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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2024/04/26 (Fri) 20:33:26

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No.58
2009/10/16 (Fri) 01:32:14

「まったく、俺が胴巻きに銭をいっぱい入れてたから助かったがよ、あんたらよく俺を見殺しにしたな」三十円の介が、鴨居に手をかけて言った。
「でも、ああしなければ、あなたまた人を斬ったでしょう?」と奥方。
「だからといって俺が斬られりゃどうしようもねえじゃねえか」
「あら、人を殺すより殺されたほうがいいんじゃない?」千鳩(ちばと)が言った。「わたし学校で習ったわ。そういう考え方をしてこそ、真の平和が実現できるんだって」
「けっ。人を楯にしといていう言葉か」
三十円の介らは平田の屋敷、つまり具呂藤(ぐろふじ)の隣にある家に集まっていた。

「さて皆さん、これからどうするおつもりです?」奥方が若者たちに聞いた。
「まず、伯父の行方を突き止めて奪い返します。それから……」伊瀬地(いせじ)が言った。
「それだけで十分だ。やつら、城代に罪をなすりつけようとして、なんのことはねえ、自分で罪を白状してやがるんだ。城代を奪い返せばやつらはもうそれっきりよ」と三十円の介。
「おそらくそうでしょうね。ところであなた」奥方が三十円の介に向き直った。「あなたのお名前は?」
「は? 名前ですか? 私の名前は……」三十円の介は具呂藤の庭に咲き乱れる見事な椿に目をやった。「椿……三十円の介。いや実は、故郷(くに)で借金をして返すあてがなく浪々の身でしてね。もうすぐ利子が膨れ上がって四十円の介ですが」
「まあ、面白い方ね」奥方と千鳩はくすくす笑いあった。

菊田側の軍勢が、ぞくぞくと具呂藤の屋敷に集まっていた。そこに城代が監禁されているのは間違いなかった。
「よーし、俺が菊田の側にニセの情報を教えに行こう。俺たちの軍勢が集まっているところを教えてやるんだ。どこか離れた寺にしよう。俺が山門の二階で寝ていたら敵の手勢がぞろぞろ集まってくるのが見えた。どうだ、この案は? どこかいい寺はねえか」
「光明寺。あそこなら人気もほとんどない」
「光明寺だな。具呂藤の軍勢が出払ったところを見計らって合図を送るから、お前らなだれ込んでこい」
「してその合図は?」
「火をつける。椿屋敷がぼんぼん燃え出したらやってきな」
「いけませんよ、そんな乱暴な」奥方が口を挟んだ。
「こういうのはどうかしら。椿の花を、お隣から通じている水の流れに流すの」と千鳩。
「まあ、それはいいところに気づきましたね」
「白い椿が庭の流れにいっぱい流れてくるの。きっととってもきれいだわ」
「まあ、私は赤い椿のほうが好きですよぅ」
奥方たちの会話をいらいらして聞きながら、三十円の介はふすまに書かれている文字を何度も指でなぞった。
「赤い椿や白い椿が流れてくるなんて、なんてロマンチックなんでしょう。椿と言えば私が若いころ……」奥方がなおも話を続けようとすると、三十円の介は我慢の限界に達して
「イライラするんだよこんちきしょー!!」といきなり刀を抜いて、横ざまに奥方の首に斬りつけた。
「きゃーっ」大量の鮮血が障子に飛び散り、はね飛ばされた奥方の首が床の間に転がった。
「あんた何てことするんだ!!」伊瀬地が叫ぶと三十円の介は、
「けっ。その奥方ならタフだから首はのりでくっつけときゃ元通り治らぁ」
「千鳩、のりだ、のりのり」
伊瀬地と千鳩が大急ぎで、水のりで奥方の首を胴体に接着すると、奥方はすぐに意識を取り戻し、ずれた首の位置を自分で直しながら「ところで椿さん」
「それみろ治ったじゃねえか」
「お父様を助けるに当たっても、なるべく手荒なことはなさらないように」
「せいぜい気をつけるぜ。さてと、腹ごしらえも出来たし、そう急ぐこともねえだろ。みんなで酒のまねえか」
「酒など飲んでる場合ではないでしょう!」若者の一人が言った。
「いいじゃねえか、俺は酒飲むと面白くなるんだぜ。みんなで王様ゲームやろう。そのあとは乱交パーティだ。きっと盛り上がるぜ」
「あんた俺達からまきあげた金で借金返してくにに帰ってくんねえかな」
「そうかたい事いうなよ。な? な?」
三十円の介は若者たちの肩に手を回して媚びるようにニヤニヤ笑った。

(つづく)

(c) 2009 ntr ,all rights reserved.

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自己紹介:
 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


 ❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。

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 ✿ 流火-rjuka- ~ 主に漢詩の創作、訳詩などを行っています。架空言語による詩も今後作りたいと思っています。

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