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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2017/10/17 (Tue) 18:45:42

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No.662
2013/09/15 (Sun) 00:20:39

 K帝国大学の理科に入って半年、学業は順調に進んでいたが、ふとしたことで胸の病を得、体が弱ったことで神経が鋭敏になりすぎたのか、私はしばしば被害妄想に苦しめられ幻聴にも悩まされるようになった。医師によると、しばらく刺激の少ない離島で静養したほうが良いとのことで、とにかく脳を酷使するのは禁物であると言われた。そこで友人の郷里である、新潟県沖佐渡島からさらに北西に離れた木武島(きぶじま)という小さな島でしばらく静養することになった。
 友人の実家の、庭に面した日当たりのよい部屋を与えられ、これなら快適に過ごせそうだと思った。

 私はしばしばスケッチブックを持って海岸へ行った。しかしその風景を写生するのではなかった。脳を酷使するなと言われたのを思い出し、頭をからっぽにして画用紙に向かうと、そのときどきに頭に浮かんだ女神や怪獣や、得体の知れない奇怪な花などを海辺の風景の中に次々と描きいれることになった。楕円形をした緑の太陽の上には能役者が腰かけ、同時に輝く満月の中には金木犀が咲き誇り、兎が跳びはねていた。そして能役者はなぜか機関銃を持っていて兎たちを虐殺しているのであり、月の世界には鮮血が飛び散ってあたりを赤く染めている。浜辺ではK帝大の教授たちが翼竜に追いかけられ、私の好きな英語の教官は天がけるケンタウロスに弓で射られて矢が喉を突き抜けて、橙色の血でシャツが染まっていた。

 海辺のいろんな場所で絵を描いたが、私が描く絵はどれも写実ではなく、いつも想像上の残酷な図像で埋め尽くされていた。といって私を変人のように見られるのも困るのであって、私が思うに健全な精神は必ずいくぶんかの邪悪な部分を持つものである。そして常識さえ保てていれば、密かにその邪悪な発想を楽しむことによって、強壮な精神が育まれるのである。またありのままの風景を描かないのは、おそらく古代人もそうだったろうと思うのだ。けだし古代には風景画などというものは無かったのであり、古の人々は目には見えぬ神々や魔物をしばしば主題に絵を描いたものである。

 夏の終りのある日、見慣れぬ白い大きな軍艦が木武島の北から近づき、いきなり砲撃をしてきた。威嚇射撃だったのか砲弾のほとんどは砂浜に落ちたが、すわ一大事と島民は慌てふためいた。軍艦が着岸すると、青い目をした兵隊たちがライフルを担って上陸してきた。船のスピーカーからサイレンが大きな音で鳴り響き、やがて流暢な日本語で、彼らはロシア人で、この島を占領したとの旨を伝えた。
 こうして、木武島はソ連軍の支配下に置かれたのである。

 村役場にソ連軍のリーダーが居座り、島民にあれこれ指示を出した。武器となるものは隠さず差し出すこと、夜八時以降の外出は禁止すること、三人以上の集会は禁止すること、などなど。ソ連軍のリーダーはゾローニンといい、アジア系のようで、黒い目と黒い髪をしていた。そしていつも葉巻をくわえていた。

 ある日、ゾローニンは数名の兵隊を引き連れて島民の家々を視察して回った。彼らはこちらが大人しくしていれば愛想よく振る舞った。ゾローニンが私の家に来ると、あちこちに散らばった画用紙を見て、流暢な日本語で「絵を描くのか?」と尋ねた。そして私の怪獣が暴れまわり血みどろの女神が踊り狂っているグロテスクな絵をしばしじっと見て、いきなり「がはははは」と笑い出した。私もこれまで面白い絵を描いているつもりが下宿先の人たちにはいつも気味悪がられていたから、ゾローニンが笑ったときは正直嬉しかった。「お前の絵は面白い。もらっていっていいか」と言って彼は絵を持って行った。そして礼のつもりなのかチョコレートの包みをテーブルに置いていった。
 しかしゾローニンが私に友好的に接したことは、他の島民の反感を買ったようだった。道を歩いていると石や馬糞を投げつけてくるものがいた。そういうことはさほど気にしなかったが、ただ下宿先の人たちにはすまないと思った。
 
 そういう日々の中にあっても、私は絵を描き続けた。海辺を自由に歩くというのはしにくくなっていたから、部屋の中で妄想を膨らませて描いた。するとある日またロシア兵が庭先に現れ、そのとき描いていた絵をひったくって行った。レーニンがキツツキにつつかれて頭が穴だらけになって血を流し、穴々にはラッコやアシカが住みついており、緑色の鼻血を垂れ流してほくろから剛毛が生えている絵だった。これはまずいと思った。相手国にとってこれ以上の不敬はないというぐらい不敬な絵だったから。
 しかし夕方別なロシア兵が来て、ゾローニン将軍は今度の絵をとくに面白がっておられるから、村役場にご機嫌伺いに来いとのことだった。ずいぶん懐の深い将軍だなと思い、ついでに別な絵も持って村役場に出かけた。

