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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2017/10/17 (Tue) 18:44:38

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No.52
2009/10/16 (Fri) 01:20:06

「夢でも見てたんじゃないの?」森の中で、殺気(さつき)が冥(めい)に言った。
「嘘じゃないもん」冥はかたくなに答えた。彼女の大きな目は涙ぐんでいる。
 冥は吐屠郎にこの森で出会ったことを、興奮して殺気と父親に伝えたのだが、再度森の中に入ってみると、どこにも吐屠郎のすみからしき場所は見つからなかった。
「誰も冥を嘘つきだなんて言ってやしないさ」草壁が神経質に唇の端をぴくぴくさせ、眼鏡を指でずり上げながら言った。
「この森の空気は異常だ。おそらく旧日本軍の化学兵器か何かのせいで、樹木から発するフィトンチットが毒性をおび、それが冥の視床下部に影響して幻覚を生んだのだろう」
「幻覚なんかじゃないもん!!」
 草壁は冥のことばを無視して、目の前の巨木に向かって叫んだ。「冥がひどい目にあいました! もうこんりんざい関わらないでください!」草壁は深々と一礼した。
「うちまで競走!」父はそう言うと急に駆け出した。
「あ、お父さんずるい!!」
「幻覚じゃないもん!!」
 そうして三人は、森を抜けて仲良くわが家に駆けていった。

 七酷山病院(しちこくやまびょういん)――獄門島の北端に位置するこの病院は、つくりは古い木造だが最新型の設備も備えた、この島には立派過ぎるともいえる病院だった。
 殺気と冥の母親が、肺病を患ってこの病院に入院していた。今日は、二人の娘が見舞いに訪れていた。
「それがね、お母さん、今度の家、またお化け屋敷なのよ」
「まあ。でもね、お母さん、お化け屋敷大好きよ」母はにっこりと微笑んだ。
 そのあと、母は殺気の髪をクシですいてやった。
「殺気はあいかわらずのくせっ毛ねえ。お母さんの子供のころにそっくり」
「私も大人になったらお母さんみたいな髪の毛になる?」
「たぶんねー」
 病室に、大柄でがっしりした、中年だが色白の医師が現れた。
「草壁さん、今日のお加減はいかがですか」
「ええ、とても具合はいいんですの。こうして子どもたちもお見舞いに来てくれましたし。……こちら、私を診てくださっている西神先生よ。殺気も冥もごあいさつなさい」
「しにがみ先生?」殺気が言った。
「ニシガミだ」医師は憮然として訂正した。
「わ、すみません!! すごく失礼なこと言っちゃいました!」殺気はあわてて頭を下げた。
「ワハハハ。いや、小さいのにしっかりしたお嬢ちゃんだ。いいさ、わしのことを死神博士と呼ぶ仲間もじっさい大勢いる。わしが外科医として、何でもすぐに切ってしまうからだろう。しかし風邪が万病のもとというのと同様に、ほんの小さな指先の怪我が破傷風を引き起こしたり、命に関わることが往々にしてあるのだ。命に比べれば、腕の一本や二本、足の二本や三本切り落としたって安い代償なのだ。だから何でも切ってしまうに限る。さっきも足に擦り傷をした少年がいて、膝から下を切断してきたところだがね」
「お母さんの具合はどうなんですか?」殺気が尋ねた。
「いや、君たちのお母さんの病気は軽いものだ。肺の一部をちょっと切り取れば助かるからね」
「ウシシ、ウシシ、シニガミ博士~」とつぜん冥が首をリズミカルに振りながら言った。
「なんだ、このガキは?」西神博士はさっきまでのにこやかな表情を一変させ、険しい表情で言った。そして冥の髪をつかんでぐいと顔を近づけた。
「目玉が異様に飛び出しておる。バセドー氏病か? そしてこの鼻と唇は末端肥大症の兆候を見せておる。それもおそらく重度だ。おい、助手! 新しい患者だ!」
「はっ」緑の手術着をきて大きな眼鏡をかけた助手が、鉄のベッドをがらがらと押して病室に入ってきた。
「このガキを緊急オペだ。手術の用意をしろ」
「術式は?」
「脳下垂体の部分切除およびラジウム片移植だ。甲状腺も切ろう。必要ならロボトミーも施す」
 助手は冥をベッドに押さえつけ、太いゴムひもで縛り付けてしまった。ぎゃあぎゃあ泣き叫ぶ冥を乗せたベッドは、あっという間にどこかに運ばれていった。
「冥、だいじょうぶかしら」殺気はあっけにとられて言った。
「あの先生に任せておけば大丈夫よ」母親はにっこりして答えた。

