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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2024/04/19 (Fri) 18:21:16

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No.457
2011/08/22 (Mon) 17:42:29

「えー、馬鹿のことを昔は愚者と申しましたそうです。女の尻をしじゅう追い掛け回して鼻の下を伸ばしている馬鹿、ケチでお金に異常なほど執着する馬鹿。馬鹿にも四十八馬鹿ございまして、その大統領が噺家ということになっております」
 そこで観客はどっと笑った。すると噺家は急に激怒し、高座の下から機関銃をとりだした。
「安易に笑うんじゃねえ!」噺家は客席に向かって銃を乱射した。耳をつんざくような兇悪な銃声、飛び散る血しぶき、観客の阿鼻叫喚。
 撃ち終わった噺家は呼吸を整え、着物についたほこりを手で払った。
「その程度で笑うなら落語家なんて要りゃしねぇんだ」
 そして再び正座して話し始めた。
「中でもたちの悪いのは理屈を言う馬鹿ですな。おう、そこにいるのは八兵衛じゃないか、こっちにお入り。どうもご隠居さん、今日はちょっと分からないことがありまして、教えてもらおうというわけで参じました。……なんだ、その分からねえことってのは」
 噺家はそこでお茶をすすった。
「うわばみってものがあるでしょう。ありゃどうしてうわばみってんですかい? ……何だ、変なことを尋ねる奴だな、蛇の太く大きくなったものをうわばみというんだ。……いやそりゃ分かってますがね、どうしてうわばみっていう名前になったんです? 蛇の大きくなったものなら、『おおへび』とか『へびおお』とか言いそうなもんじゃないですかい、うわばみなんて蛇とは縁のない言葉ですからね、そこんとこをご隠居さんにお尋ねしようと思って。するとご隠居さん、しばらく腕組みしてこう言った」
 噺家は客席をにらみまわした。
「まずここに、うわっ、ていうものがあると思いねぇ」
 噺家は急に立ち上がり、客席に降りていったと思うと若い男性客のむなぐらを掴んだ。
「思いねぇ!」と噺家。その迫力に押されて客は
「お、思いました」
「それが、ばむんだな」
「……」
「ばむんだよ!」噺家は返事を強要した。
「は、はぁ」
「うわ、が、ばむからうわばみだ、分かったか」
「分かりました」
「本当に分かったんだな?」噺家は男性客をにらみつけた。
「ええ」
「それじゃあここに、うわ、が、ばんでるところを描いてみな」というと噺家はスケッチブックとマジックを客に手渡した。
 客が何も描けずに凝固していると、噺家はストップウォッチをふところから取り出した。そしてたもとから出した剃刀を客の頚動脈に押し付け、
「三十秒以内に描け。さもなくば殺す」
 なおも客が描けずにいると
「あと二十秒……あと十五秒……あと十秒だ」
 噺家は額から汗を流しながらストップウォッチを見ている。
「五……四……三……二……、一」
 そのとき、寄席の後部の扉が開き、銃をもった私服の男と数人の警官がなだれこんできた。
「そこまでだ! 手に持った武器を捨てろ!」
「おっと、邪魔者が入ったな。だがしかし、タイムリミットだ」
 そういうと噺家は、男性客の頚動脈を勢いよくかき切った。鮮血がシャワーのように飛び出し、噺家の顔を真っ赤に染めた。そしてもろはだを脱ぐと、彼の胴体にはガムテープで筒状のものがたくさん巻きつけられていた。
「ダイナマイトだ。下手に俺を撃ったら寄席ごとふっとぶぜ」
 噺家はゆうゆうと高座に戻り、凍りついたように沈黙している観客、そして刑事たちに向かって言った。
「そうとも、俺はまともな噺家じゃねぇ。立派な師匠に弟子入りしたが、さっぱり芽が出ず毎日いらいらして、気晴らしに日本刀を持ってある家に忍び込み一家五人皆殺しよ。だがな、警察のおっさんたちよ、俺は気が狂ってるとかで裁判所は死刑にしてくれねぇんだ。で精神病院にぶち込まれはしたが、俺みたいな気狂いが日本中にわんさかいるのか、定員オーバーですぐ釈放されたのさ。だが俺に何をして食ってけってんだ。キチガイの凶状持ちがやる仕事なんて無え。そこで俺は、本当のキチガイ、殺人狂にしかできない落語をやることにした。気に入らねぇ客は容赦なくぶち殺す、サバイバル寄席だ。すべからくエンターテインメントは客からスリルを求められる。だがな、本当のスリルってものは一生の心の傷にもなりかねねぇおっかねぇものだ。それを俺はこの世に知らしめようとしてるんだよ」
「講釈はそれで終わりか、くされ外道!」私服刑事が拳銃を構えながら言った。
「何を、この」噺家が言いかけたところで刑事の銃が発砲された。弾丸は見事に噺家の眉間を撃ちぬいた。
「即死だな」高座に上がった刑事は、噺家の脈を調べて言った。「皆さん、もう安全です。この男は死にました。安心してください」

 しかしここで眉間を撃たれて死んだ落語家、その名も桂米狂(かつら・べいきょう)は、その過激すぎるパフォーマンスによって死後、一部の演芸関係者の間で熱狂的に支持を集め始めた。またそのご日本の演芸界は退廃の一途をたどり、あらゆる娯楽に飽きて感覚の麻痺しきった人々は、二代目三代目の桂米狂が提供するサバイバル寄席をおおいに歓迎したのである。

 それから百五十年。十代目を数える桂米狂は政界に打って出た。総理大臣に上りつめた彼は、当然のごとく核ミサイルで大戦争を引き起こし、その結果ほとんどの地球人類は死に絶えてしまった。彼は最後に「ハレルヤ!」と叫んで自分の頭を撃ちぬいたそうである。


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快文書作成ユニット(仮)
自己紹介:
 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


 ❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。

 ❖ 呂仁為 Ⅱ 〜 昭和の想い出話や親しみやすい時代物、歴史小説などについて書きます。

 ✿ 流火-rjuka- ~ 主に漢詩の創作、訳詩などを行っています。架空言語による詩も今後作りたいと思っています。

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 我ら一同、只管に【快文書】を綴るのみ。お気に入りの本の頁をめくる感覚で、ゆるりとお楽しみ頂ければ僥倖に御座居ます。









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