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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2017/08/20 (Sun) 16:56:46

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No.48
2009/10/16 (Fri) 01:11:18

「つまり、ある平行宇宙へ向けて穴を開けることはできるけど、その平行宇宙をこちらの望みのままに選ぶっていうのは事実上不可能なことなの。ユートピアを思い描いてボタンをぽんと押せばそこへの道が開ける、なんてのは残念だけど無理な相談ね」
 アデラインは腕時計を見た。あと二三分でチャイムが鳴る。
「きりがいいから今日の講義はここまでだけど、何か質問ある?」
 教室を見回すと、まじめにノートを取っている学生もいるが、居眠りしている学生や、こそこそ私語をしている男女も多い。
「せんせーい」
「はい、何かしら」
「先生のスリーサイズを教えてくださーい」
 アデラインがむっとして返す言葉を考えているうち、講義の終りを告げるチャイムが鳴った。「ではまた来週」と言ってぷいと顔をそむけ、つかつかと去って行くと、教室から笑い声が起こった。

「まったく、宇宙アカデミーも堕ちたもんだわ」
 その夜アデラインは、自邸で夕食のスープを飲みながら、アンドロイドの召使い、セバスチャンに愚痴をこぼしていた。「あたしがいたころは、先輩の科学者にはみな敬意を払ったものよ。今はあんな軽薄な連中がえりぬきのエリートですって! 世の中狂ってるわ」
「お嬢様がほとんどの学生と同世代だから、親しみをもたれているのではありませんか」セバスチャンはにこやかに言った。
「あれが親しみっていうのかしら」
 そう、アデラインはまだ十九歳だった。早熟の天才で、わずか十一歳で宇宙アカデミーを卒業、以後数々の画期的発明、科学上の発見をし、つねに第一線で活躍してきたが、外見はまだあどけなさの残る美少女だった。それが、いま客員教授として招聘され、週一回母校の教壇に立っているのだった。

「平行宇宙の理論、その応用の可能性」という題目で、半年かけて講義する予定だった。夜半、アデラインはクッキーをほおばりながら講義ノートを見返していた。
 大統領からの依頼で宇宙ハイジャックを退治した際、彼女は「平行宇宙導来機」というものを使った。その装置は、悪者を懲らしめるのには役に立ったが、まだ開発途上のものだった。有意義な用途に向けての改良は、まだまだこれからだ……。
「お嬢様、お茶が入りました」セバスチャンが紅茶を運んできた。
「ありがと」と言いながらも、アデラインの澄んだ茶色い目は、ノートに書かれた数式の背後にある、形のないもやもやした新しい可能性を把握しようと、静かに思索にふけっていた。

 ちゅん、ちゅん。小鳥の鳴き声が聞こえる。
「お嬢様、お電話です。もう朝の八時ですよ」
「へ?」
 アデラインはたくさんのメモ書きにうずもれて、うつぶせになって眠っていたのだった。
「もう朝か……くしゅん!」彼女はくしゃみをして体を震わせた。「で、誰から?」
「宇宙アカデミーの学生さん、だそうです」
「え、学生が? なんでうちにかけてくるのよ……もしもし、アデラインですけど?」
「あ、僕、宇宙アカデミー学園祭実行委員のウィム・ヒラノです。朝早くからすみません」
「で、何のご用?」
「あの、実は毎年学園祭で、ミス・宇宙アカデミーっていうのを決めてるんです。みんなで事前に投票して。で、それが今年はアデライン先生に決まったんです。ついては、学園祭当日のセレモニーに出ていただけないか、と思いまして」
「え!? ミス・宇宙アカデミーって、そういうのは学生から選ぶもんでしょ? なんであたしがなるのよ」
「ええ、通常は学生から選ぶんですが、投票の規定には、学生からしか選んじゃいけないなんて書かれてなくて……先生みたいな若い方が教授でいらっしゃるなんて、前例がなかったものですから」
「いやよ。セレモニーなんてお祭り騒ぎでしょ。ていうか、もう予定入ってるし。別な人を選んでちょうだい」
「困ったなあ……アデライン先生のセレモニーは今度の学園祭の目玉なんです。よその大学からもそれ目当てでたくさんの学生が来ますし」
「知らないわよ……勝手に当てにしないでちょうだい」
「そうですか……じゃ、残念だけど次点の人をミスにします。朝からすみませんでした」
 電話が切れると、アデラインはあくびをしながら白衣をはおって、研究室の一つに入っていった。「まったく、近頃の学生ときたら……」

