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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2024/05/05 (Sun) 11:36:43

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No.556
2012/03/31 (Sat) 23:21:56

 女と差し向かいで酒を飲んでいたら、どうも毒を盛られたようだ。
「おい、おせん。もっと明るくしろ」
「いやですよ、明るいままだなんて」
 浴衣を着た若い女が言った。部屋の奥には布団が敷かれている。
「いいから明るくしろ!」
 するとおせんは枕もとの行灯の火を明るくした。
 手足がしびれてきた。だが意識ははっきりしている。
「おせん! 俺を殺るつもりなら、毒の盛り方が少なかったようだな」
 すると窓が開き、浪人風の男が雪風とともに押し入ってきた。刀を上段に構えている。
 私も刀を抜いた。しかし毒のせいでときおり目がかすんでくる。
「これがお前の情夫(いろ)か?」私は言った。「二人して紀州屋からいくらもらった」
「でぇい!」浪人者が突きかかってきたが、私はその切っ先を間一髪でかわし、相手の頭を斬った。
「ぎゃーっ」浪人者は両眼から血を流してうめいた。
「おい、おせん。お前の相方はこの通り視力を失ったが、あとはどうするつもりだ」
「ばか! この人はね、この人はあなたの実のお父っつぁんなんだよ!」
「何!? それはまことか! 父上! ああなんたること、そうすると俺は親の目をつぶした不孝者だ、知らなかったこととは申せ人は許しても天は許すまじ、かくなる上は腹をかっさばいて果てようぞ」
 私がもろ肌を脱いで脇差を抜くと、さっきまで目を押さえてうめき苦しんでいた浪人姿の父がすっくと立ち上がり「介錯つかまつろう」
 私が腹を真一文字にかき斬ると、父は刀を振り下ろした。しかし目が見えないから刀は見当はずれのところに振り下ろされ、あろうことかおせんの首を斬り落としてしまった。
「ぎゃーっ」噴き出した鮮血は行灯に飛び散り、辺りは血の海になった。
「父上!」私は叫んだ。「目が見えず仕方のなかったこととは申せ、このおせんは私の実の妹、つまりあなたの娘でございますぞ!」
「何!? それはまことか! おせん! してみると私は我が子を手にかけたことになるのか、犬畜生でも子は可愛がるもの、私は天道にもとる大罪人だ、かくなる上は腹かっさばいて果てようぞ」
 父がもろ肌を脱いで脇差を抜くと、私はさっき腹を切ったところで腸が飛び出していたが、腸を腹の中に無理やり押し込んですっくと立ち上がり「介錯つかまつろう」
 私は父の首を勢いよく斬り落とした。
 私はその場にへなへなと座り込み、本来は誰かに介錯を頼むところだがこの場合いたしかたなく、脇差で自分の頚動脈を切ろうとした。
 折りしも、窓から突風が吹き込んできた。そしてその風は偶然にも強力なかまいたちを引き起こし、私の首をすぱっと切り落としてしまったのである。

【越後かわらばん・四月一日号より】
 怪異! 旅館の一室に転がる三つの首! いったい誰が斬ったのか?

 さる三月三十日の朝、旅館赤松屋の二階の一室で男女三名が首を切り落とされて絶命しているのを女中が発見した。他の旅客や旅館の奉公人の仕業でないことははっきりしている。またその前の晩は雪が降っていたが、三人の死亡推定時刻にはやんでおり、赤松屋の周囲に降り積もった雪の上に足跡が見当たらないことから、密室殺人の様相を呈してきた。
 次の日の昼ごろ、上方の豪商・紀州屋伝兵衛なるものが赤松屋を訪れ、死んだ三人のうちの一人を訪ねてきたため、奉行所は事件との関わりを調べている。紀州屋が訪ねた以外の二人の死人の紙入れには合計で大枚五十両の金子が入っており、この金子と紀州屋との関係が疑われているが、この豪商は否定している。しかし紀州屋伝兵衛はかねてから密貿易の疑いがもたれている人物であり、奉行所では彼が南蛮渡来の「ぶうめらん」なるもので三人の首を刎ね飛ばした疑いがあると見ている。ただ三人の死亡した時刻には紀州屋は事件現場とは五里離れた宿場におり、いくら南蛮の飛び道具でも五里も離れた人間の首を刎ね飛ばせるものかと紀州屋は抗弁しているが、他にこの密室殺人を説明する方法がないことから、近く奉行所は紀州屋伝兵衛をはりつけ獄門の刑に処する見通しである。


(c) 2012 ntr ,all rights reserved.
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No.553
2012/03/19 (Mon) 17:45:17

 ふだんは立ち食いそばに入っても、殆ど蕎麦しか食べない。
 忙しい営業の合間を縫って、駅やホームの立ち食いそばを食すのはある種の
感動であると思う。
 以前にも書いたが、たとえば「葱を多めにして」とか「大盛にして」と頼んでも
いやな顔せずにそれ相当の量を即座に出してくれる店なら大概は満足する。
 逆に大盛というほどの量・・・(これは野菜の出来にもよるので何とも言えないが)ケチるのは許せても「ハイ、ネギ大盛りですね!」とオーダーを受けておきながら、いざ出汁を入れ、蕎麦を盛り天ぷらを乗せた時点でネギのことなどすっかり忘れている・・・これでは論外だ。

