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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2017/08/19 (Sat) 07:02:29

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No.479
2011/10/16 (Sun) 09:07:27

人工衛星の夜に  村野四郎

今夜も人工衛星がみえるという
くらい地球の秋の
木犀(もくせい)の夜だ
こんなしめった情緒のなかで
ぼくらの倫理はキノコのように
土に生えては土に腐り
もう この小さい母なる土は
なんの死骸も埋めきれぬという
これから ぼくらは
どんな天体に埋葬されるのだ
人間の歴史が根こそぎ逆転する
きみょうなこの永劫回帰
考えれば 血のひくように
愛さえ希薄になっていく思いだが
さてそこに どんな人生がはじまるのか
だれも知らない
だが 新しくひらけるこの宇宙の
なんという冷いことだ
ごらん 過去からきえた幽霊が
金属の鎧(よろい)をきて
未来をさかのぼって迎えにくる
あたらしい墓へ案内するという
くらい くらい地球の上の
しめっぽい木犀の夜だ


 雲丹大学(うにだいがく)に奉職する化学者の草壁が、新居の庭で古い貝殻を見つけたのに興味を引かれ、その辺りを小さなスコップでほじくり返していたときのことである。隣家と草壁邸を隔てている、うばめがしの生垣ががさがさと掻き分けられ、そこから銀色のセーターと白い半ズボンを身につけた、見知らぬ小さな男が現れた。銀色のうすいヘルメットをかぶり、それは日光をきらきらと反射していた。そしてカン高い声で
「突然あいすみませぬが、ここの座標を教えてくれはしませぬか。むろんエヌ系基本座標系での座標であるが」
「は?」草壁は訳が分からずぼんやり立ち尽くしていた。
「だから、エヌ系基本座標を」
「なんのことです?」
「は、なんのことですとな? 座標を知らんとおっしゃるとですか」
「座標って? それにあなたは誰です?」
「あーひょっとして計算ミスったかなー、ときに今は西暦何年です?」
「二〇一一年です」
「しまったー」銀のヘルメットの男は頭を抱えてしゃがみこんだ。しばらくしてその男はつぶらな目を草壁に向け
「あなたにこんなことを言っても仕方ないのですがな、座標表示器をさっきの時空ジャンプの前に落っことしてしまいましてね」
「時空ジャンプって?」
「ああ、分からん言葉は気にしないで。どうかお構いなく」
 しかしその小男はみるみる青ざめた顔になって、その憔悴ぶりは尋常ではなかった。
「つまりあなたは、その座標とやらが分からないと帰れなくなる。そういうことですか?」
 草壁は気を利かせて尋ねてみた。
「そう、まあそういう訳です。それよりなお悪いことに」小男はヘルメットをずりあげ、しゃがんだまま草壁の顔を見上げた。
「私には追っ手がいるのだ。猿みたいな未開人のくせにエヌ点時空ジャンプだけは習得してしまった、あのおぞましい追っ手どもが。私は何も悪人ではない。ただ彼らの族長の気分をちょっと害しただけであって……」
 草壁はなんだか分からないが同情のようなものを覚え始めたから、コップに水を汲んできてその小男に飲ませてやった。小男は銀のセーターに水を滴らせながら、うまそうに水を飲んだ。
「ときにあなたのお名前は? 私は草壁といいます」
「私はマミムーメ」
「その追っ手とやらはどこから来るんですか?」
「未来から。五千年の未来からここに時空ジャンプしてくるでしょう」
「どうもあなたのお話は私の理解を超える部分が多々ありますが、あなたを見ていると助けなければいけないという気がします。あなたがこの家の最初のお客だからかも知れません。さ、いつまでも座り込んでいないで元気を出してください。居間にお上がりください」

