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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2017/08/20 (Sun) 16:56:56

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No.667
2013/11/04 (Mon) 03:06:08

その夜は凶漢の叫び声、野犬の吼え声がそこここから聞こえ続け、街は不穏な空気に包まれていた。
「ふ。今夜は街中の吸血鬼が暴れているぜ」
 青柳の腹にできた蛙のような人面疽が口を開いた。
「街中? 吸血鬼はそんなにいるのか?」と青柳。
「そうだよ。吸血鬼は緑川を中心にどんどん広がっている」
「警察は何をやってるんだろう」
「警察? もうそんなもの、頼りにならないかも知れないぜ」
「そんなに事態は深刻なのか?」
「そう……もう誰も信用できねえかもな」

 翌朝、青柳はいつものように車で出勤したが、途中ほかの車にはあまり出会わず、街には人通りがほとんどなかった。
 学校近くまで来て、警官が青柳の車を止めた。警官は車の窓を開けさせ青柳の顔をじっと見つめた。無表情で何も言わない。
「通行止めですか?」
 すると警官はとたんに大きく口を開けた。鋭い牙を生やし、人間の頭を丸呑みできそうなほどの巨大な口で、青柳の頭に噛み付こうとしてきたのだ。そのとき青柳のシャツの隙間から、人面疽が毒液を噴き出した! 
「ギャーッ」
 警官は目をつぶされ、道路にうつぶせになって伸びてしまった。
 青柳は呆然とその様子を見ていたが、やがて
「学校は無事だろうか」と言って携帯電話を開いた。
「そんなことより、その警官から拳銃を奪え」と人面疽。
「何だって」
「ぼやぼやするな、自分の身は自分で守るんだよ」
 青柳は顔が真っ赤に焼けただれたその警官の腰から、拳銃を抜き取った。
 そして学校に電話する。
「おかしい、誰も出ないぞ」
 次は同僚の溝口礼子に電話をかけた。しばらくすると彼女が出た。
「青柳先生? いまわたし家にいるんですけど、表に吸血鬼が大勢いて身動きが取れないんです。警察に電話しても出ないし、もうどうしたらいいか分からなくって」
「待っててください、すぐそちらに伺います」
 青柳はハンドルを切り、礼子の自宅に向かった。

「警察まで吸血鬼になってしまっているとしたら、いったいどうすればいいんだ」
 青柳がいうと人面疽は、
「どこか遠く、血の匂いがしないところまで逃げること、かな。逃げるところがあればの話だが」

 礼子のマンションに着くと、青柳は拳銃を点検して車を降りた。辺りに三四人の人間が倒れている。いずれも見るも無残に手足の肉を噛みちぎられ、腹から内臓を露出させていた。
「待て。エレベーターは危険だ。獣の匂いがする……右手に非常用のらせん階段があるだろう。あっちだ」
 人面疽の指示に従って、青柳は非常階段を登っていった。礼子の部屋のある三階に着くと、吸血鬼と思しき若い男たちが四、五名、肉をむさぼり食っているのが見えた。人間の足の肉を奪い合い、吸血鬼同士で争っている。
「どうする?」青柳は自分の腹の人面疽に問いかけた。
「奴らを呼び寄せよう。この細い通路だ、一匹ずつしか襲ってこれないはずだ。だが気をつけろ、吸血鬼は心臓を撃ち抜かなければ完全には死なない。頭を撃つのもいいが、しばらくすると生き返るぞ」
「わかった」

「おーい! 餓鬼どもは学校に行く時間だぞ! それとも寝小便たれて腰を抜かしたか?」
 青柳は大声で問いかけた。吸血鬼どもはじろりと青柳のほうを向き、
「人間だ、生身の人間がうろついてるぞ……かかれ!」
 血みどろの顔をした若い吸血鬼どもは、思惑どおり一匹ずつ青柳のもとへ駆けてきた。手に手に刃物を持っている。青柳は慎重に引き金を引いた。相手は一体ずつ倒れていく。最後のやつは撃ち損じたが、人面疽が毒液を吐きかけて倒した。そして彼らの持っていた刃物を奪い、念のため一体ずつ心臓に突き刺していった。

 ようやく礼子の部屋にたどり着き、ドアをノックする。
「青柳です。溝口先生、ご無事ですか?」
 チェーンをかけた扉がわずかに開き、怯えた礼子が顔を見せた。
「青柳先生……よかった!」
 礼子は急いで青柳を招じ入れた。
「三階には吸血鬼はいなくなったようですが、まだ辺りにどれだけひそんでいるか分かりません」
 青柳はそう言って椅子に腰を下ろした。
「有難うございます。来てくれてほんとに良かった……」
「ただ私も、これからどうすればよいのか……警官も吸血鬼になっていますし、とにかく逃げるしかないようです」
 
 青柳の携帯電話の着信音が鳴った。刑事の河合虎児郎からだった。
「青柳先生の携帯ですか」
「河合さん! いまどちらに?」
「駅前ですよ。パチンコ店が火事になりましてね。消防車が来ないんだが、吸血鬼も火を嫌うのか寄ってこない。一休みしてたところですよ。あなたはいまどちらですか?」
「溝口先生のマンションです。警官も吸血鬼になっていたり、身動きが取れないんですよ」
「ええええ。厄介なことです。じゃあ私、そっちにまわってあなたがたを拾っていきます」
「行くあてはあるんですか?」
「今のところ本庁は機能しているようです。ちょっと遠いですが、皆さんをお送りします」

「とりあえず一安心だ」青柳は電話を切って、状況を礼子に説明した。
「よかった」と礼子。「コーヒーでも飲みます?」
「いや、まだ安心するのは早いぜ」
「誰?」と礼子。
 青柳は人面疽のことを礼子にまだ話していなかった。どうしたものかと思ったが、何とかこのことを礼子に説明した。
「で、まだ安心できないって?」と青柳。
「吸血鬼のリーダーは緑川だ。あいつを何とかしないかぎり、やつらがそう簡単に警察につぶされるとも思えねえ」

 礼子は何とはなしにテレビをつけた。画面は砂嵐。チャンネルを次々変えていくと、ようやくニュースらしき番組が画面に映った。
「さて、いま首都圏で暴れまわっている正体不明の暴徒たちですが……」
 アナウンサーは取り乱した様子でニュース原稿をばさばさと手に取り、切迫した様子で喋っていた。そのとき、横手から血だらけのシャツを着た青白い顔の男が急にあらわれ、アナウンサーをつかまえ大口を開け、首筋に噛み付こうとした。そこで放送は途絶え、「しばらくおまちください」という静止画面になった。
「見ろ。われわれの日常は足元から崩れようとしてるんだよ」人面疽が言った。

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快文書作成ユニット(仮)
自己紹介:
 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


 ❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。

 ❖ 呂仁為 Ⅱ 〜 昭和の想い出話や親しみやすい時代物、歴史小説などについて書きます。

 ✿ 流火-rjuka- ~ 主に漢詩の創作、訳詩などを行っています。架空言語による詩も今後作りたいと思っています。

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 ♘ ED-209 〜 PNの由来は映画『ロボコップ』に登場するオムニ社の敵役ロボットからです。今まで書き溜めてあった自身の体験談やコラムを発表するには良い機会と思い寄稿させて頂きました。是非、御読みになってみてください。そして何より皆さんに楽しんで貰えれば嬉しいです。

 ☠ 杏仁ブルマ
セカイノハテから覗くモノ 



 我ら一同、只管に【快文書】を綴るのみ。お気に入りの本の頁をめくる感覚で、ゆるりとお楽しみ頂ければ僥倖に御座居ます。









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