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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2024/04/19 (Fri) 15:31:46

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No.659
2013/09/09 (Mon) 20:38:38

数学者の秋山仁は、中学高校までの数学だったか、とにかく数学ができるためには次の四つの能力があれば十分だ、とどこかで書いていた。

1 下駄箱に靴をそろえて入れることができる
2 辞書が引ける
3 カレーライスが作れる
4 最寄駅から自宅までの地図が描ける

 1の靴をそろえられるということは「1対1の対応」の概念が理解できているということで、2の辞書が引ける、すなわち辞書で目的の単語を見つけられるというのは「順序」の概念が分かっているということであり、3のカレーが作れるというのは「手順を整理し観察・実行」ができるということを意味し、4の地図が描けるということは「抽象能力」がある(3次元のものを2次元に移して考えられる、よけいな風景を省いて道順だけ抜き出して描ける、といった)……という意味だそうだ。
 
 この話は森重文がフィールズ賞を受賞したとき、新聞記者の取材を受けた秋山氏が、森理論は分からないからというので、とっさに思いついてサービスで披露したのが最初らしい。
 即席で考えたにしては見事なたとえ話だが、ただ最初の下駄箱に靴を入れられるから1対1対応が分かっているというのはどうか、ちょっとリップサービスが過ぎるような気がしないでもない。

 一口に1対1対応と言っても難易度はピンからキリまであって、高度なものになると相当に思考力を研ぎ澄まさなければ理解できないものである。簡単な例から考えてみよう。


(例1) 教室にいる生徒がすべて着席している。このとき生徒の数と椅子の数ではどちらが多いか?

 そう尋ねられて教室にいる生徒をいちいち数える人はいないだろう。生徒が全員座れているのだから椅子が生徒より少ないはずはない。つまり

   生徒の数 ≦ 椅子の数

である。この場合なかば無意識的にだろうけれど、生徒と椅子を1対1に対応付けているのである。


(例2) 1 + 2 + 3 + … + 100 を計算せよ。

 これは高校で公式を習うし、多少とも数学に縁のある生活をしている人は即座に計算できるかも知れない。これは

 S = 1 + 2 + 3 + … + 100

とおいてみて、逆さまの順序で足し算したものをその下に書いてみると

 S = 1 + 2 + 3 + … + 98 + 99 + 100
 S = 100 + 99 + 98 + … + 3 + 2 + 1

上と下を見比べてみると、1 と100, 2 と99, 3 と 98 … といった具合に数が上下に並んでいる。上の段は数が1つずつ増えていき、下の段は数が1つずつ減っていくのだから、このばあい上下に並んでいる2つの数字を足したものはいつも101であるはずだ。だから上のS と下のS を加えたものは

 2S = 101 + 101 + 101 + … + 101 ( 101 を 100個足し合わせたもの)
 = 101×100 = 10100.

 2S = 10100 なのだから、結局知りたかった答えは

 S = 10100÷2 = 5050

である。この場合、足して101になる2つの数字を対応させられるかどうかが鍵になる。これも1対1の対応だが、何と何を対応させればよいのか発見するところに飛躍が必要となる。


(例3)50チームが参加する野球の大会でトーナメント戦をする。優勝チームが決まるまでに何試合おこなわれるか?

 実際に50チーム書き出して対戦表を作り、試合数を数えるのはかなり手間がかかる。
 トーナメント戦とはどういうものか考えてみよう。高校野球などでよく見るように、トーナメントでは1度負けるとそのチームは大会から去らなければならない。つまり1試合おこなえば1チーム負け去るのであり、試合で負ける以外の理由でチームが去っていくことはない。ということは

 行った試合数 = 大会から去っていったチームの数

ということになる。そして優勝チームが決まるということは、そのチーム以外の49チームが負け去ることを意味する。だから結局この大会では49試合おこなわれたことになる。答えは49試合。
 試合数と負け去ったチームの数を対応させるというのはかなり高度な思考である。何もヒントを与えられずにこういうことを思いつくとしたらそのほうが異常である。その人はすぐに数学者を目指したほうが良い。

 上にあげた3つの例は比較的有名な問題で「そんなことは知っている」と退屈した人もいるかも知れない。だから最後にもっと高度な例をあげてみる。
 
 記号をいくつか用意する。
 正の整数 a, b に対してその最大公約数を ( a, b ) で表す。とくに ( a, b ) = 1 のとき、a, b は「互いに素である」という。
 正の整数 n に対して、n よりも小さく n と互いに素な正の整数の個数をφ( n ) で表す。記号で書けば
 φ( n ) = ♯{ m | 1≦m≦n, ( m, n ) = 1 }
となる。ただし ♯ はその後ろに書かれている集合の要素の個数を表す。ちなみにφ( n ) はオイラーの関数と呼ばれている。そこで次の問題である。


(例4)正の整数 n に対して
   n = Σφ( d ) (ただし d は n を割り切る正の整数)
 を証明せよ。

 つまり n を割り切るようなすべての d について φ( d ) を考え、それらをすべて足し合わせたのがΣφ( d ) である。
 ここで d_1, d_2, … , d_k をn の正の約数のすべてだとすると、証明すべき式は
  n = Σφ( d_i )  (ただしi は1からkまでの整数をわたる)
と書ける。また
 N = { 1, 2, 3, … , n },
 i = 1, 2, … , k に対し D_i = { [ m, d_i ] | 1≦m≦d_i, ( m, d_i ) = 1 } とすると
♯D_i = φ( d_i ), ♯( D_1∪D_2∪…∪D_k ) = Σφ( d_i ) だから
集合Nと集合D_1∪D_2∪…∪D_k の要素間に1対1の対応がつけば、証明すべき式が示される。

 さて1≦m≦n であるような整数 m に対し( m, n ) = c だったとする。m, n をそれらの最大公約数 c で割った m/c, n/c を考えると、この2数の公約数はもはや1しかないはずである: ( m/c, n/c ) = 1. また 1≦m/c≦n/c である。n/c は n の約数であり、d = n/c とおくと ( m/c, d ) = 1 で、m/c は d より小さくて d と互いに素な整数である。つまりあるj に対し [ m/c, d ] はD_j の要素で、したがって D_1∪D_2∪…∪D_k の要素である。そこでmに[ m/c, d ]を対応させ、この対応をf とする:f (m) = [ m/c, d ]. f は集合NからD_1∪D_2∪…∪D_kへの対応を与えている。

 他方d を新たにnの任意の約数とし、d = n/c だったとする。そこで 1≦m≦d, ( m, d ) = 1 を満たす整数 m をとってくると、あるj に対し[ m, d ] はD_j の要素で、したがって D_1∪D_2∪…∪D_k の要素である。n = cd だから 1≦cm≦n, ( cm, n ) = c. よってcmはNの要素となる。そこで [ m, d ]に対してcmを対応させ、この対応をgとする:g ([ m, d ]) = cm. gは集合D_1∪D_2∪…∪D_k からNへの対応を与えており、明らかに f の逆の対応となっている。これによって、集合NとD_1∪D_2∪…∪D_kの間に1対1の対応があることが分かり、証明は終わった。

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執筆陣
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快文書作成ユニット(仮)
自己紹介:
 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


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