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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2024/04/26 (Fri) 04:22:15

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No.680
2015/01/06 (Tue) 03:05:58

前回までのあらすじ 

 阪急電車の車掌兼清掃員だったこの物語の主人公は、致死量をはるかに上回る放射性廃棄物を浴びて逆に不死身の体を持つモンスターになった。大男でほぼ真っ黒な顔の中央付近に一つ目が光っているという風貌で、異常な怪力と非常な正義感の持ち主であるこのモンスターは、次々と悪人を懲らしめ、更生の余地がないと見るや容赦なく殺していった。ときあたかも凶悪事件の犯人も加害者の人権が擁護され軽い罰ですんでしまう風潮で、モンスターによる「悪人即残虐な死刑」という行動は世論の歓迎を受け、またたく間に時代のヒーローとなった。
 モンスターは正義の道を貫きつつ、その時々で居場所と身分を変え、あるときは陸上選手、あるときは未開の王国の国王、あるときは精神病院の患者であった。またその過程で知り合った松平平平(まつだいら・へっぺい)という麻生太郎そっくりの風貌を持つ男とは長い付き合いを持つが、終生の友なのか、宿敵なのか、いまだにはっきりしない。
 さてIR鉄道からの斡旋で中学生野球チーム「バイアンズ」の監督となったモンスターは、コーチの岸川に調子を合わせるうち、死に至る体罰も辞さない猛烈なしごきをメンバーに課すようになった。しかしバイアンズの実体とその激しいしごきの目的は、野球とは別のところにあった。IR鉄道が宇宙探検の分野にも事業を拡大していたことは周知の事実だったが、あるとき土星の衛星タイタンを探検して帰ってきた宇宙船に危険なエイリアン(映画「エイリアン」のそれと同一視してもらって構わない)が忍び込んでおり、そのエイリアンのタイタンにおける生態系の調査こそが、バイアンズの真の活動目的だったのである。猛烈なしごきが、危険極まりないエイリアンと渡り合うための訓練であったことは言うまでもない。
 さてこの真実を明かされたモンスターとバイアンズのメンバーは、宇宙船ドリムーン号に乗って敢然とタイタンへ向かった(バイアンズのメンバーは、しごきとエイリアンとの闘争の過程ですでに八人にまで減っており、この宇宙飛行の間にも減って六人になった)。しかしいざタイタンに到着してエイリアン調査活動が始まると、あたりにごろごろしているダイヤモンドの石にバイアンズの少年たちは目がくらみ、あくまで調査活動を続けようとするモンスターをダイヤの大きな塊で殴りつけて昏倒させ、大量のダイヤを回収してさっさと地球に帰ってしまった。タイタンに取り残されたモンスターは途方に暮れたが、なぜかそこにいた松平平平と、その妹・竹子(たけこ、安倍晋三とそっくりな風貌)と出会い、地球への帰還と、バイアンズのメンバー六人に対する復讐に一縷の望みをつないだのだった。

生き残ったバイアンズのメンバー

獄目鬼(ごくめき)、火戸羅(ひどら)、鹿羽根(しかばね)、魔具虎(まぐどらー)、牟残(むざん)、兀奴(ごっど)