 数日後。
「共振カッターがないのよ」
「は……ひとつっきりでしたか。レーザーでは代用になりませんか」
「素材にあまり熱を加えるわけにいかないの。待って……アカデミーに持ってったような気がする」
 共振カッターというのは、どんな硬い素材にも、それ固有の振動を与えることによって共振を発生させ、難なく切断してしまう機械だった。とくにアデラインが独自に開発したそのカッターは、小さなものだったが性能は抜群だった。
「アカデミーの研究室に行ってくるわ」

 エア・カーでアカデミーに乗り付けたアデラインは、その瞬間にしまったと思った。学園祭当日だったのである。アカデミーの大通りを歩いて学生たちに見つかったら、学園祭クイーンが来たとはやし立てられるかも知れない。アデラインは宇宙工学研究棟に、遠回りして裏口からこっそり入ろうとした。
「あ! アデラインだ!」
「え、どこどこ」
「ほらあそこ! やっぱり来てるんじゃないか!」
 アデラインは顔をそむけて逃げ出そうとしたが、たちまち学生たちに取り囲まれてしまった。
「アデライン先生、いや、ミス宇宙アカデミー!」
「みんな、胴上げだー!」
「きゃーっ」アデラインは男子学生たちに胴上げされながら、わっしょいわっしょいと、学園祭本部という看板のかかった建物に連れて行かれた。
「あ、先生。やっぱりいらしたんですか。ウィム・ヒラノです」
「いらしたもなにも、強制的に連れてこられたのよ! あたしは別件で大学に来たの! 学園祭なんて知りませんからね!」
「いや、そうおっしゃられても、こうも盛り上がってしまっては」
表からは「アデライン! アデライン!」と大合唱が聞こえてくる。とても逃げ出せそうにない。
「ね、先生。ちょっとセレモニーに顔を出すだけでいいですから」
 実行委員らしい他の学生たちも、お願いします、お願いしますと口々に言った。
 アデラインは下を向いてため息をついた。「しょうがないわね」

「じゃ、これに着換えてください」ウィム・ヒラノは黒いビキニの水着を差し出した。
「何これ!? なんで教授のあたしがこんなもん着なくちゃならないのよ! しかも滅茶苦茶きわどいじゃない!」
「だって、伝統なんですよ」
「いやよ」
「うーむ……無理じいするわけにもいかないかなあ」男子学生たちが口々に言うと、こんどは女子の実行委員たちが口を出した。
「アデライン先生がこれ着なきゃ絶対盛り上がらないわよ! 先生、このムードに冷や水をかけるようなことする気ですか!」そういうと女子学生たちはいっせいにアデラインを取り囲み、無理やり服を脱がせた。
「きゃーっ」
 水着に着換えさせられたアデラインは、引きつった笑いをうかべ「ちょっと……いま服を脱がせた子の中にあたしのクラスの学生がいたわね。学期末の成績、覚えてらっしゃい」
 
 そのときだった。学園祭本部のドアをあけ、血相を変えて別の男子学生が叫んだ。
「ロボットコンテストの巨大ロボットが故障して暴れてるんだ! リモコンで制御できなくなったらしい! 特設ステージとかもう無茶苦茶だし、航空工学棟からは火も出てる!」
 みなで様子を見に行くと、巨大な黒いカニ型ロボットが周囲のものを破壊しつつ暴れていた。レーザー光線を目から発射し、木々を焼き払っている。学生たちは避難して、遠くから眺めているばかりだった。
「アデライン先生、なんとかしてください!!」
「この恰好のあたしにどうしろって言うのよ!!」黒いビキニ姿のアデラインはなるほど無力そうだった。しかし「ちょっと待ってなさい!」というと、彼女は裸足でどこかに駆けていった。

