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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2024/03/29 (Fri) 09:38:54

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No.476
2011/10/02 (Sun) 10:48:15

 その昔アインシュタインは、未来において機械文明が発達すれば、すべての人間は面倒な労働を機械に任せることができ、それでできた余暇は学問や芸術にうちこめるようになるだろう、という趣旨のことを言った。しかし現今において機械文明は充分に発達したように思えるが、我々の労働時間は減っただろうか。その逆に増えているぐらいではあるまいか。これはいったいどうしたことか。畜生!
 私は怒りのあまり叫び、その自分の声で目が覚めた。時計を見ると、午前七時である。出勤時間まで間がない。急いで朝食をとり、顔を洗って髭を剃り、着替えて家を出た。そこまではいいものの、自分の職業が何なのか、よく思い出せない。寝起きで頭がぼんやりしているせいかも知れないが、しかし体は毎日の習慣に従ってなのか、当たり前のように駅に向かっている。私は定期券で改札を通り、ある電車に乗り込んだ。つり革を握ってぼんやり外を見ていると、自分の勤務先が学校であることを思い出した。してみると私は教師なのか。ある駅で降りて歩いていくと、高い塀で囲まれた広壮な建物が見えてきた。これが勤務先だ、と感じた。自分は裏口から入ることになっていたはずだと思い、路地に入って大きな鉄の扉を押して中に入った。
 暗い廊下を通って、うっすらと見覚えのあるドアを開けると、数名のスーツを着た男女がいた。
「おはようございます」
 と言って席に着くと、隣の若い男性が声をかけてきた。
「やあ、高村先生。今日は給料日ですね」
「ああ、そうでしたっけ。ところでつかぬことを伺いますが、私はこれから何をしたらいいのでしょう?」
「は? そこに時間割があるでしょう。高村先生の今日の一時間目は、一年三組ですね」
「はあ。してみると私はやはり教師ですか」
「え? ああ、そうですね。僕もこの仕事をしていると、ときどき自分の立場が分からなくなります。そうです、教師ですとも。集団生活のなんたるかを子供に教える、重要な仕事です」
「私は何の教科を教えるんです?」
「教科? えっと、おっしゃる意味がよく分かりませんが。もう一時間目が始まります。さ、防護服を着て一年三組へどうぞ」
 私は重い防護服を着せられ、言われた教室に赴いた。戸を開けると、いきなり熱いものが肩をかすめた。
「おい、フライングは駄目だぞ!」一人の少年が叫んだ。
「そうよ、早く熱線銃をしまいなさいよ!」一番前の席の女子生徒が言った。
 私は何が起こったのか分からないまま、教壇に立った。改めて教室を見渡すと、そこにいた少年少女たちは、驚いたことに一人として人間の顔をしていない。皆ダークグレー、あるいはダークグリーンのセラミック製と思しき顔をしていて、目は赤いランプのように光っていた。髪はふつうの人間のようで、髪型で男女の区別が付く。
「起立!」さきほど第一声を発した少年が言った。皆が一斉に立ち上がる。
「礼。おはようございます! では、始め!」
 すると少年少女たちは腰に吊ったホルスターから銃を抜き、一斉に私めがけて引き金を引いた。青いビームがそれぞれの銃から発射され、私の胸板がカッと熱くなった。胸は防護服に守られていたから痛みを感じなかったが、ある熱線は防備のない二の腕をかすめ、激痛が走った。
 私はたまらず教室から出て行った。職員室に行ってみたが、鍵がかかっているのかドアが開かない。門の扉も同様だった。私は運動場に逃げるしかなかった。
 しばらくすると、先ほどの少年少女たちが馬に乗って運動場に出てきた。
「フォーメーション・アルファ!」
 馬に乗った数名の生徒が、私の後ろに回ろうとしていた。周囲を取り囲まれてはもう逃げ場はない。私は大きめの石を拾い、少年の一人に投げつけた。それが上手い具合に彼の手の銃をはじきとばした。私はあわてて這っていき、その熱線銃を拾い上げた。あとは生徒たちを撃ちまくった。少年たちのある者は馬から落ち、ある者は熱線で頭を吹き飛ばされた。
「慌てるな! フォーメーション・デルタ!」リーダーと思しき少年が叫んだ。しかし生徒らは混乱し士気も落ちたのか、もはや統制の取れた集団ではなくなっていた。私は多少の攻撃は受けたが、手に入れた熱線銃で互角に戦うことが出来た。
 キーン・コーン・カーン・コーン。チャイムの音が鳴り響いた。
 するとそれをしおに生徒たちは銃をホルスターに収め、馬首を校舎のほうに向けて帰っていった。私はしばらく呆然としてその場を動くことが出来なかった。
 へとへとになって職員室に帰ると、今度はドアが開いた。入っていくと、マスクをした白衣姿の女性たちが駆け寄ってきて、私の腕の傷の手当をしてくれた。
「やあ、高村先生。ご無事でしたね」朝言葉を交わした若い同僚が、近くに来て言った。
「これはどういうことなんです? 生徒が銃で教師を撃ちまくる。おまけにその生徒たちは人間じゃない!」
「どういうことって、それが我々の仕事じゃありませんか」
「これが教師の仕事?」
「ええ、昔の教師とは違いますがね。ここは機械人間の子弟たちに集団での狩の仕方を教える学校です」
「教師は何を教えるんです?」
「何も。生徒たちはコンピュータで狩猟法の理論を学びます。そして理論を実地で身に付けるために、教師を獲物として狩るわけです」
「そんな教師があるか……俺は殺されかけたんだぞ! だいたい機械人間って何だ。我々を狩るなどという権利があるのか?」
「ありますとも。もう何世紀も前からそうですよ」
 そこへ、眼鏡をかけた年配の小男が近づいてきた。
「どうもお疲れ様です。高村先生、どうかされましたか?」
「あなたは誰ですか?」
「はぁ、覚えていらっしゃらない。いや、ときどきストレスで記憶喪失になる先生もいらっしゃいますが……私は教頭の岡本ですよ」
「僕が昨日までどうしていたか知らないが、もうこんな仕事はご免です」
「どうも疲れていらっしゃるようで……興奮しすぎてはよくありません。今日は早退されてはいかがですか」
「言われなくとも帰ります。しかし、機械人間がなぜ人間を狩るのか、教えていただきたいですね」
「機械人間たちは支配民族で、娯楽を享受する権利を持っているからですよ。狩は古くから認められている娯楽です……しかし高村先生、だいぶ興奮なさっておいでですね。こんなに怒りをあらわにした方は、私はここ二十年ばかり見たことがありません。どうです、私の知り合いに脳外科医がいますから、ロボトミーをお受けになっては。私学共済で格安で受けられますよ」
「そんなもの要らん! 帰らせてもらいますよ」
「おっと。その前に早退届を書いてください。あと熱線銃も返してもらいますよ」
「嫌だ!」
 熱線銃を持ったまま出て行こうとすると、警備員たちが近づいてきたが、私はそいつらを撃ち殺した。
 学校を出て行くと、駅までの道沿いに銀行ATMがあるのに気がついた。そういえば、今日は給料日だと言ってたっけ……財布を取り出すと、その銀行のカードが入っていた。暗証番号は体で覚えており、振り込まれた自分の給料の額を確かめることが出来た。意外に少ない。命がけの仕事を一か月やってこれか。私は熱線銃でATMを破壊し、札束をごっそり持って鞄につめこんだ。
 私は駅に行き、改札の駅員に尋ねた。
「どこに行けば機械の体になれる?」
「アンドロメダ星雲」
「じゃあそこまでの切符をくれ」
「ご冗談を。生身の人間が一生働いたって買える代物じゃありませんよ」
 私は鞄から札束を次々取り出し、駅員の前に積んでみせた。駅員は生唾を飲み込み、現金を数え終わると
「しばらくお待ちを」と言って奥に引っ込んだ。
 戻ってきた駅員は「十三←→アンドロメダ」と書かれたパスを私に手渡した。
「絶対に失くさないでください。再発行はできませんので。あと銀河鉄道は時間厳守です。途中駅で降りても、決して乗り遅れないでください。では、係りの者がアンドロメダ行きのホームまでご案内しますので」

