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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2024/04/24 (Wed) 11:54:24

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No.667
2013/11/04 (Mon) 03:06:08

その夜は凶漢の叫び声、野犬の吼え声がそこここから聞こえ続け、街は不穏な空気に包まれていた。
「ふ。今夜は街中の吸血鬼が暴れているぜ」
 青柳の腹にできた蛙のような人面疽が口を開いた。
「街中? 吸血鬼はそんなにいるのか?」と青柳。
「そうだよ。吸血鬼は緑川を中心にどんどん広がっている」
「警察は何をやってるんだろう」
「警察? もうそんなもの、頼りにならないかも知れないぜ」
「そんなに事態は深刻なのか?」
「そう……もう誰も信用できねえかもな」

 翌朝、青柳はいつものように車で出勤したが、途中ほかの車にはあまり出会わず、街には人通りがほとんどなかった。
 学校近くまで来て、警官が青柳の車を止めた。警官は車の窓を開けさせ青柳の顔をじっと見つめた。無表情で何も言わない。
「通行止めですか?」
 すると警官はとたんに大きく口を開けた。鋭い牙を生やし、人間の頭を丸呑みできそうなほどの巨大な口で、青柳の頭に噛み付こうとしてきたのだ。そのとき青柳のシャツの隙間から、人面疽が毒液を噴き出した! 
「ギャーッ」
 警官は目をつぶされ、道路にうつぶせになって伸びてしまった。
 青柳は呆然とその様子を見ていたが、やがて
「学校は無事だろうか」と言って携帯電話を開いた。
「そんなことより、その警官から拳銃を奪え」と人面疽。
「何だって」
「ぼやぼやするな、自分の身は自分で守るんだよ」
 青柳は顔が真っ赤に焼けただれたその警官の腰から、拳銃を抜き取った。
 そして学校に電話する。
「おかしい、誰も出ないぞ」
 次は同僚の溝口礼子に電話をかけた。しばらくすると彼女が出た。
「青柳先生? いまわたし家にいるんですけど、表に吸血鬼が大勢いて身動きが取れないんです。警察に電話しても出ないし、もうどうしたらいいか分からなくって」
「待っててください、すぐそちらに伺います」
 青柳はハンドルを切り、礼子の自宅に向かった。

「警察まで吸血鬼になってしまっているとしたら、いったいどうすればいいんだ」
 青柳がいうと人面疽は、
「どこか遠く、血の匂いがしないところまで逃げること、かな。逃げるところがあればの話だが」

 礼子のマンションに着くと、青柳は拳銃を点検して車を降りた。辺りに三四人の人間が倒れている。いずれも見るも無残に手足の肉を噛みちぎられ、腹から内臓を露出させていた。
「待て。エレベーターは危険だ。獣の匂いがする……右手に非常用のらせん階段があるだろう。あっちだ」
 人面疽の指示に従って、青柳は非常階段を登っていった。礼子の部屋のある三階に着くと、吸血鬼と思しき若い男たちが四、五名、肉をむさぼり食っているのが見えた。人間の足の肉を奪い合い、吸血鬼同士で争っている。
「どうする?」青柳は自分の腹の人面疽に問いかけた。
「奴らを呼び寄せよう。この細い通路だ、一匹ずつしか襲ってこれないはずだ。だが気をつけろ、吸血鬼は心臓を撃ち抜かなければ完全には死なない。頭を撃つのもいいが、しばらくすると生き返るぞ」
「わかった」

「おーい! 餓鬼どもは学校に行く時間だぞ! それとも寝小便たれて腰を抜かしたか?」
 青柳は大声で問いかけた。吸血鬼どもはじろりと青柳のほうを向き、
「人間だ、生身の人間がうろついてるぞ……かかれ!」
 血みどろの顔をした若い吸血鬼どもは、思惑どおり一匹ずつ青柳のもとへ駆けてきた。手に手に刃物を持っている。青柳は慎重に引き金を引いた。相手は一体ずつ倒れていく。最後のやつは撃ち損じたが、人面疽が毒液を吐きかけて倒した。そして彼らの持っていた刃物を奪い、念のため一体ずつ心臓に突き刺していった。

 ようやく礼子の部屋にたどり着き、ドアをノックする。
「青柳です。溝口先生、ご無事ですか?」
 チェーンをかけた扉がわずかに開き、怯えた礼子が顔を見せた。
「青柳先生……よかった!」
 礼子は急いで青柳を招じ入れた。
「三階には吸血鬼はいなくなったようですが、まだ辺りにどれだけひそんでいるか分かりません」
 青柳はそう言って椅子に腰を下ろした。
「有難うございます。来てくれてほんとに良かった……」
「ただ私も、これからどうすればよいのか……警官も吸血鬼になっていますし、とにかく逃げるしかないようです」
 
 青柳の携帯電話の着信音が鳴った。刑事の河合虎児郎からだった。
「青柳先生の携帯ですか」
「河合さん! いまどちらに?」
「駅前ですよ。パチンコ店が火事になりましてね。消防車が来ないんだが、吸血鬼も火を嫌うのか寄ってこない。一休みしてたところですよ。あなたはいまどちらですか?」
「溝口先生のマンションです。警官も吸血鬼になっていたり、身動きが取れないんですよ」
「ええええ。厄介なことです。じゃあ私、そっちにまわってあなたがたを拾っていきます」
「行くあてはあるんですか?」
「今のところ本庁は機能しているようです。ちょっと遠いですが、皆さんをお送りします」

「とりあえず一安心だ」青柳は電話を切って、状況を礼子に説明した。
「よかった」と礼子。「コーヒーでも飲みます?」
「いや、まだ安心するのは早いぜ」
「誰?」と礼子。
 青柳は人面疽のことを礼子にまだ話していなかった。どうしたものかと思ったが、何とかこのことを礼子に説明した。
「で、まだ安心できないって?」と青柳。
「吸血鬼のリーダーは緑川だ。あいつを何とかしないかぎり、やつらがそう簡単に警察につぶされるとも思えねえ」

 礼子は何とはなしにテレビをつけた。画面は砂嵐。チャンネルを次々変えていくと、ようやくニュースらしき番組が画面に映った。
「さて、いま首都圏で暴れまわっている正体不明の暴徒たちですが……」
 アナウンサーは取り乱した様子でニュース原稿をばさばさと手に取り、切迫した様子で喋っていた。そのとき、横手から血だらけのシャツを着た青白い顔の男が急にあらわれ、アナウンサーをつかまえ大口を開け、首筋に噛み付こうとした。そこで放送は途絶え、「しばらくおまちください」という静止画面になった。
「見ろ。われわれの日常は足元から崩れようとしてるんだよ」人面疽が言った。

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快文書作成ユニット(仮)
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 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


 ❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。

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