「つまりエヌ点というのは何です?」と草壁。
「だからさっきから言っているように、我々を包む五次元空間に浮かんでいる支点ですよ」テーブル越しに向かい合ったマミムーメが答える。
「支点というのは位置のことですか? それとも質量を伴ったもの?」
「ああ、違うちがう。質量はないが精神で把握される立派な実在です」
「つまり概念ということでしょう」
「エヌ点の話は後回しにしましょう。で、次にあなたの知りたいことは?」
「なぜ時空ジャンプなどということが可能になるんですか?」
「エヌ点を精神的な支点として利用するからですよ」
「未来から過去へ飛ぶことも出来るのでしょう。過去に干渉して未来が変わってしまうという不都合は起きないのですか」
「ああ、それは未来だの過去だの、この時空の時間の流れにこだわりすぎです。エヌ点は時空を超えた五次元空間にあるんですから……いや詳しい説明はしかねるが、過去に起こった事柄というのはもっと安定したもので、手を加えて動かしたりはできないのですよ」
「で、猿みたいな未開人が未来から来る?」
「ええ、もとは今から十万年の昔にいた奴らですがね」
「そいつらは十万年前からいったん未来に行って、またそこから戻ってくると?」
「いや、十万年前からだと、さらに昔にさかのぼっていって未来から出てきたほうが早い」
「どういうことですか?」
「無限の過去は、無限の未来とつながっているんですよ。それと同様に、ここから無限に上に昇っていけば下から出てこられますね」
「私の教えられてきた宇宙観とはどうも違うようだ」
「簡単な話ですよ。エヌ点が我々の四次元時空をコンパクト化しているのです。それは当然可能でしょう、四次元時空は局所コンパクトなハウスドルフ空間なのだから」
「はあ」
「ところで、いつまでも茶飲み話をしている訳にもいかない。いつ追っ手が来るか知れないんだ」マミムーメは落ち着かなさそうに、辺りをきょろきょろと見回した。
「その点は心配ないと思います。その連中の様子を聞きますと、どうやら着の身着のままでエヌ点時空ジャンプというのをして現れるだけで、とくに危険な武器も持っていないようだ」
「原始的な武器は持っていますよ。槍とか棍棒とか」
「まあお任せなさい」
 さらに二人は一杯、二杯と茶を飲んだ。だんだんと夕闇が迫り、西を向いて座っているマミムーメの顔が赤く染まった。

 突然ひゅんという音がして、庭に浮かんで見えた茶色いしみのようなものが急に大きくなり、そこから黒い毛皮を着た三人組の男たちが姿を現した。いずれも二メートルはあろうかという巨躯で、手に手に棍棒や刃物を持ち、マミムーメの姿を認めると「ウラー!」と声を上げて襲い掛かってきた。
「ひゃあ!」マミムーメが逃げ出そうとすると、草壁は落ち着いて、手にした茶色い瓶の中身を追っ手たちに向かってぶちまけた。その液体は三人の未開人の顔にかかり、とたんに三人はぎゃあと叫んで苦しんだ。
「硝酸ですよ。こいつらの目はつぶれちまいましたから、もう安心です」と草壁。
 のた打ち回ってやがて悶絶した三人の追っ手を見て、マミムーメはようやく安心したようだった。
「こいつらも例の座標表示器とやらを持ってるんじゃないですか」草壁が言うと
「おお、そうだった」とマミムーメは追っ手たちのふところを探った。
「表示器がありました。これで帰ることが出来ます」
「それは何よりです」草壁が言うと
「どうです、草壁さんも一緒に来ませんか。二十一世紀初頭は、とくに不便で遅れた時空域です。恩人のあなたには、時空飛行文明の恩恵をぜひ味わってもらいたい」
「今からですか? あいにく明日は一時間目から講義でして、これから遠出というのは」
「いやいや、あなたは時間旅行に行くのですから」
「あ、そうか。この時間にまた戻ってくれば問題ないわけだ。じゃあ、お供しましょうか」
「では、私につかまってください」
 草壁がマミムーメの銀のセーターの肩をつかむと、やがて二人はひゅっという音とともに消えうせた。無人になった草壁邸の居間の時計が、午後七時の鐘を鳴らした。

(つづく)


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快文書作成ユニット(仮)
自己紹介:
 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


 ❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。

 ❖ 呂仁為 Ⅱ 〜 昭和の想い出話や親しみやすい時代物、歴史小説などについて書きます。

 ✿ 流火-rjuka- ~ 主に漢詩の創作、訳詩などを行っています。架空言語による詩も今後作りたいと思っています。

 ☃ ちゅうごくさるなし
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 ♘ ED-209 〜 PNの由来は映画『ロボコップ』に登場するオムニ社の敵役ロボットからです。今まで書き溜めてあった自身の体験談やコラムを発表するには良い機会と思い寄稿させて頂きました。是非、御読みになってみてください。そして何より皆さんに楽しんで貰えれば嬉しいです。

 ☠ 杏仁ブルマ
セカイノハテから覗くモノ 



 我ら一同、只管に【快文書】を綴るのみ。お気に入りの本の頁をめくる感覚で、ゆるりとお楽しみ頂ければ僥倖に御座居ます。









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