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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2024/04/16 (Tue) 23:52:24

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No.56
2009/10/16 (Fri) 01:28:05

「石黒博士? この吐屠郎の首がそのはずですが?」毒島が言った。
「吐屠郎の顔はタケやんだよ。石黒博士がそんなアホ面なもんか」姦太が応じた。
 吐屠郎は身振りで、石黒博士の首に何か話させようと提案しているようだった。
「ふむ……石黒博士にこの状況の打開策を尋ねようというのか。首を蘇生させるんだな。設備も揃っているし、あるいは成功するかも知れん……毒島博士、手伝ってくれ」
 西神博士はそう言って、石黒博士の首を持って手術室に向かった。
「あ、その前に、言いそびれていたのですが」毒島は西神に小声で言った。「この姦太という少年が、腕をゾンビに噛まれています。放っておくと彼もゾンビになってしまいますが」
 さっそく姦太の血液が検査された。「これはいかん」西神はうめいた。
「どうしたの? おれ、体が悪いんですか」
「姦太君、実はね……気を確かに持って聞くんだよ」毒島は姦太の体に今後起こることを説明した。「つらいだろうが、君も最後まで人間として生きたいだろう……あんな薄気味悪いゾンビなんかになりたくないだろう。よく考えて、そして自分の手で始末をつけてほしい」
 毒島は一丁の拳銃をずしりと、姦太の前に置いた。
「そんな……姦太君に自殺しろっていうの!? 無茶だわ、治せるはずよ」殺気は叫んだ。
「もう手遅れなんだよ。姦太君には自分で頭を撃ち抜いてもらうしかない」
「うぁー」殺気は泣いた。
 姦太はぶるぶる震えながら黒い拳銃を見つめていた。

 手術室では、西神と毒島が石黒博士の頭部の手術にかかっていた。
「さて、人工心肺装置もある。電気刺激で博士の意識を呼び起こせるかどうか……脳がネクロージスを起こしていないかが心配だな」西神はそう言って、てきばきと蘇生の準備を進めた。
 様々な管が頸部につながれ、電気刺激を与えられて、やがてその青白い頭部のまぶたや口元の皮膚が、ぴくぴくと痙攣しだした。

 そのとき草壁は、まだ病院にはたどり着けず、霧の立ち込める砂利道を恐るおそる北へ向かって歩いていた。南から三四人のゾンビが、ふらふらと向かってくる。白目をむいて泡を吹いている、不気味なその青白い顔、顔、顔……。
 そのときパン、パン、パンと銃声が続けざまに鳴りひびいた。ゾンビたちはその場に倒れた。「大丈夫かね?」小柄で精悍な顔をした五十がらみの男が草壁に話しかけた。
「あ、ありがとうございます。命拾いしました」
「ここは危険だ。それに、島の外部と早く連絡を取らねば」
「あなたは?」
「私は喪漏(もろう)というものだ。この騒ぎの責任はすべて私にある……あなたは武器を持っていないようだから、私と来るといい。少し危険だが、サイバネティックス研究所に行って無線で本土と連絡を取ろうと思う」

 姦太はわなわなと肩を震わせていた。
「おれ……おれ、殺気のことが好きだったよ。模型飛行機も見せたかったし、自転車の三角乗りも見せたかった。でも、男だもんな。最後は潔く元気よく! う、うう、うひ、うひ、うひひひひ、あっるっこー、あっるっこー、歩くの、大好きー」ずぎゅーん!!
 姦太は自分の頭を撃ち抜いてこと切れた。
「姦太君!」
「姦太兄ちゃん!」冥も叫んだ。

