忍者ブログ
AdminWriteComment
 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2024/04/24 (Wed) 10:02:39

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

No.671
2014/01/31 (Fri) 18:13:49

 いまの小学校で算数がどのように教えられているのか知らないけれども、遠山啓の本によると、昔は教科書の出来が悪かったせいで、小学校高学年になると算数が苦手になってしまう子が多かったらしい。特徴的なのが掛け算で、1 年生で「 2×3 」を教えるさい「 2 が 3 つあるから 2 + 2 + 2 を計算しなさい」という風な教え方だったという。それがなぜ良くないかというと、まず子供が 2 年生になったとき「 2×1 = 2 」という式を見ると混乱してしまう。掛け算というのは同じ数をいくつか足すことだと思っていたのに、ここでは足していないし、また掛け算すると数字は必ず大きくなるものと思っていたのに、ここでは大きくなっていない。もっといけないのが「 2×0 = 0 」で、これはそもそも何を足すのか見当もつかず、この式に納得するのはまず不可能である。小学校高学年になって分数の掛け算を習うときも、2×(3/4)という計算にはさっきの考え方はぜんぜん適用できない。そして小学生が算数をいちばん嫌いになりやすいのが「分数の掛け算・割り算」のところであるらしい。

「足し算・引き算」と「掛け算・割り算」は別種のものだと強調して教えるのが望ましい、と遠山氏は述べている。だから「 2×3 」を教える際は、例えば「うさぎには耳が 2 本あります。うさぎが 3 匹います。では耳は全部でいくつあるでしょうか?」という問いかけをして、2 つでひとまとまりのものが 3 つあるのが「 2×3 」だ、と教える。そうすれば「 2×1 = 2 」なら兎が 1 匹だから耳は 2 本になる、「 2×0 = 0 」なら兎が全然いないのだから耳は 0 本、と難なく理解できる。そして分数の掛け算もこの流れならすんなり理解できるらしい。

 こうして「足し算・引き算」と「掛け算・割り算」をきっちり区別できる ようにさせるが、高校の数学になるとこの 2 種類の計算が結びついてくる。「指数・対数」のところである。
「 2^2×2^3 = ? 」という問題に対して「 2^2 = 2×2 で 2^3 = 2×2×2 だから、2^2×2^3 = (2×2)×(2×2×2) = 2^5 」つまり「 2^2×2^3 = 2^(2+3) 」、一般に

 a^m×a^n = a^( m + n )

という公式が成り立つ。このように掛け算した結果に足し算が入り込んでくる。指数 a^m( a の m 乗)とちょうど逆のものが対数 log(ログ)である。

 2 を 2 乗すると 4、 2 を 3 乗すると 8。では 2 を何乗すると 5 になるでしょうか。そんな数はなさそうだ。しかし一見なさそうだが実はあるのであって、その数を log_2(5) と表す(本当はこの_2 のところは g の右下に小さく 2 とかく)。つまり 2^x = 5 であるような数 x が log_2(5) である。だから

 2^3 = 8 から log_2(8) = 3, 2^5 = 32 から log_2(32) = 5

という具合である。いっぽう

 2^8 = 2^( 3 + 5 ) = 2^3×2^5 = 8×32

だから

 log_2(8×32) = 8 = 3 + 5

log_2(8) = 3、log_2(32) = 5 だったのだから、

 log_2(8×32) = log_2(8) + log_2(32)

と書けることが分かる。実は一般に

 log_c(a×b) = log_c(a) + log_c(b) …(☆)

という公式が成り立つ。この式の中にも掛け算と足し算が同時に表れている。log_c(a) を「 a の c を底(てい)とする対数」と呼ぶ。

 しかし、対数など何の役に立つのだろうか? 実は計算機のまだなかった時代には、大きな数の掛け算をする際にはこの対数が非常に役に立ったのである。それは上の log の公式が「掛け算」を「足し算」に変えてくれること、そして「掛け算」より「足し算」のほうが簡単であることによる。

 対数を発見したのはイギリスの数学者ネイピアといわれる。10 を底とする対数のことを常用対数というが、まずネイピアはいろいろな数の常用対数を片っ端から計算し、その結果を「対数表」と呼ばれる本にした。つまり対数表には