 草壁が毎日利用しているバスの停留所。夕方から急に雨が降り出し、殺気は父の傘を持ってむかえに行くことになった。西神博士の脳手術を受けて傷あとも生々しい冥は、家でじっとしていろという姉の忠告を聞き入れず、黄色い雨がっぱを着て、バス停まで付いてきた。
 冥は、雨のなか長時間バスを待つうちに眠くなり、立ちながらウトウトとしかけていた。
「ほら、いわんこっちゃない……私の背中におぶさりな」殺気が冥の小さな体をおんぶした。傘を差しながらだから大変だが、姉はこうしたことにはもう慣れっこだった。
 ぽとり……という音が耳に入り、殺気がふと横を見ると、そこには大きくて奇妙な動物が立っていた。頭は人間、胸と腕はゴリラ、腹は牛、足は馬……これは冥の言っていた吐屠郎に違いない。
「あなた、吐屠郎ね!? そうでしょ?」
 吐屠郎はうすら笑いを浮かべながら、殺気を見おろした。
「あ、ちょっと待って」殺気は、父の傘を開いて吐屠郎に渡した。「ほら、こうやって使うのよ」
 吐屠郎は傘を不思議そうに眺めてから、頭の上に差した。
 ぽとり……ぽとり……。雨のしずくの音が聞こえるたびに、吐屠郎は目を丸くしてニタリと笑った。
「気に入ってくれた?」殺気がにっこりして尋ねた。
 そのとき、暗闇の向こうにバスのヘッドライトが輝くのが見えた。
「あ、バスが来たわ」
 大幅に遅れたバスが、ようやくバス停に到着した。
 その途端、吐屠郎は血相を変えてバスの車体に手をかけ、ぐらぐらと揺すった。
「うがー!」
 吐屠郎はついにバスを横倒しにした。乗客の阿鼻叫喚。砕ける窓ガラス、炎を上げるエンジン。
「あなた、何するの!?」
 モンスターは殺気の詰問には答えずに、脱兎のごとく駆け出し、暗闇の中に消えていった。
「まったく、何事だい」草壁が額から出る血をハンカチで押さえながら、バスの窓から姿を現した。
「吐屠郎よ、吐屠郎が……」
 冥も目を覚ました。「え、吐屠郎? どこどこ?」
 バス停の横に、新聞紙で何かをくるんだらしい物が落ちていた。
「これ、吐屠郎からのプレゼントよ、きっと」冥が言った。

 この夕暮れの雨は、獄門島の運命を変える雨だった。島の南端にある喪漏博士の屋敷から漏れたゲルジウム・ガスが、雨に吸収されて地面に吸い込まれていった。そして運悪いことに、この島では土葬が一般的だった。いま、島の南部の墓地の地下からは、死者がうめき声を上げて次々と目を覚ましつつあった。
 ズボッ、ズボッ。墓地の地面から次々に突き出す死人の手……。
 このゾンビたちは、この島にいかなる災厄をもたらすのであろうか……。

(つづく)

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執筆陣
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快文書作成ユニット(仮)
自己紹介:
 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


 ❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。

 ❖ 呂仁為 Ⅱ 〜 昭和の想い出話や親しみやすい時代物、歴史小説などについて書きます。

 ✿ 流火-rjuka- ~ 主に漢詩の創作、訳詩などを行っています。架空言語による詩も今後作りたいと思っています。

 ☃ ちゅうごくさるなし
主に小説を書きます。気が向けば弟のカヲスな物語や、独り言呟きなことを書くかもしれません。

 ♘ ED-209 〜 PNの由来は映画『ロボコップ』に登場するオムニ社の敵役ロボットからです。今まで書き溜めてあった自身の体験談やコラムを発表するには良い機会と思い寄稿させて頂きました。是非、御読みになってみてください。そして何より皆さんに楽しんで貰えれば嬉しいです。

 ☠ 杏仁ブルマ
セカイノハテから覗くモノ 



 我ら一同、只管に【快文書】を綴るのみ。お気に入りの本の頁をめくる感覚で、ゆるりとお楽しみ頂ければ僥倖に御座居ます。









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