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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2024/04/24 (Wed) 01:50:20

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No.65
2009/10/16 (Fri) 01:48:52

磯野家のあるS-7地区の核シェルターに、突如として放射能汚染の警報がわんわんと鳴り響いた。死の灰の降り積もった地上から、放射線が漏れてきているときに鳴るものであり、緊急度が高いとコンピュータが判断したためか、あっという間にS-7地区は分厚いシャッターで他の地区から隔離されてしまった。
「どこが汚染されたのか?」人々は防護服を着て探知機であちこち調べて回ったが、どこにも異常は認められなかった。どうもコンピュータの誤作動らしい……しかし一度降りてしまった重いシャッターを開けることはなんとしても不可能だった。そして間もなくこの地区で食糧危機が叫ばれるようになった。
「この地区の食糧庫には、一ヶ月分の余剰しかないそうだ。なんとか他に食糧を確保する方法を考えんと」波平は言った。
波平を含めこの地域の大人たちは、もやしやカイワレ大根のようにすぐに育つ植物の栽培を試みたり、プラスチックからパンを作る研究も始めた。

「どうせそのうち死ぬんだから、今を楽しめばいいのになあ」カツオは大人たちを見て言った。「なあワカメ、バーチャルリアリティもいいけど、そろそろ飽きてきたよ。俺、本当にうきえさんとやりてえよ。ワカメ、いい方法考えろよ」
「簡単よ。うきえさんを薬漬けにすればいいんじゃない」
ワカメとカツオは、うきえのいる伊佐坂家に、大量の薬物を持って押しかけて行った。

「大変ですぅー!」タラちゃんが叫びながら、磯野家に帰ってきた。「カツオ兄ちゃんが、うきえお姉さんと変なことしてるです!」
血相を変えた波平が、伊佐坂家の窓からその行為の最中のカツオに怒鳴りつけた。
「カツオ!! 何をしとるか!」
しかしカツオは動じなかった。「へっ。もうモラルもへったくれもあるかい! うきえさんが孕んだとしてもどうせ一ヶ月の命じゃないか。なっ、うきえ」
「カツオくん、もっと上」
波平にはもう言う事がなかった。そう、一ヶ月もすれば、おそらくみんな餓死だ。この期に及んでくどくど説教するのは野暮かも知れない。いやしかし、親として何か伝えられることはないだろうか。

食糧がほとんど底をつきかけてきたある日。磯野家のみんなはげっそり痩せこけていた。波平は庭で麻酔を自分の脊髄に注射し、のこぎりを片手に瞑想していた。
「む、麻酔が効いてきたぞ。感覚がなくなってきた」波平はやおらのこぎりで自分の右の太腿を切り始めた。「こりゃ一人では手に余るな。おーい、マスオくん」
「なんですか。わぁ、何やってらっしゃるんですか!?」
「みんなにわしの足を食ってもらおうと思ってな。すまんがのこぎりで切ってくれんか」
「そそそんなこと、できませんよ」
「血におびえたか。意気地なしめ。おーい、サザエ!」
サザエは割合に平気に、血しぶきを浴びながら波平の右足を切断した。
「肉はたくさん付いとるから、味噌味、しょうゆ味、いろいろ試すといいぞ」波平が言うと、フネが調理の準備を始めた。

「いやあ、食った食った。お父さんも久々にいい事したねえ」爪楊枝を片手にカツオが言った。
「おいしかったですぅ」タラちゃんが言った。
「ところでマスオさんは?」とサザエ。
「さっき鴨居で首吊ってたわよ」とワカメ。
「わはははははは。じゃあ次はマスオくんを食うか!」と波平が言うと、久しぶりに磯野家の居間に、どっと笑い声が起こった。

(つづく)

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 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


 ❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。

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