 1og_10(1) = 0.000000, log_10(2) = 0.301033, log_10(3) = 0.4771213, …

といった値がえんえんと掲載されているのである。

 そこで例えばある人が、54283×76109 という計算がしたかったとする。そこで対数表を調べると

 log_10(54283) = 4.7346638, log_10(76109) = 4.8814360

とわかる。次はこれらを足すが、足し算は簡単だから自分の手でやると

 4.7346638 + 4.8814360 = 9.6160998

 そこで常用対数が 9.6160998 であるような数を調べると、それは 4131400000 から 4131500000 までの値であると出てくる。対数の公式(☆)を思い出せば

 log_10(54283) + log_10(76109) = log_10(54283×76109)

なのだから、このことは

 54283×76109 = 4131400000~4131500000

であることを意味している(私の持っている対数表ではこれ以上の精度の答えは出ない)。
 つまり対数表があれば足し算だけを使って掛け算のおおよその答えを出すことができる。対数表の出現以来、大きな数の計算をする必要がしばしば生じる天文学者や航海士は、頭脳を酷使する掛け算を手計算でする必要がなくなったのである。「対数は天文学者の寿命を二倍にした」と言われるゆえんである。

 計算機のある現代でも、非常に大きな桁数の数字を扱うには対数は必須である。対数にはもう一つ大事な公式
 
 log_c(a^n) =n log_c(a)

があるが、これにより常用対数が数の桁数を明示することがわかる。4 桁の数 1234 の常用対数は

 log_10(1234) = log_10(1.234×10^3) = log_10(1.234) + log_10(10^3)
= log_10(1.234) + 3 log_10(10) = 0.0913152 + 3 = 3.0913152

で、整数部分が3になる。5桁の数の常用対数の整数部分なら4、6桁の数のそれなら5、一般にn桁の数の常用対数の整数部分は n-1 となる。
 
 10日で 1 割の利子がつく金貸しを「トイチ」といって、特にあくどい高利貸しとされるが、ではトイチで 1 万円借りて 1000日、つまり 3 年近く経ったら返済すべき金額はいくらになるだろうか?
 1 割の利子がつくということは返済額が 1.1 倍されるということだから、まず10日後には 10000×1.1 = 11000(円)。20日後には 11000×1.1 = 12100(円)で、30日後には 12100×1.1 = 13310(円)。それなら1000日後には100回 1.1倍されるわけだから 10000×1.1^100 が求める返済額となる。大きな数になりそうだからその常用対数をとってみると

 log_10(10000×1.1^100) = log_10(10000) + log_10(1.1^100) = 4 + 100 log_10(1.1)
 = 4 + 100×0.0413927 = 8.13927.
 (log_10(1.1)の値は対数表を調べた。)

 これは整数部分が 8 だから求める返済額は 9 桁の数、つまり 1億円を超える。より正確には約 1億3780万円となる。トイチ恐るべしである。

 まあこれだって今ならコンピュータで計算できないことはない。ただ非常に速く値が増大するデータを調べる場合など、その対数をとって考えるのが分かりやすく、実際に対数はそうした場でよく使われている。また現代最高のコンピュータが仮に 1 万桁の数まで正確に計算できるとすれば、その限度を超える桁数の数を計算するにはどうしても対数に頼らざるをえないはずである。そうした計算をする必要がなかったとしても、人間が対数のような大きな数を扱うための原理を知っていなければ、コンピュータの不具合を修復したりその性能を向上させることはできないだろう。ものの原理を知らない人間は、しばしば応用が利かないものである。

(c) 2014 ntr ,all rights reserved.

PR
[676]  [675]  [674]  [673]  [672]  [671]  [670]  [669]  [668]  [667]  [666
執筆陣
HN:
快文書作成ユニット(仮)
自己紹介:
 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


 ❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。

 ❖ 呂仁為 Ⅱ 〜 昭和の想い出話や親しみやすい時代物、歴史小説などについて書きます。

 ✿ 流火-rjuka- ~ 主に漢詩の創作、訳詩などを行っています。架空言語による詩も今後作りたいと思っています。

 ☃ ちゅうごくさるなし
主に小説を書きます。気が向けば弟のカヲスな物語や、独り言呟きなことを書くかもしれません。

 ♘ ED-209ブログ引っ越しました。

 ☠ 杏仁ブルマ
セカイノハテから覗くモノ 



 我ら一同、只管に【快文書】を綴るのみ。お気に入りの本の頁をめくる感覚で、ゆるりとお楽しみ頂ければ僥倖に御座居ます。









 ※ 基本的に当ページはリンクフリーです。然し乍ら見易さ追求の為、相互には承っておりません。悪しからず御了承下さい。※







文書館内検索
バーコード
忍者ブログ [PR]