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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2017/08/20 (Sun) 16:51:47

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No.63
2009/10/16 (Fri) 01:43:07

ボルト、パウエル、タイソン・ゲイといった錚々たるスプリンターと並んで、ロンドン・オリンピックの百メートル走決勝のスタートラインに立ったモンスター。これまでの、松平監督との厳しい特訓の思い出が走馬灯のように彼の脳裏によぎった。

「ほれほれ、速く走らんと轢き殺すぞ!」ダンプカーでモンスターを追いかける松平平平。
弓矢でモンスターを射殺しようとする松平平平。
活火山の噴火口にモンスターを突き落とす松平平平。
チェーンソーをうならせて追いかけてくる麻生総理そっくりの松平平平。

スタートの合図の、ピストルが発砲された。

金メダルを獲ったら、松平監督を血祭りに上げてやる。そうだ、そうだ。なぜ今まで松平の命令を唯々諾々と受け入れてきたのだろう。殺せ、殺すんだ。

「モンスター、ぶっちぎりの一着でゴールイン! タイムは6秒97!!」
モンスターは日本国旗を持って、陸上競技場のフィールドをウィニング・ラン……するかに見えたが、松平監督の姿を認めると、観客を押しのけて近づいていった。
「よくやったぞ、モンスター! お前は本物の金メダリストだ!」
「そうだ、だがこれまでの仕打ちを忘れてはいまいな、松平」
「何のことだ?」
「貴様の拷問のような訓練、その苦痛、そして死んでいった同じ陸上部員の仲間たち……この恨みは深いぞ。俺はお前を殺す! もっとも苦痛に満ちた死に方をさせてやる!」
「おお、お前のその瞳! 単なるスプリンターを超えた、神のような眼だ! お前、いや、あなたこそわが蟻濠図帝国(ぎごうとていこく)の次期帝王にふさわしいお方だ!」
「何を言い出すんだ、松平!?」
「実は私は、跡継ぎのいない蟻濠図帝国の王位にふさわしいものを探しに日本に参ったのでございます。いやあなたこそ私の求めてきた人物だ! 皆のもの、凱旋の用意だ!」
一つ目のモンスターは訳がわからないまま金銀の細工できらびやかに飾られた輿(こし)に乗せられ、朱や桃色の薄絹を身にまとった少女たちが花を辺りに撒き散らした。そして「ほいだらほい、ほいだらほい」という訳のわからない歌とともに、モンスター一行はロンドンをあとにしたのだった。

蟻濠図帝国に着いたモンスターは、民衆の熱烈な歓迎を受けた。
「一つ目モンスターの王様、万歳! モンスター万歳!」
しかし輿の上から、歓迎に参加しない、白い着物を着た大勢の人々が遠くに集まっているのが見えた。
「あの連中は何をやっているのか」
「葬儀でございます」と松平。
「ちょっと待て。火葬のようだが、二つ棺が見えるぞ?」
「あれは死んだ者の妻が殉死するというしきたりがありまして……」
「殉死!? そんな悪習はやめさせるのだ!!」
モンスターは輿を飛び降り、火葬が行われている葬儀場に飛び込んだ。モンスターを止めようとする者は容赦なくチョップで首をはね飛ばされた。鮮血が勢いよく飛び散る。
山と積まれた薪の上の棺から、殉死しようとする妻を助けようとして、炎の中に果敢に飛び込み、薪の山を這い登るモンスター。
「王様、王様! その故人の妻はですね!」
「やかましい! 罪なく死ぬ者を放っておけるか!!」
「だからその妻は!」
「よし! もうすぐ棺に手が届くぞ」
「その妻、人形なんです!」
と言われてモンスターは、薪の山が崩れると同時に地面に転げ落ちた。

「なんだ、人形だったのか」体中に大火傷を負ったモンスターは、体中に包帯を巻かれて横たわり、つぶやいた。
「だからそう言おうとしたら火の中に飛び込むんだから……もう殉死なんて不合理な風習はやってませんよ。その風習の名残りとして人形を燃やしてはいますが」と松平。
瀕死の重傷を負ったモンスターだったが、もともと不死身の体であり、一昼夜もするとすっかり回復した。

宮殿の王の居室で、執事の松平が
「あすは国王として初の演説です。こちらに原稿を用意してありますので……」と言うとモンスターは、原稿を奪い取りビリビリと引き裂いた。
「俺は俺のやり方でこの国を治める。この国には因習にとらわれない、俺のような者の生の言葉が必要なんだ」
宮殿の窓から空を見やると、満月は不気味な紅色に光っていた。

(つづく)

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自己紹介:
 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


 ❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。

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