 私はアンドロメダ行きの列車に乗り込み、窓際の席に座った。他に乗客は一人もいなかった。ぼんやりと無人のホームを眺める。
「十四時四十分発アンドロメダ行き、ただいま発車します」
 というアナウンス。いよいよ出発か。
 そう思ったとき、一人の髪の長い女が乗り込んできた。私の席と通路をはさんだ向こうの席に、彼女は座った。目を見張るほどの美人で、それに幼いころに死んだ私の母とどことなく似ていた。
 彼女も窓から外を眺めていたが、ふとこちらに視線を向け、私と目が合った。
「アンドロメダに行かれるんですか」私は尋ねた。
「ええ。あなたも?」
「はい……機械の体を手に入れに行きます」
「そうなんですか」
「あなたも同じ目的で?」
「いえ」
「では、なぜ?」
「あまり根掘り葉掘り聞くものじゃなくってよ、哲郎」
「なぜ僕の名前を?」
「さあ、なぜかしらね」
 それで会話は途切れた。この女は何者だろう。なぜ私の名前を知っている? 
 後方から足音が聞こえてきた。
「本日は、当銀河鉄道をご利用いただきまことに有難うございます。終点・アンドロメダへは三百六十七日と四時間十九分後に到着いたします。長旅ですので、本列車には食堂車、寝台車、図書室があり、バス・トイレを完備しております。私は終点まで車掌を務めます鷹司(たかつかさ)でございます」
「車掌さん、お風呂はどこ?」女が尋ねた。
「この四号車のすぐ後ろですよ」
 すると彼女は立ち上り、バスに向かった。まもなくシャワーの音が聞こえてきた。
「僕はちょっと寝るかな。寝台車はどこですか」
「後方の十一号車ですよ、哲郎さん」
「あなたもなぜ僕の名前を?」
「だって」車掌は私の胸を指差した。私は「高村哲郎」とでかでかと書かれた学校の教職員証を首からぶらさげていたのだ。あの女、馬鹿にしやがって。
 私は十一号車に行く途中バスの前を通ったから、彼女に声をかけた。
「哲郎です。ときにあなたの名前は?」
「メーテル」
 嘘つけ、日本人丸出しの顔のくせに! 私は憤慨して床に就いた。
 そうして、この奇妙な女との長旅が始まったのである。


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執筆陣
HN:
快文書作成ユニット(仮)
自己紹介:
 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


 ❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。

 ❖ 呂仁為 Ⅱ 〜 昭和の想い出話や親しみやすい時代物、歴史小説などについて書きます。

 ✿ 流火-rjuka- ~ 主に漢詩の創作、訳詩などを行っています。架空言語による詩も今後作りたいと思っています。

 ☃ ちゅうごくさるなし
主に小説を書きます。気が向けば弟のカヲスな物語や、独り言呟きなことを書くかもしれません。

 ♘ ED-209ブログ引っ越しました。

 ☠ 杏仁ブルマ
セカイノハテから覗くモノ 



 我ら一同、只管に【快文書】を綴るのみ。お気に入りの本の頁をめくる感覚で、ゆるりとお楽しみ頂ければ僥倖に御座居ます。









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