「さあ、石黒博士が意識を取り戻したぞ。みんな、こっちへ来い」
 博士の首は、そこから出ている何本もの管が機械につながれ、うつろな目でゆっくりと周囲を見回していた。
「石黒博士、分かりますか? 聞こえますか?」
「き、聞こえる」
「なんといったらいいか……緊急事態なのです。呼び覚ましてしまって大変申し訳ありません」
「き、緊急事態とは、なんだ」
「ことの始まりは、喪漏博士がここにいる吐屠郎という人造人間を造ろうとしたことでした。そしてその際使用したゲルジウム・ガスが漏れてしまい、島中に広がってしまったのです。ゲルジウム・ガスは死者を蘇らせる作用があります。そのため今、獄門島はゾンビだらけなのです」
「そのガスの組成を教えてくれ」
 毒島はゲルジウム・ガスの化学組成を伝えた。
「うむ、少し考えさせてくれ……主成分のトライオキシン235の過剰な重酸素のためにガス中のウラニウム塩が容易にヒトの延髄に沈着し……その刺激によって視床と神経的に分離された頭頂葉が不随意筋の動作を可能にし……同時に放射性を帯びたリンパ液が人体の半永久的な運動を……つまりこの生ける死体の活動を休止させるには、活性化した神経の許容を超える放射線を被曝させる必要がある……一秒あたり約8000ミリシーベルトの放射線が必要だろう」
「ということは……」
「普通の人間が一瞬で死んでしまうような放射能で獄門島を一気に焼き尽くす必要があるということだ」

 喪漏博士と草壁は、なんとかサイバネッティクス研究所にたどり着き、無線で本土の防衛庁を呼び出した。オペレーターは初め態度がぞんざいだったが、喪漏が「喉切島と関わりのある件だ」というと途端に緊張して「担当将校につなぎます」との返事だった。
「化学兵器対策室の佐藤というものです。通報に感謝します。まずそちらの正確な位置をお知らせください……はい。いつからですか? 一週間前……で、その獄門島の面積はどのくらい? で、何人ぐらい蘇りました? ……ではその墓地の面積は? ふむ」
 佐藤という将校はてきぱきと質問し「至急作戦行動をとります。折り返し連絡しますからそのままでお待ちください」
 佐藤は無電を切ると、ミサイル将校に直通の緊急用ホットラインを呼び出した。
「“ツチノコ”が目を覚ました。目標は獄門島」

「しかし石黒博士、ゾンビを倒すためには我々も共倒れになるしか方法がないとは……もっと有効な弱点はゾンビにはないのですか?」西神が言った。
「死にたくなければさっさと逃げることだ。いや、もう政府は核ミサイルを使った事態の鎮圧に動いてるかも知れん。喉切島の前例があるという事だし……いや、ちょっと待て、今日は何日だ?」
「十一月の七日です」
「いかん、獄門島はもうすぐ海に沈む」
「ええっ」一同は驚いた。
「私は死ぬ前日に南からまっすぐ走るひび割れを海岸で見た。それはニューギニア西方沖から続き、ユーラシアプレート全域を揺るがす地殻変動の予兆なのだ」
 石黒博士が言い終わると、ごごごご……という轟音が沖から響いてきた。みしみしと建物が揺れだし、外を見ると南方から巨大な津波が押し寄せてくるのが見えた。
「この島は、もう海に沈んじゃうの!? すぐに?」不安な顔で殺気が尋ねた。
「そうだ」石黒博士が断言した。
 ごごごご……がががが……かつて威容を誇った七酷山病院は、土台から崩れさった。

 かつて獄門島があった海域には、陸地は跡形もなく、青々とした海が広がっていた。かん高い少女の叫び声が聞こえる。
「ウシシ、ウシシ、美味そうなすけとうだら~~!」
 冥が黄色味がかった赤黒い目をぐりぐりさせて、魚類とたわむれていた。
 そこへ、白い大きな汽船が通りかかった。
「見ろ、あそこで子どもが溺れているぞ!!」
「ロープと浮き輪を投げろ!」
 冥は、大人たちによって汽船に運び上げられた。甲板で、立派なあごひげをした白衣の男が冥を抱きしめて言った。
「お嬢ちゃん、もう心配は要らないよ。おじさんたちとイソダストリアに行こうね」
「うききききー!!」

(おわり)

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執筆陣
HN:
快文書作成ユニット(仮)
自己紹介:
 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


 ❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。

 ❖ 呂仁為 Ⅱ 〜 昭和の想い出話や親しみやすい時代物、歴史小説などについて書きます。

 ✿ 流火-rjuka- ~ 主に漢詩の創作、訳詩などを行っています。架空言語による詩も今後作りたいと思っています。

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