「君の絵はケッサクだ。こんなに笑ったのは久しぶりだ。どうだ、一杯やらんかね」ゾローニンは言って、ウォッカをグラスに注いでくれた。私はとりあえずレーニンをあんなふうに描いたことを詫びたが、ゾローニンは「いいんだよ、とかくロシア人は堅物が多くていかん」と言って自分のウォッカをあけた。「今度からここに直接絵を持ってきてくれたまえ。そのときはご馳走しようじゃないか」
 この日の会見でゾローニンはかなりのブラックユーモア好きだとわかったから、私のほうでも調子に乗って木武島にやってきたロシア兵を面白おかしく描いてみたりした。ときにはロシア兵が頭を斧で割られ中からピロシキの具が飛び出している絵や、彼らの大小の生首をマトリョーシカに見立てた絵も描いた。こうした絵にも、ゾローニンはいつもご満悦だった。

 ある日、いつものように新作の絵を持って村役場に行く途中、向こうからどこかで見たような日本人が歩いてくるのが見えた。背丈は五尺八寸ほど、痩せていて眼鏡をかけ、白いシャツにカーキ色のズボン。その男の目を見た瞬間に分かった。これは私自身ではないか!
 私の分身はいそいそと歩いて私に気づかぬ様子ですれ違って行った。
 私は呆然自失のていで村役場についた。
「忘れ物かね?」ゾローニンは言った。
「さっきも私が来ましたか?」
「どういうことだね?」
「いや、何でもありません」
「それにしても君が今日もってきてくれた絵は、ちょっとよく分からん所があるがとにかく迫力があるね。大きな真っ黒いタコがこの島全体に覆いかぶさっておる。しかし君のこういう発想はどこから出てくるのかねえ」
「いや、ええ。忘れ物なんです。また伺います」
 そういうと私は村役場を急いであとにした。私の分身が勝手に絵をもってきた……私の見たこともない絵。ドッペルゲンガー。死の前兆とも言われている……。
 私は下宿につくとすぐふとんにもぐりこむ気だった。しかし部屋の戸を開けると、私の机には私自身が座っていた。そいつは振り返って私を見た。二人の目が合った瞬間、私は悲鳴を上げた。

 ふとんをがばとはね上げ飛び起きると、自分の叫び声でガラス戸が震えているのが分かった。夢だったのだ。ドッペルゲンガーは夢だった。しかし夢の中の出来事ははっきり脳裏に焼き付いていた。あの不気味な蛸の絵。
 私は忘れないうちに、その絵を画用紙に描いた。黒く巨大な蛸は、この島の真ん中に胴体を据え、八本の足で島全体を包み込むようにしていた。大急ぎで色を塗り終えたとき、軍艦のサイレンがけたたましく鳴り響いてきた。私が下駄をひっかけ大急ぎで海に向かうと、あろうことか私が描いたのとそっくり同じ黒い大蛸がソ連の軍艦に襲い掛かっていた。足を船体にからめ、黒蛸はいとも簡単に船をひっくり返した。ゾローニンは機関銃で蛸に応戦していた。しかし蛸は銃弾などものともせず、かえって一本の足を伸ばしてゾローニンに巻き付け、抱え上げた。そのしめつけにゾローニンは悲鳴をあげ、背骨の折れる音が聞こえて彼はこときれた。私はその黒蛸の絵を片手に持って、呆然とその様子を見ていた。

 島民たちは、はじめ大蛸がソ連の軍艦を沈めたことに大喜びしたが、ついで八本の足をうねらせて上陸してくると、悲鳴をあげて逃げ惑った。蛸は足を広げると優に島を覆いつくすほどの大きさだったから、逃げる場所は海しかなかったが、逃げ遅れたある者は蛸に踏みつぶされ、ある者は食われた。漁船で逃げようとした者もいたが、それも大蛸の触手で叩き潰された。
 私は島の中央の小山のほうへ走り、そのふもとの洞穴に逃げ込んだ。島の真ん中に体を運んだ大蛸は、その洞穴をのぞき込み、丸い目をぎょろぎょろさせていたが、どうやら私は見つからずにすんだらしい。

 誰か助けに来ないだろうか? しかしこの馬鹿でかい大蛸相手では、空母も戦闘機も歯が立つまい。私は手の中でくしゃくしゃになった黒蛸の絵をひろげて見た。私にはどうやら予知夢を見る能力があるらしい。してみると、黒蛸が倒される夢を見れば、助かるかも知れない。そして必死で念ずれば、そういう夢を見られるのではないか。しかしこの大蛸を倒す手立てなどあるだろうか……そう、聞いたことがあるぞ。アインシュタイン博士の理論から導かれ、理論的には可能と言われているあの兵器。どうか、どこの国でもいいから、原子爆弾をこの島に落としてくれ!

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執筆陣
HN:
快文書作成ユニット(仮)
自己紹介:
 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


 ❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。

 ❖ 呂仁為 Ⅱ 〜 昭和の想い出話や親しみやすい時代物、歴史小説などについて書きます。

 ✿ 流火-rjuka- ~ 主に漢詩の創作、訳詩などを行っています。架空言語による詩も今後作りたいと思っています。

 ☃ ちゅうごくさるなし
主に小説を書きます。気が向けば弟のカヲスな物語や、独り言呟きなことを書くかもしれません。

 ♘ ED-209 〜 PNの由来は映画『ロボコップ』に登場するオムニ社の敵役ロボットからです。今まで書き溜めてあった自身の体験談やコラムを発表するには良い機会と思い寄稿させて頂きました。是非、御読みになってみてください。そして何より皆さんに楽しんで貰えれば嬉しいです。

 ☠ 杏仁ブルマ
セカイノハテから覗くモノ 



 我ら一同、只管に【快文書】を綴るのみ。お気に入りの本の頁をめくる感覚で、ゆるりとお楽しみ頂ければ僥倖に御座居ます。









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