ⅱ 〜 昭和の想い出話や親しみやすい時代物、歴史小説などについて書きます。

 ✿ 流火-rjuka- ~ 主に漢詩の創作、訳詩などを行っています。架空言語による詩も今後作りたいと思っています。

 ☃ ちゅうごくさるなし
主に小説を書きます。気が向けば弟のカヲスな物語や、独り言呟きなことを書くかもしれません。

 ♘ ED-209ブログ引っ越しました。

 ☠ 杏仁ブルマ
セカイノハテから覗くモノ 



 我ら一同、只管に【快文書】を綴るのみ。お気に入りの本の頁をめくる感覚で、ゆるりとお楽しみ頂ければ僥倖に御座居ます。









 ※ 基本的に当ページはリンクフリーです。然し乍ら見易さ追求の為、相互には承っておりません。悪しからず御了承下さい。※







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