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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2017/10/17 (Tue) 18:47:10

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No.661
2013/09/15 (Sun) 00:18:44

死んだ磯田進吉のアパートの大家である小林氏が葬儀場のロビーにあるソファに腰かけていると、となりに大きな肥満の男が座った。男はハンカチで汗を拭き拭き、落ち着かなげに手帳を開いて何か書き込んでいた。小林氏は肥満男の書き物が一段落するのを待って、その男が磯田氏とどういう関わりの人物であるかを尋ねた。

「私ですか? 私は長谷部英世といいまして、長年心霊現象を扱った雑誌を作ったり、またそれに関する記事を書いて生計を立ててきたものです。まあ世間一般からすれば胡散臭がられている物書きですな。磯田さんと会ったのはかれこれ二十数年前になりますか。当時彼はタイムトンネルの研究を主にしていて、それを安定的に稼働させる鍵となる研究がイギリス人物理学者によって精力的になされているというので、磯田さんもその物理学者との共同研究のために渡英していたんです。

 そこでなぜ私が磯田氏の知遇を得たかというと、ちょっと話は長くなります。イギリスには昔からあちこちに幽霊屋敷というものがあって、それ自体は珍しくなかったのですが、ある科学者がそうした幽霊屋敷に住んで、幽霊を空気中から捕まえてさまざまな実験器具でその正体をとらえようという試みをしていたのです。それには幽霊を降霊術によって呼び寄せ、特性のタンクに幽霊を呼び込み、閉じ込めて高い気圧をかけたり、氷点下に冷やしたり、電気刺激を与えたりしました。彼は、もし幽霊が気体であるなら、圧力をかけることによってそれを液状にしたり、冷やすことによって幽霊で出来た雪を作ることも可能だと考え、しかもその実験に成功していました。ちょっとしたマッド・サイエンティストですな。

 そこで私も興味を駆られて遠路日本からイギリスへ取材にやってきたわけです。この幽霊の研究をしている一風変わった科学者、名前をジョンソンと言いましたが、彼はたまたま磯田氏の旧友でした。ある日私がジョンソン邸で取材をしていたところ、そこへ磯田さんもふらりとやって来ました。しかし、このジョンソンという科学者は残念ながらまともな精神状態ではありませんでした。ときどき幽霊に呪われたかのように奇声を発し、その場にばったと倒れます。我々が彼を介抱すると、こんどは磯田さんは機械の中で液化され雪の結晶と化した幽霊がどういうものか興味を持ち、もとの幽霊の姿にもどすことに成功しました。そして彼ら幽霊との対話を試みました。私もこうしたオカルト的な出来事には人一倍関心を持っていますから、いろいろと幽霊に質問しました。
 それにしても磯田さんは科学者といってもジョンソン氏と違い、幽霊をただの物質とは扱わず、その話にじっと耳を傾けたその態度は謙虚で立派なものでした。

 すると真っ暗な屋敷の奥から、金属の甲冑を身につけた大男が、足を引きずって現れました。そしてその男は首を斬りおとされており、左手にその首を抱え、右手に剣を持っていました。そして床板の一部を剣で壊すと、中に古びた大きな箱が入っており、磯田氏と私に『これをお前たちにやる』と身振りで示しました。箱の中には金貨がぎっしり詰まっていました。
 ジョンソン邸の幽霊は『これから我らが一族を虐殺した者たちに復讐せねばならぬ』と厳かに宣言しました。ジョンソン邸に棲む幽霊たちは、もとはシルバースミス家という一族の末裔だそうで、二百年ものむかし一族を皆殺しにされたとのことです。そしてこれからその怨敵の子孫を殺しに行くのだ、と告げました。子孫に仇討するなど馬鹿げたことだ、子孫に罪はないだろうと磯田さんはいいましたが、かえって甲冑の騎士に殴られ昏倒してしまいました。私はあまりの恐ろしさにその場にじっとしていました。

 そうして、このシルバースミス家の霊による復讐が始まりました。ところで偶然にも、シルバースミス家の復讐の相手とは、磯田さんが泊まっている安ホテルの主人とその一家だったのです。甲冑の幽霊は、その重い剣でホテルの主人一家四人を無残にも皆殺しにしてしまいました。ある者は首をはねられ、ある者は剣で腹を突き通されて。
 そこに戻ってきたのが磯田さんです。彼は警察を呼んで、状況を説明しました。しかし殺人を犯したのが幽霊だなどと警察は信じるはずはありません。かえって磯田氏が、ジョンソン邸でもらった金貨でポケットを一杯にしていることから、彼に強盗殺人の嫌疑がかかってしまいました。私も磯田さんと同様の古い金貨を持っていたことで警察に引っ張られました。

 まもなく裁判になり、我々は被告の席につきましたが、開廷後まもなく法廷の照明がふっと消えてしまいました。そしてどこからともなく
『そこにいる磯田と長谷部という男に罪はない。アリバイはジョンソン博士が証明してくれるだろう』
という声がこだまし、気違いになっていたはずのジョンソン博士が、青い顔をして機械人形のように法廷にはいってきました。
『磯田氏と長谷部氏は事件当夜、私の邸宅にいました。殺人に関わっていたはずはありません』
 しかしその声はシルバースミス家の幽霊の声に瓜二つで、どうみてもその霊に操られているようでした。ジョンソン博士はアリバイの供述を終えるや否やその場に倒れてしまいました。もはや息はありませんでした。

 これで事件は一件落着しましたが、私は磯田さんからジョンソン博士の実験の原理、つまりいかにして幽霊を液状にしたり雪状にしたりするかを教えられ、オカルト専門ライターとして多くの知識を得ました。また磯田さんは霊界との交信ということに興味を持ち、霊の声を受信する装置を作り上げました。私は先祖たちの声を聞かせてもらいましたが、七人の先祖すべてに『肥満を解消しろ、養豚場で人生やり直すか?』と言われたことにはさすがにへこみましたね」

 小林氏は、磯田氏が幽霊と話す機械までを作っていたことを聞いても、もはや感覚が麻痺していたのか「へえ、そうですか」などと人形のように受け答えした。

「ちょっともし、あなたは磯田さん宅の大家さん?」呼ばれて振り返ると、身の丈二メートルはありそうな大きな男が立っていた。喪服を着たこの人物は、まるで黒い壁だった。見上げんばかりのこの男に呼ばれ、とにかく小林氏は返事をした。

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快文書作成ユニット(仮)
自己紹介:
 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


 ❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。

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