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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2024/03/28 (Thu) 22:51:58

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No.456
2011/08/22 (Mon) 17:41:07

 ベムは禿げた茶色い頭をなでながら、自社ソフトの修正プログラムをデバッグにかけ、うまく作動することを画面上で確かめた。あとは他の社員にプログラムのテストをまかせ、今日はもう帰るとしよう。
 ベムは黒いソフト帽をかぶり、白い金属製の短い杖を手に取ると、
「ウー、ウガンダー!」
 と叫んだ。するとベムの体中から人間のものとは思えぬ、異様な発達を遂げた筋肉がもりあがった。頭部は左右に裂けて、大脳が露出したかのように白くなって大きく膨らみ、口からは鋭い牙も伸びてきて、よだれがあふれ出す。その姿はまさに妖怪だった。
「お先に失礼します」
 ベムはタイムカードを記録器に差し込み、オフィスを出て行った。
 かつてベムは張り切って力を出すべきときに妖怪に変身していたが、人間社会に溶け込むため、仕事を離れた夜の自分の時間にだけ、妖怪の姿になることにしていたのだ。

 帰途、列車の窓に疲れた体をもたせかけ、ぼんやり夜景を眺めるベム。
 俺は一生いまの会社で働くのだろうか? それでいいのか、妖怪人間なのに? 
 これまで何百回となく繰り返されてきた想念が去来する。その想念はもはや擦り切れて薄っぺらなものになっていて、疲労してぼんやりしたベムの頭脳をほとんど刺激することなく、彼はいつしかこくりこくりと居眠っていた。

 翌日はベロの運動会。日曜ぐらい眠っていたいが、家族サービスを怠るとベラに鞭で打たれる。ソフト帽を頭にのせ、ベロの通う小学校に足を運んだ。
 ベムはカメラを構え、ベロが徒競走で走ったり綱引きする姿を、せっせと写真に収める。一般人に混じっての見物だから、もちろん人間の姿である。
「次は父兄参加によるスウェーデンリレーです」というアナウンス。
「なにぼんやりしてるのよ」とベラ。
「わかった、参加するよ」抵抗が無駄なことを知っているベムは、力なく返事した。

 禿頭に白いハチマキをさせられたベムは、お玉にのせたボールを落とさないように注意して、出発の合図を待った。
 ピストルが鳴らされ、走者いっせいにスタート。運動不足の父親たちが主な参加者だから転倒者が出るのもご愛嬌だが、妖怪の運動神経を持つベムは、足取りも軽く他の参加者をどんどん引き離していった。
 一等はいただきだと思ったベムだったが、心に隙ができたのか、ぐんぐん追い上げてくる男がいるのに気づかず、ややペースダウンした。追い上げてきたのは髪を短く刈った三十代と思しき男で、ベムに追いつくとにやりと笑った。そして足を引っ掛けてきた。ベムはたまらず転倒した。
 ベムはむらむらと怒りがこみ上げてきた。久しぶりに悪の匂いをかいだ気分だ。
「ウー、ウガンダー!」
 ベムは妖怪の姿に変身し、自分を転ばせた男を追いかけた。
 会場は異様に盛り上がった。しかし誰もベムを応援しなかった。妖怪に追いかけられる一般人を見ては、一般人のほうを応援するのが人情というものである。
 ベムが卑怯な短髪の男をとうとう捕まえ、格闘が始まった。金属のお玉で互いに殴り合いを始めたのである。会場は騒然となった。
「みなさん、落ち着いてください! 落ち着いてください!」というアナウンス。「では次のプログラムに移ります! 六年生による玉入れです」
 六年生たちが運動場の真ん中に出てきた。そこには赤と白の玉がばら撒かれている。
「よーい、始め!」
 笛の音とともに玉入れが始まった……かに見えたが、六年生たちは競技よりも妖怪人間に興味を持っていた。そして石を拾ってベムに投げ始めたのである。
「ぐぁーっ」
 ベムは石をぶつけられて苦悶の声を上げた。

「ベム、なんでみんなといざこざを起こしたんだよ!」
 運動会が終わった帰り道、ベロが詰問した。
「さ、ベロ、機嫌を直しなさい。今日はお寿司を食べに行くわよ」とベラ。
「寿司に行く金なんてないだろ」ベムが小声でベラに言った。
「今月のあなたのお小遣いを五十パーセントカットするから平気よ」ベラはキッとなって答えた。

 ベムはその晩、寝床で考えた。

 ああ、明日も会社か。もう本当に辞めてしまいたい。しかし家のローンがあと二十年近くあるしな……かつては人間になりたいと本気で望んだものだった。しかし人間は家を持たなければならないなどと、いったい誰が決めたんだ? また人間の男は、なぜ身を粉にして家族を養わなければならないのか。妖怪人間なら、下水道にでも住めばいい。そして家族には鼠でも食わせてりゃいいんだ。
 家族サービス? むかし俺たちが戦った悪霊や怪物どもが聞いたらへそが茶を沸かすぜ。
 つくづく、以前の生活に戻りたくなった。

 ああ、妖怪になりたい! 決めた。明日から失踪しよう。


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快文書作成ユニット(仮)
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 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


 ❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。

 ❖ 呂仁為 Ⅱ 〜 昭和の想い出話や親しみやすい時代物、歴史小説などについて書きます。

 ✿ 流火-rjuka- ~ 主に漢詩の創作、訳詩などを行っています。架空言語による詩も今後作りたいと思っています。

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