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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2024/04/25 (Thu) 11:22:15

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No.62
2009/10/16 (Fri) 01:40:45

一つ目のモンスターが、操車場に入った回送列車をモップで掃除していたとき、読み捨てられたスポーツ新聞のある記事が目にとまった。「驚異の短距離ランナーを次々と生み出すRS電機陸上部、松平監督に聞く」というタイトルで、サングラスをかけたいかつい男の写真が載っていた。

松平平平(まつだいら・へっぺい、62歳)氏の話
「日本人は短距離ランナーとしては、天性の瞬発力の点でどうしても黒人にはかなわない、というのがこれまでの定説でした。オリンピックのメダルなど夢のまた夢である、と。しかしです。日本人が肉体的に劣っているのは確かですが、精神面ではまだまだのびしろがあると、わしは思うとります。ただ精神力を伸ばすには並大抵の訓練では無理で、それこそ選手を殺すぐらいのトレーニングが必要です。実際わたしの課した過酷なトレーニングのため、六人の選手が死んどります。日本人として初めて百メートル九秒台を出したうちの橋本など、脚光を浴びた選手の影にはそれだけの“捨て石”があるわけです。これからの日本の短距離界はまさに生き地獄ですわ。しかしわしゃそうでなきゃならんと思うとります」

この記事を見て、モンスターは怒りに震えた。中学生のころ、まだ放射線を浴びる前のモンスターは虚弱な少年で、体育の教師にさんざんいじめられた記憶があった。スポーツの記録のために選手を殺す鬼コーチ。こんな人間がいまの日本にいてよいわけがない。よし、俺が制裁を加えにいこう。

モンスターは次の日さっそく、RS電機陸上部の練習場がある神奈川県に向った。
そこは確かに陸上競技場だったが、松平平平監督はなぜかゴルフクラブを振り回していた。キーン、キーンと金属的な音がして、体中あざだらけのスプリンターたちがそのたびに猛然とスタートを切っている。
「それそれ! 速く走らんとこの鋼鉄のゴルフボールがお前らの体をぶち抜くぞ!!」
そう、松平監督は選手の背中に向けて、鉄のボールを打っていたのだ。
「次は五番アイアンだ。うかうかしてると本当に死ぬぞ!」
まさにこの男は鬼だ。モンスターは慄然とした。こんなことが許されてはならない。
しかしモンスターが監督のゴルフクラブをつかんでこの修羅場をやめさせようとすると、監督はサングラスを外し、ものすごい形相で相手をにらみつけた。彼は日本の麻生太郎元首相にそっくりだった。
「なんだ貴様は?」
「正義の使者だ。こんな殺戮が許されると思っているのか?」
「殺戮? これは日本のスポーツ界のためだ。スポーツはきれいごとでは済まされない、生きるか死ぬかの世界なのだ」
「そんなスポーツならやめてしまえ」モンスターは五番アイアンをぐにゃりと曲げ、威嚇的に監督をにらみつけた。
「貴様、貴様……」松平監督はぶるぶる震えながらこぶしを握り締めた。「その腕、その足、その瞬発力……貴様、日本人か? すごい素質だ……陸上選手になる気はないかね?」
「なんだと? なんで俺が……」
「そうかそうか、スプリンターになってくれるか! めでたい、めでたいぞ! よし、明日から本格的に特訓だ!」

次の日の朝。モンスターは訳がわからないまま百メートル走のスタートラインに立っていた。そして松平平平の手には黒い拳銃が握られている。
「よし、速く走らんとこのコルト・ガバメントが貴様の脳天をぶち抜くぞ!」
空に一発、スタートの合図に撃った松平監督は、死ぬ気で走るモンスターの背中に向けて容赦なく発砲した。
「貴様の道は、死ぬか金メダルか、そのいずれかしかない! 走れ走れ、明日のために! 走れモンスター!」
日本陸上界の今後の明暗は、この二人に握られているのだ。

(つづく)

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 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


 ❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。

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