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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2024/03/28 (Thu) 20:48:35

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No.55
2009/10/16 (Fri) 01:25:59

 毒島(ぶすじま)をまじえて、殺気(さつき)、冥(めい)、姦太(かんた)、それから鬼婆は、階段でデパートの上の階へ向かった。殺気と冥は缶詰など食料品を集めにかかった。
「毒島さん、みんな、ちょっとこっちに来て! 屋上にヘリコプターがある」姦太が非常口から手招きした。
 皆は屋上に向かった。そこには五人は充分に乗れそうな黄色いヘリコプターがあった。
「燃料は入っているようだな」毒島は言った。
「毒島さん、操縦できる?」殺気が聞いた。
「いや、残念ながら出来ない」
「はぁ、ぬか喜びだったか」姦太がつぶやいた。
「しかたねえの、わしが操縦すっか」鬼婆はそういうと、懐から取り出したサングラスをかけ、操縦席についた。
「婆ちゃん、操縦できるの!?」姦太が驚いて言った。
「お婆ちゃん、すごーい!!」殺気と冥が叫んだ。
「むかしSWAT部隊にいたからの」
 皆はすっかりヘリコプターに乗り込んだ。
「テイク・オフぞな」鬼婆はヘリを離陸させた。地上を見おろすと、どこもかしこもゾンビの群れがのろのろ歩き回っていた。
「ひどいわ……お父さん、どこにいるんだろう」殺気が心細げに言った。
「ちょっと姦太くん、その腕どうしたんだい」毒島が尋ねた。
 姦太の二の腕に、噛まれたような化膿しかかった傷があった。
「殺気のうちでゾンビと戦ったときに噛まれたんだ。どうってことないよ」
「そうか……」
「……そろそろ病院が見えてきたわ。屋上にヘリ、着陸できそうじゃない、お婆ちゃん?」殺気が言うと鬼婆は首を振った。
「もう病院も危ねえ、近寄らんほうがええわ。獄門島はもう駄目だ、このまま逃げちまったほうがええ」
「いやよそんなの! 病院にはお母さんがいるのよ。お母さんとお父さん、みんないっしょでなきゃ嫌!」
「そげなこと言ってもなぁ……じゃ、病院に降りるから三十分以内に戻ってきな。三十分たったら婆ちゃん独りで逃げちまうからの」

 鬼婆を除く四人は病院の屋上でヘリを降り、無事に生きている人間を慎重に探した。さいわい最上階にはゾンビの姿は見当たらなかった。
「誰だ」角を曲がろうとした姦太のこめかみに銃が突きつけられた。
「ぼ、僕はゾンビじゃありません、怪しい者でもありません」
「西神先生!」殺気が叫んだ。そう、そこにいたのは、母の主治医の西神博士だった。
「お母さんを探してるんです、お母さんは無事なんですか!?」
「なんだ、草壁さんのお嬢さんか。いや……いきなりゾンビの大群に襲われたもんで、できるかぎり多くの患者をこの最上階に上げて階下を封鎖したんだが……草壁さんの奥さんはどうも見当たらないんだ」
「そんな、そんな」
「あたしが下に行ってお母さん探してこようか」冥が拳銃を両手に持って言った。
「いや、いくら人間離れした冥ちゃんでも危険だ」
「おお、ここにいたのか」病院内を手分けして探っていたので、はぐれていた毒島が来た。
「こちらは?」西神が聞いた。
「毒島といいます」
「たしか喪漏博士(もろうはかせ)の助手も毒島といったが……」
「はい……博士の助手です」毒島は少し決まり悪そうに言った。この騒ぎの責任は、間違いなく喪漏博士と自分にあったからだった。しかし皆はまだそのことを知らない。
「喪漏博士なら、この騒ぎを静める効果的な方法を知っているかも知れない、と思っていたのだが」
「いや……何もかも白状します。隠したって仕方がない」
 毒島は、ゲルジウム・ガスで人造人間吐屠郎を生み出し、その過程でガスが漏れ、この騒ぎにつながった、という一部始終を語った。
 冷然と毒島を見おろす西神博士。しかしやがて
「起こってしまったことはしょうがない。事態の収拾策を考えよう。そうしたガスについて詳しそうな人物といえば、喪漏博士と、あとこの島では石黒博士……いや、石黒さんは死んだんだっけな」
 石黒博士は、無実の罪で処刑されたのだった。
「……いや、実は石黒博士の首というのが……」毒島が言いかけたとき、姦太が叫んだ。
「あれを見ろ。ヘリコプターが!」
 皆がいる場所の窓から、ちょうどヘリポートが見えたが、今しもヘリが飛び立とうとしていた。しかし驚くべきはそのことではなく、白衣の医者や患者らしき大勢の男たちが、ヘリになんとか乗ろうとしてしがみつき、機体が大きくバランスを崩しかけていたことだった。
「危ない! 婆ちゃん、離陸をやめろ!」
 姦太が必死に叫んだが、ヘリの爆音もあり聞こえるはずもなく、鬼婆は必死でヘリを飛び立たせようとしていた。操縦席から乗り出して、機体につかまっている大勢の男たちに向けて銃を撃ちまくっている。サングラスをした鬼婆は、物凄い形相でなにやら悪態をついているようだった。
「まるで蜘蛛の糸にむらがる亡者の群れだ。まさに地獄だ」西神博士はつぶやいた。
 ヘリコプターはついに亡者たちの重みに耐えかね、炎上しながら地上に墜落していった。多くの者を巻き添えにしながら……。
「お婆ちゃん!!」
「ああいう死に方はしたくないものだ……この状況の中、いずれ死ぬにしても」西神は言った。

 ドン!……ドン!……封鎖している非常口の扉が、何者かによって衝撃を受けていた。
「ゾンビが大群で襲ってきたのか!?」西神博士は銃を構えた。
「ウォ、ウォ、ウォー! ウォ、ウォ、ウォー!」
「と、と、ろ……吐屠郎の声だ!!」冥が叫んだ。
「吐屠郎は味方と思っていいのか?」西神が言うと、殺気と冥は声をそろえて
「もちろん味方よ!」と叫んだ。

 吐屠郎は迎え入れられた。青白い顔を神経質に引きつらせている。その毛むくじゃらの手には風呂敷包みをぶらさげていた。
「吐屠郎、それ何?」冥が尋ねると、吐屠郎はバリケード用に廊下に出された机の一つに包みを載せ、開いてみせた。
「それは、人間の首……!?」一同は驚いた。
「待て、それは石黒博士の首じゃないか? そんなものをどうして……」西神が言った。

(つづく)
 
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自己紹介:
 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


 ❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。

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