 最近、横浜で相鉄線に乗り換えて行く現場を担当しているので、JRの改札を抜け、相鉄線の改札をくぐった突き当りの「星のうどん」で昼をとることが多い。
 どこの現場に行っても、最寄り駅近辺に必ず立ち食い蕎麦屋を探すのが習慣だ。が、最寄り駅にはないこともある。多くの場合、乗り換えターミナルの近辺で捜すのが賢明だ。

 昔は、駅の近辺や地元の蕎麦屋が駅に軒を連ねる格好で店を出し、駅の乗降客にそばを食わせたのが立ち食い蕎麦の始まりと聞くが、現代のJR線の駅では殆ど単一化されたそばしか味わえないのが現実だ。むしろ、私鉄ローカル線の方が個性的な店が多い。
 横浜の「星のうどん」もそのひとつだ。
 だしは関西風でうどんが透けて見える。さほど醤油の味はしない。野菜かき揚げにネギを沢山入れて、生姜フレッシュなる小鉢に入ったおろし生姜を二匙ほど入れて、七味はやや控えめで食べる。ここでは、そばは置いていない。
 
 JRの西口、ビブレへ向かう駅前の角にも立ち食いそば屋があっていつも繁盛している。一度、話のタネに行ってみたが特別旨いというほどじゃない。ただ、昭和の活気を伝えるような懐かしい空気が漂っていた。「ネギの大盛サービスは事情により本日はできません」と書いてあった。懐かしさを覚えるのは、煩雑なカウンターで袋から出した麺を湯通しし、作り置きの天ぷらをのせるからかもしれない。昔はどこもこれだった。

 中学で越境入学していたので、通学には東武線を使って小一時間かかった。
今と違ってコンビニもマクドナルドもない時代、そばにコロッケやちくわの天ぷらを入れたそばは実に旨かったし、腹の足しにもなった。

             

 松田優作の遺作となった『ブラックレイン』は、日米の文化や食を含めた習慣の違いを見事に描き出すことに成功している。中でも、高倉健演じる松本刑事がマイケル・ダグラス演じるニック・コンクリンとともに張り込みでうどんを食べる一幕が非常に印象深い。割箸すらうまく使えないニックは、うどん屋の女将に箸の使い方を習いながら「pepper・・・」と差し出される七味をかけて不器用だが旨そうに頬張る。張り詰めた深夜早朝の空気がうどんの湯気で匂いすら感じられそうなこのシーンは今見ても素晴らしい。
 腹ごしらえを真剣にする場面と言うのはある意味感動を誘うのかもしれない。

 さて、昨年の3月11日と言えば自分は豊洲に居た。竣工して間もない大きな事務所ビルの点検補修の打ち合わせの最中だった。
 不気味な振動と激しい揺れの末、やっと外へ出た時は路上に止まっている10tトラックやラフターなどの重機がまるで動物のような動きで揺れていたし、足元を見れば黒い水が流れ出し瞬間、これが液状化だと悟ったものだ。

 豊洲と言う地名は昭和の初期に一般公募で付けられた名前だという。
 「豊かな洲」と名付けられたその反面、関東大震災の瓦礫が埋められたのだともいう。
 意外に知られていないのはセブンイレブンが1号店をオープンさせたのは彼の地と言うことだ。今でも「アーバンドク」とか言う名前になって、ららぽーとの後ろにそびえる鉄骨で出来たクレーンが当時の面影を今に残す。

              

 戦前、戦中、戦後と港湾、船舶整備の役を担ってきたその町も、今では超高層マンションのメッカ、見本市のようだ。数年前にNHKで観た「小さな旅」だったと思うが、一棟、数百所帯のマンションが建つと小中学の同級生も格段に増えるんだとか。
 少子化、ドーナツ化が叫ばれる現代にあってなかなか珍しい現象だと思う。
 駅の近辺にはやはり超高層の大きなオフィスビルも立ち並び、昼休みともなると屋外へ出たサラリーマンやОLたちが一斉にランチへ向かう。
 ビルの規模によっては、魅惑的な社員食堂も完備しているから案外駅の近辺で昼食を済ます人々は少ないかもしれないが実態は分からない。

 この豊洲にも立ち食いそば屋はあるにはあるが、駅からは裏通りに一本入った処で分かりにくいし、余り行列しているのを見たことがない。
 吉野家もなか卯もあるが、立ち食いそばの活気とはやや違う。

 ららぽーとの中にあるフードコートは個性的なランチも選べるが、やはり家族やカップルで訪れる場所であってサラリーマンのお昼を過ごす場所ではない。
 こうして考えると東京駅まで数キロ、数分と書かれて沿岸部に造られつつあるベッドタウンが決定的に魅力的な街には成りえないのが分かる。

