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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2024/04/20 (Sat) 17:36:33

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No.576
2012/08/19 (Sun) 03:01:43

登場人物

アデライン  天才科学者にして絶世の美女。十九歳。
セバスチャン アデラインの執事。彼女によって造られたアンドロイド。


 アデラインと赤ちゃんスパイ

 アンドロイドで科学者アデラインの執事を務めるセバスチャンが、午後の紅茶の準備をしていると、ふだん邸内で耳にしない物音を廊下の向こうに認めた。
「あ、こら! おとなしくしなさい!」とアデラインの声がすると、さっきからガタガタしていた第七実験室の扉が開き、白い産着を着た生後五か月と思しき赤ん坊が、ハイハイで猛スピードで進み、セバスチャンのほうにやってきた。
「お嬢様、これは?」
「アンドロイドの試作品よ。早く捕まえて!」
 セバスチャンはポットをコンロの上に置き、赤ん坊のロボットを抱き上げた。するとそれはセバスチャンに顔を寄せてにっこりと笑った。
「本物の赤ん坊にしか見えませんね……最初はお嬢様がお産みになったのかと思いました」
「馬鹿いわないでちょうだい。こんなやっかいなアンドロイドってないんだから」
「なぜこんな赤ん坊のアンドロイドの開発を?」
「外務省の情報部からの依頼よ。誰からも疑われないで活動できるスパイってことで、大人の知恵を持った子供のアンドロイドを何体か造れっていうの。で、サンプルとして十歳ぐらいの男の子と四歳ぐらいの女の子、それと生後五か月の赤ん坊のロボットを作ってみたわけ」
「しかし生後五か月では、まだハイハイもできないでしょう」
「そうなのよ。そのハイハイもできない、というところが絶対疑われないスパイとして有効なんじゃないかって情報部は言ってるの。でも、スパイ活動の際に赤ん坊が直立歩行していたら、もし見つかった場合ハイハイよりなお変でしょう? だから移動の際は基本的にハイハイなの。しかし見た目はあくまで生後五か月の乳児。ところが頭脳は大人なみに働くのよ」
「ところでお嬢様、お茶の支度が出来ました。とりあえずこの赤ん坊、抱っこしてくださいますか?」セバスチャンがアデラインに赤ん坊を引き渡そうとすると
「いやぁよ。だってその子の頭脳、いちおう一般的なスパイ・ロボットのものが基盤になってるから、女に対する態度にくせがあるのよ。いちど抱っこしたら胸をまさぐってきたわ」
「母親の乳房を求めるのは赤ん坊として自然ではありませんか?」
「そーかなー? でも胸を触ってくるときのこの子の目、明らかにイヤらしい中年の目なのよ。だから気持ち悪くって」
 そのときである。アデライン邸の側壁に轟音とともに衝撃が走り、石造りの壁は崩れ、天井からもレンガが降りそそいできた。
「きゃーっ」
 アデライン家の台所は目茶目茶になり、ほこりがもうもうと立ち込めた。
「やあ! アデライン、元気そうじゃないか」そう言ったのは金髪で青白い顔をした、やせこけた青年だった。赤いパラシュートを背負ってアデライン邸に突っ込んできたのだ。
「ジェローム! どうしてあなたって人はいつもいつも!」アデラインがレンガをはねのけながら言った。ジェロームは十八歳になるアデラインの従弟だった。アデラインは十九歳だから、一歳年下ということになる。
「おっと、お小言は後だ。今日は僕の可愛いフィアンセを連れてきてるんだ。おい、マーシャ、無事か」
「げほげほ、なんとか無事よ」
 見ると、ジェロームの開けた壁の穴の隣にもうひとつ穴が開いており、そこには金髪の女が青いパラシュートを背負って倒れていた。顔を上げると、グリーンの瞳をした美しい少女だった。
