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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2017/08/21 (Mon) 00:12:55

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No.573
2012/07/09 (Mon) 18:48:20

 番一郎(ばん・いちろう)は優秀な警察官だった。大勢の人間から犯罪者もしくはこれから罪を犯そうという者を嗅ぎ分け、迅速に犯人を逮捕あるいは犯罪を防止した。組織犯罪に対しても的確に作戦を立て、実行し、確実に検挙した。彼は巡査の時代から数々の勲功を立て、昇進を重ね、四十代の若さで警視になった。さらに昇進して警察の幹部になるはずだったが、ある日彼を恨むやくざ者に拳銃で撃たれ、銃弾は脳天を突きぬけ、死にはしなかったが警官を続けるにはあまりに酷い怪我を負った。四肢は動かせず、目は見えず耳は聞こえず口もきけない人間となって、病床に寝たきりとなったのだ。しかし脳波を調べると彼の意識だけはしっかりしていることが分かった。

 折しも、科学技術は精巧な人型ロボットを造り上げ、あとはいかに人間らしい高度な思考能力を身に付けさせるかという問題だけが残っていた。ロボット警官の開発を目指していたある工学者は、熟達した生身の警官の脳の状態を解析することにより、いわば警官の思考の設計図とでもいうべきものを取り出し、それをロボットの頭脳に植え付けることにより、もとの警官とまったく同じ能力を持つロボットを作ることに成功した。そしてロボット警官を量産するに当たって、もっとも優秀な警官であった番一郎の頭脳から思考パターンを取り出し、それをロボットたちに付与することになった。

 全国で最も優秀な警官と同等の能力を持つロボット警官が、国中の交番、地方の警察署に配備された。番一郎にかなわぬ人間の警官は、職を失うことになった。窃盗、強盗、密輸、殺人などの犯人はたちどころに捕らえられるか、その犯罪を未然に食い止められ、日本の凶悪事件はそのほとんどが解決され、事件自体の発生件数もいちじるしく減っていった。すべて番一郎の優秀な頭脳の賜物であった。しかし日々巧妙化する犯罪に対応するため、ロボット警官の思考も成長する必要があった。ロボット工学者たちはその場合、番一郎の並外れた頭脳に最近の事件のデータをインプットし、番の頭脳がその一つ一つを解決するのを待ち、バージョン・アップした番一郎の警官としての思考回路からコピーを作って、全国のロボット警官の頭脳に付与した。ひとえに日本の警察力は病床で寝たきりになっている番一郎の頭脳にかかっているといってよかった。

「ゆきちゃん、学校でいつまでも友達とおしゃべりしてちゃ駄目よ。授業が終わったら早く帰らないと、怖いおじさんに誘拐されちゃうわよ」
「平気よ。だってこのごろのお巡りさんってスーパーマンみたいじゃない? 誰も見ていないなって思って信号無視しようとしても、どこからともなくお巡りさんが現われて、駄目だよ、おじさんたちはどこからでも見ているからね、って止められちゃった。不良の中学生たちも、このごろは全然万引きできなくなったって言ってるのよ。だから誰かに誘拐されたって、あのお巡りさんたちがすぐに現われて、悪い犯人を捕まえてしまうに決まってるわ」
「でもね、この辺りは人通りの少ないところよ。お巡りさんたちもあまり通らないの。だからね、お母さんの言うことを聞いてちょうだい。帰るときはなるべく一人にならないこと。いいわね」

 しかしゆきはその日、学校で友達とおしゃべりしすぎて帰りが遅くなったばかりか、一緒に帰るはずだった友達も塾があるからといってみな先に行ってしまい、一人で夕暮れの寂しい道をとぼとぼと帰ることになった。
「きみ、こんな時間に一人で歩いていると危ないよ」
 ゆきが振り返ると、ロボット警官がやさしげに話しかけていたのだった。
「ありがと! お巡りさん」
「家まで送っていってあげよう」
「うん」ゆきは警官の手を握り、二人は長い坂道を登っていった。子供が大好きだった番一郎そっくりそのままに、そのロボット警官はにこにこしながら、ゆきを良からぬ輩から守ることだけを考えて家まで送り届けた。

 全国の津々浦々で、このような光景が見られた。番一郎をモデルとしたロボット警官は、理想的な市民の守り手であり、安心のみなもとになっていた。

 しかしある年、東日本で大規模な地震が起こった。そして悪いことに、震源の近くには稼働中の原子力発電所があった。放射能漏れが懸念されたが、政府は「ただちに健康に害を及ぼすほどの放射性元素は漏れていない」と言い張るばかりだった。
 この地震で、これまで鳴りを潜めていた犯罪者たちがいっせいに活動を始めた。というのも、これまで万能に見えたロボット警官によって犯罪は抑止されていたが、この未曾有の大地震は番一郎のこれまでの経験にない都市の混乱を引き起こし、ロボット警官たちは普段にも似ず混乱し、不十分にしか機能しなくなったのだ。平時には食い止められたはずの強盗や略奪が頻発し、とくに被災地では食い物の奪い合いが激しくなった。もちろんすぐにこの非常事態を経験したロボットたちから、見聞したことのデータが警察病院に集められ、それは番一郎の頭脳にインプットされた。
 殺人、強盗、強姦などの人災に加え、交通機関の麻痺、不規則に起こる余震、また場所によっては猛獣の徘徊など、山のような難題がデータとして番の頭脳に送り込まれていく。計器によれば、番の超人的頭脳は、その難題の一つ一つを猛スピードで理解し、吟味し、仮想的に解決しているはずだった。数時間後、やすらかな寝息を立てる番の頭につながれたコンピュータは、最新版の番一郎警視の思考パターンを収めた小さな金属盤を吐き出した。これをすぐに大量にコピーし、全国のロボット警官たちに与えバージョン・アップさせるのだ。

 これはロボット工学者によって行なわれる手馴れた作業だったが、ただ一つ、重大な見落としがあった。それは原発事故から数週間を経て、放射性元素が関東一帯に流出し、番一郎の栄養チューブにも多量に混入したため、その頭脳にも深刻な影響を与えた可能性があったことだった。いや可能性ではない、放射性元素の発する危険なガンマ線は、じじつ番一郎の脳内で、彼の情操の根幹を破壊してしまっていたのである。

(つづく)


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 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


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