 家族とともに海や街を見渡す超高層の町も安息ばかりでは刺激は生まれない。
やはり、街の魅力と言うのは飲食も含めた個性や習慣が一体となって通りや建物や路地やビルに漂わせるカオスや匂いだと思う。
 新橋や神田が廃れないのはそのあたりだと思う。

 蕎麦屋から回った突き当りに駄菓子屋があって、沢山の子供が出入りしていた。
 マンションが立ち並ぶ随所、一角には高度成長期に活躍したであろう船舶の錨、港湾の搬出入に使われたと思えるような鉄道の動輪や線路の残骸が、オブジェのようにららぽーとの裏の公園の一角に飾ってある。
 これはこれで悪くない。

              


 堅調な人口増加を続けるこの街では駄菓子屋も続けていけるのかも知らない。
 復興だの頑張ろうだの絆がどうしたと偉そうなことを言うつもりも権利もない。
が、ローンの重荷に耐え、丼の蕎麦や饂飩をすする男たちの背中を哀愁でなく、かつて昭和の男たちがそうであったように強く逞しい男に・・・と願うのは空し過ぎるのだろうか?・・・・。



 (c)2012 Ronnie Ⅱ , all rights reserved.




 ☆ 索引 〜 昭和の憧憬  へ戻る
No.552
2012/03/18 (Sun) 22:16:49

今場所の大相撲の幕内に「勢(いきおい)」という力士がいるが、どうも成績が振るわない。
はっきり言って勢いはない。由緒ある名前だそうだが、名前負けしているというか、そもそも「勢」などという抽象的な名前はよろしくないと思う。もっと具体的に「土石流」とか「直撃弾」にしたほうがよほど勢いを感じる。

むかし岡崎美女(おかざき・みお)というAV女優がいたが、早々に消えていった。これも名前負けしたのだろう。どんな美女であっても「名前は美女です」と言われたら誰だって「どこが?」と反発するに違いない。

以前同僚に姓名判断に詳しい先生がいて、名前というのは抽象的なふわふわしたものであってはいけない、と言っていたが、なんとなく分かる気がする。
当時の生徒に「華恋(かれん)」という名の女子がいたが、若いうちはいいけれど七十も過ぎて恋などと言っている場合ではなかろうし、また「恋」というのはふわふわしたつかみどころのないものでよくないのだという。
そういえば今年度の教え子に「風太(ふうた)」「優夢(ゆうむ)」という名の男子生徒がいたが、これもふわふわしてよろしくなさそうだ。

高校時代の同級生に「虎(とら)」という名の男子がいた。ここまで具体的な名だと良いのだろうか。しかし名は体をあらわすというか、筋肉質で痩せ型、スポーツ万能の男だった。ただし名前をつけた彼の父親は広島カープのファンだったそうだが。

「じゃりん子チエ」に「小鉄」という名の猫が出てきた。自分の姉も飼い猫に「こてつ」と名づけていたっけ。しかしこれが「虎徹(こてつ)」だと、切れ味鋭い名刀として知られる刀剣の名で、近藤勇の「今宵の虎徹は血に飢えている」という台詞が有名だから、吸血猫になってしまうかも知れない。

詩人の杜甫の庇護者として知られる厳武(げんぶ)も強そうな名だ。間違ってもレース編みなどしないだろう。

フィギュアスケートの織田信成が長男にどんな名前をつけるのか注目していたら「信太郎(のぶたろう)」だという。しかし戦国武将の血を引くのだから「~太郎」というのは幼名とか通称のようで違和感があり、他人事ながら口をはさみたくなる。織田信成はスポンサーに恵まれず経済的に困窮しているという話を聞くから、息子は「織田信金(おだしんきん)」にして、皆が間違えてお金を振り込むようにしたらどうだろうか。

「精子(せいこ)」という名前の女性を知っているが「卵子(らんこ)」という女性はいるのだろうか。同様に「繭(まゆ)」という女性はいるが「さなぎ」という名の人はいるのだろうか。

「光子」「陽子」という女性はいるが、「中性子」とか「ニュートリノ」という人はまだいないだろう。「三酸素」と書いて「オゾン」と読ませるようなキラキラネームは今ならありえるかも知れない。


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執筆陣
HN:
快文書作成ユニット(仮)
自己紹介:
 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


 ❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。

 ❖ 呂仁為 Ⅱ 〜 昭和の想い出話や親しみやすい時代物、歴史小説などについて書きます。

 ✿ 流火-rjuka- ~ 主に漢詩の創作、訳詩などを行っています。架空言語による詩も今後作りたいと思っています。

 ☃ ちゅうごくさるなし
主に小説を書きます。気が向けば弟のカヲスな物語や、独り言呟きなことを書くかもしれません。

 ♘ ED-209ブログ引っ越しました。

 ☠ 杏仁ブルマ
セカイノハテから覗くモノ 



 我ら一同、只管に【快文書】を綴るのみ。お気に入りの本の頁をめくる感覚で、ゆるりとお楽しみ頂ければ僥倖に御座居ます。









 ※ 基本的に当ページはリンクフリーです。然し乍ら見易さ追求の為、相互には承っておりません。悪しからず御了承下さい。※







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