「フィアンセだか何だか知りませんけどね!」アデラインが叫んだ。「あんたたちはいったい人の家を何だと思ってるのよ! ふつうに玄関から入ってくればいいじゃない!」
「いや、これには深い事情があってね。僕たちは十八歳同士、学生結婚なんだよ。そしてわが地球工科大学ガリアキャンパスのしきたりでは、新郎新婦は地上一万メートルから放り出されて命がけで愛を誓い合うんだよ。そこで着陸したのがたまたまここだったというわけさ。なあアデライン、若い二人を祝福してくれよ」
「祝福もへったくれもあるもんですか! あなたマーシャとか言ったわね。ジェロームが悪事の天才だってことぐらい知ってるでしょ? こんな男と結婚して幸せになれると思ってるの!? そう思ってるとしたらあなたの頭の中にはニガウリが詰まってるんだわ!」
 アデラインは先ほどからすごい剣幕でジェロームたちにまくし立てていたが、大事なサンプルである赤ん坊のアンドロイドに傷をさせないよう胸に大事に抱いているのが、その怒声となんとも不釣合いだった。
「それはそうと、その赤ちゃんはアデラインの子かい?」とジェローム。
「なんですって!! これは仕事で造ったアンドロイドよ。私の子なわけないじゃない!」
「おい、赤ん坊がむずがってるぜ、きっと乳が飲みたいんだよ。アデライン、飲ませてやれよ、そんな立派なおっぱいしてるんだから」
「馬鹿なこと言ってると釘抜きで頭を粉砕するわよ!! マーシャ、あなた本気でこんな男と結婚するつもり!?」
「ええ、そのつもりですわ、アデラインお姉さま」マーシャは髪を整えいずまいを正すと、アデラインに負けず劣らずの美少女だった。「ジェロームはお姉さまの仰るとおり、ちょっと型破りのところがありますけれど、本当は心根の優しい立派な人ですわ。紳士ですわ」
「ジェロームが紳士ならナマコは天皇陛下だわ。いいわ。そんなにいうなら勝手に結婚すればいいじゃない」
「あ、お姉さま、今さらだけどおうちを壊してしまってご免なさい。これはもちろん私どもで修理させていただきます」マーシャはそういうと、襟元のブローチに向かって
「マーシャよ。いまアデライン邸にいるわ。壁を大きく壊してしまったの。修理に来てちょうだい」
「マーシャは大手建設会社社長の令嬢なんだよ」ジェロームが言うと、ものの五分も経たないうちにヘリコプターのバラバラという音が聞こえてきて、近くに着陸したと思うと、数十名の作業員がアデライン邸の修復にとりかかった。アデラインが呆気にとられていると
「そこでだ、親愛なる従姉さま、結婚のご祝儀をいただければと思うんだがね。百五十万クレジットばかり」
「なんですって! それじゃまるでゆすりじゃない! そんな大金出せませんからね……ひょっとして……ひょっとしてあなたたち、あれじゃない?」
「あれって何だよ」
「ずばり結婚詐欺」
「失敬だな、アデラインでも許さないぞ。それにマーシャは今言ったように大金持ちなんだよ。そうでなきゃこんなに手際よくこの家を直せるもんか」
「そこんとこはまだよく分からないんだけど」
「それに俺たちはきみのママにも挨拶に行ったんだぜ。伯母さんは気前よく五十万クレジットのご祝儀をくれたね。それじゃあ世界の発明王アデラインなら百五十万は出してもらわないと」
「ママが五十万も?」アデラインは不審に思った。彼女の母親はケチで有名な人物なのである。
「嘘だと思うなら伯母さんに電話して確かめてみな」
 アデラインはなおも不審そうな顔をして母親宅に電話した。「もしもし、ママ? ジェロームの件なんだけど……お祝いに五十万クレジット贈った? マーシャは信頼できる子ですって? あとでマーシャの建設会社から見返りもあるでしょう? それだけの考えでそんな大金をあげたの? ねえ、ママ。ママ……」アデラインは受話器を置いた。「切れちゃった」
「さあ、どうするアデライン。どうせ自分が結婚するときにはマーシャのうちからドーンとご祝儀が来るんだぜ。それにアデラインはケチだって、このところ身内でも評判よくないぜ」 「わかったわ」アデラインはセバスチャンに目配せして「百五十万クレジットよ」