 宇宙工学棟の扉をたたくアデライン。「開けて! 開けるのよ!」
「誰だ?」守衛の老人がガラス戸の中からいぶかしそうに言った。
「アデラインよ! 緊急なの! いま入館カードがないのよ!」
「おやおや」守衛は彼女の顔を認めてドアを開けた。「なんですか、その恰好は」
 透きとおるような白い裸体をさらして血相を変えている美女の姿は、大学という場所ではなるほど非日常的だった。「ありがと! いま説明してる暇がないのよ!」アデラインは栗色の長い髪をなびかせ建物の中へ去っていった。

 しばらくすると学生たちのもとへ、金属製の大きな筒をかついだアデラインが戻ってきた。彼女はしゃがんで、筒の先をカニロボットに向けた。
「あたしが合図したら、ライターでその茶色い紐に点火してちょうだい」
 カニロボットが大きな両腕を振り回しながら、ぐんぐん近づいてくる。
「今よ!」
 ぽん、という音とともに白煙が立ちのぼり、ロボットの眉間に緑色の物体がへばりついた。
「共振カッターを接着剤でくっつけたのよ」アデラインはパンツの後ろから発信機を取り出し、スイッチを入れた。ブーンブーンという音とともに、ロボットの動きが鈍くなった。見る間にロボットの頭の真ん中に裂け目ができ、白い閃光とともに爆発を起こした。
 その強い光と爆風で、みな一瞬目がくらんだが、暗くなるとそこには粉々になったロボットの破片が散らばっていた。

「ほんと、今日は散々だったわ」アデラインは自邸のソファに腰かけ、ため息をついて言った。
「しかし、お怪我がなくて何よりでした」セバスチャンは、彼女のためにコーヒーを注ぎながら応じた。
「あれ、時計が狂ってる」アデラインは腕時計と壁掛け時計を見比べながら言った。「腕時計のほうが五分遅れてるのね……こんなこと、初めてだわ」
 そう、その特別製の腕時計が遅れるなど、初めてのことだった。
 電話が鳴った。
「アカデミーのウィム・ヒラノ様からです」セバスチャンが取り次ぐ。
「あ、先生ですか。きょうは本当にお世話になりました。それから、たいへん失礼なことをしてしまって……」
「ううん、いいのよ。で、結局けが人は出なかったの?」
「ええ、幸い誰も。ところで、あのカニ型ロボット、当初はロボット・コンテストに出品されたものだと思われていたのですが、あんなロボットを作った者は誰もいなかった、というんですよ。誰も作らないのにどこから来たのかって、いま警察が来てみな取調べを受けてるんです」
「ふーん、それは不思議ね……」アデラインは目をぱちくりさせてつぶやいた。

(つづく)

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執筆陣
HN:
快文書作成ユニット(仮)
自己紹介:
 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


 ❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。

 ❖ 呂仁為 Ⅱ 〜 昭和の想い出話や親しみやすい時代物、歴史小説などについて書きます。

 ✿ 流火-rjuka- ~ 主に漢詩の創作、訳詩などを行っています。架空言語による詩も今後作りたいと思っています。

 ☃ ちゅうごくさるなし
主に小説を書きます。気が向けば弟のカヲスな物語や、独り言呟きなことを書くかもしれません。

 ♘ ED-209 〜 PNの由来は映画『ロボコップ』に登場するオムニ社の敵役ロボットからです。今まで書き溜めてあった自身の体験談やコラムを発表するには良い機会と思い寄稿させて頂きました。是非、御読みになってみてください。そして何より皆さんに楽しんで貰えれば嬉しいです。

 ☠ 杏仁ブルマ
セカイノハテから覗くモノ 



 我ら一同、只管に【快文書】を綴るのみ。お気に入りの本の頁をめくる感覚で、ゆるりとお楽しみ頂ければ僥倖に御座居ます。









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