 ジェロームとマーシャはアデラインから百五十万クレジットを受け取って、建設会社のヘリに乗り込んで去っていった。これから月に別荘を建てるのに下見に行くのだという。
「あー、世の中どうなってんのかしら。あの二人に天罰が下らないとしたらわたし神様を呪うわね……えっと、ところでジェシーは? さっきから見当たらないけど」
 ジェシーというのは赤ん坊のアンドロイドの名前だった。
「そうですね、赤ん坊ロボットどころの騒ぎではありませんでしたから、私もすっかり忘れておりました」とセバスチャン。
 三十分後。アデライン邸の呼び出しブザーが鳴った。
「ジェシーだ、入れてくれ」と四十がらみの渋い声。アデラインとセバスチャンは顔を見合わせた。
 玄関のドアを開けると、白い産着を着た例の赤ん坊ロボットが直立歩行で入ってきた。
「ジェシー、あなたどこ行ってたの!?」とアデライン。しかしジェシーは
「まず煙草をくれ」といい、セバスチャンが差し出したシガレット・ケースから一本抜いて、うまそうに煙を吐き出した。
「俺もあの二人は臭いと思ったのさ。これでも俺はスパイ・ロボットだからな。それでこっそり一緒にヘリに乗り込んだというわけだ」生後五か月の赤ん坊は煙草をくわえながら言った。「すると、案の定あれは結婚詐欺だった。ヘリが離陸すると、ジェロームの野郎、聞きもしねえのに洗いざらい喋っちまったのさ。マーシャはたしかに富豪の娘だが、家の金を勝手に五十万クレジット使い込んでその穴埋めをする必用があった。ジェロームもギャンブルにのめりこんで五十万の借金があって、早急に金が必要だったというわけさ」
「で、あとの五十万クレジットは?」とアデライン。
「お前さんのおっかさんだよ」とジェシー。「お前のママは駐車違反で警察に五十万クレジット払わなければならなかった」
「駐車違反で五十万クレジット!?」アデラインとセバスチャンは声を揃えて驚きの声を上げた。
「正確には駐船違反、および海賊行為というべきかな。あのおっかさんは普段はケチだが、パーティなんぞで酔っ払うと何をしでかすか分からねえすげぇ婆ァだ。豪華客船で太平洋を旅してたんだが、ある晩のパーティで酔っ払って前後不覚になった。おりしも地球連邦の航空母艦と客船がすれ違ったが、おっかさんは船の大きさで航空母艦に負けているのが気に食わなかったらしい。で、そっちに乗り移って海兵隊から銃を奪い、あっというまに航空母艦を乗っ取っちまった。みんなこっちの方が広いからこっちで飲みなおそうよ!ってんで、飲めや歌えの大騒ぎだ。そのうちおっかさんは船長気取りでブリッジに乗り込み航空母艦を好き勝手に操縦した。でシドニー湾に無断で停泊だ。その罰金が五十万クレジットというわけさ」
「ああ……ママったら、一体なんてことしてくれたの……」アデラインはあまりのことに貧血をおこし、ふらふらと倒れてしまった。
「まぁ十九歳の娘さんには刺激の強すぎる話だったかな」と言って生後五か月のジェシーはブランデーを傾けながらカッカッと笑った。
「ほれ、取り戻した百五十万クレジットだ。目を覚ましたら娘さんに渡してやんな」ジェシーはセバスチャンに金を手渡し、にやりと笑みを浮かべた。


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執筆陣
HN:
快文書作成ユニット(仮)
自己紹介:
 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


 ❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。

 ❖ 呂仁為 Ⅱ 〜 昭和の想い出話や親しみやすい時代物、歴史小説などについて書きます。

 ✿ 流火-rjuka- ~ 主に漢詩の創作、訳詩などを行っています。架空言語による詩も今後作りたいと思っています。

 ☃ ちゅうごくさるなし
主に小説を書きます。気が向けば弟のカヲスな物語や、独り言呟きなことを書くかもしれません。

 ♘ ED-209ブログ引っ越しました。

 ☠ 杏仁ブルマ
セカイノハテから覗くモノ 



 我ら一同、只管に【快文書】を綴るのみ。お気に入りの本の頁をめくる感覚で、ゆるりとお楽しみ頂ければ僥倖に御座居ます。









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