毒々復讐鬼の帰還

 土星の衛星タイタンに取り残されたモンスターは、なんとか地球に帰還してバイアンズの六人に復讐したいと思った。しかしドリムーン号は少年六人が乗って地球へ帰ってしまっていた。
「おい松平、地球に帰る手段はないか?」
「あるよ」と麻生太郎そっくりの松平平平は気軽に答えた。「妹はエンジニアでね。ここを拠点に宇宙探検しているんだが、すぐにでも飛べるロケットが二台ある。そうだったな、竹子?」
 おかっぱ頭で安倍総理そっくりの松平竹子が「そう、微調整すれば三台あることになります、お兄さん」と答えると
「よし、モンスター、竹子のドックへ行こう」
 三人は松平兄妹の住居の裏にあるドックの扉をあけた。巨大なドックだった。ほぼ完成型をなしたロケットが数台建っており、修理中と思われる宇宙船が他にも何台もあった。
「壮観だな! 竹子さん、あんた何者なんだ?」
「私はただの女です。宇宙がちょっと好きなだけのただの女」無表情に安倍晋三そっくりの顔と声で言う赤いワンピース姿の竹子は、男にしか見えなかったが、松平が妹というからにはやはり女なのだろう。不気味な妹であった。
「モンスター、これに乗れよ」松平平平は、ダークグリーンのずんぐりした大きな宇宙船を指さした。「な、これがいいよな、竹子」
「そうね、これなら型は古いけどしけには強いし」
「宇宙にしけなんてあるのか?」
「宇宙探検者は船体を傷つける小惑星群や磁気嵐をしけというんだよ」と松平。
「そうか。ありがとう、竹子さん」
「とんでもないです。兄がいつもお世話になってますから。でもただ一つお願いがあります、出発する前に私を抱いてください」
「こいつをぶち殺してもいいか?」モンスターが松平に言うと
「俺があとで折檻しておくからどうか許してくれ。さてと、この船の名前はチャシー号だ」
 松平に操縦を教わり、整備も終わって、モンスターを乗せたチャシー号はタイタンを飛び立ち、一路地球を目指した。

 高層ビルの最上階にある見晴らしのいい大きな部屋。三十代半ばのスマートな男がシガーをくゆらせていると、豪華な黒檀の机の上でインターフォンが鳴った。
「なんだ?」男がスイッチを入れて言った。
「タイタン監視係です。正体不明の宇宙船が地球に接近していますが、タイタン方面からの可能性があります」
 男は眉を険しくして、シガーをもみ消した。スイッチを入れ替え、別な部署に事情を説明しつつ
「第三警戒態勢を取れ。警察と密に連絡をとって、やつが乗っていることがはっきりしたらマニュアル207号の作戦を取るんだ」
 いつものように取り越し苦労で、やつが乗っているのでなければいいが。いやしかし、タイタンへの航路が今の状態であってみれば、やつの生還はわが社の命運を左右するかも知れない。またやつへの復讐の絶好の機会が訪れたことにもなる。
 最上階の男は、細身の体にぴったりと仕立てられた上等のスーツからシガーケースを取り出し、部屋を出ていった。

 大気圏を突入すると摩擦音と冷却機の轟音とがモンスターを襲ったが、しばらくすると視界には青い空が広がっていた。高空特有の、薄いベール状の雲がたなびいている。故郷に帰ってきたという安堵を感じたのもつかの間、円盤状の物体が二個三個と飛び回っているのがコクピットから見えた。その物体はそれぞれ、ちかちかと白い光を信号のように点滅させ、しばらくチャシー号にまとわりついていたが、やがて離れていった。未確認飛行物体、すなわちUFOと呼ばれるものによく似ていたが、目を凝らすと、同様の物体がそこかしこを飛行している。
 日本を目指してチャシー号は高度を下げていく。東京の上空に来て、地上の風景が見分けられるようになると、モンスターは違和感をもった。これは、見覚えのある東京とはかなり違う。ビルの高層化がより進んでいることは驚くに当たらないが、ビル同士が高空低空いずれにおいてもパイプで連結され、先ほどから目にしていた円盤状の小さな乗り物があちこちのビルの屋上に発着していた。ネオンサインも大規模で、企業名らしきものが紅く青く緑にと大きく光りあるいは点滅していたが、企業名だとしてもどれも見覚えのないものだった。

 多摩川の周辺に広い空地が見え、モンスターはそこに着陸することにした。
 無事着陸を終え、ハッチを開いて久しぶりに地球の大地を踏みしめようとした瞬間、いくつかのサイレン音が聞こえてきた。モンスターが河川敷の砂利道を歩いてあたりをゆっくり眺める間もなく、パトカーと思しき乗り物が三台近づいてきて停車した。デザインはまさしく日本のパトカーだったが、なんとどれにもタイヤがない。これはどういう仕組みで動いているのだろうなどとぼんやり考えていると、数人の警官が降りてきて言った。
「A-19管区の警察の者だ。君の名前は? それとこの船の宇宙船籍番号は?」
「俺は一つ目のモンスターで通っている。日本でこの俺を知らない者はいないだろう。だが、宇宙船籍番号とは何だ?」
 警官はタブレット型端末を取り出した。この黒い一つ目の大男を検索したらしい。
「モンスター。性別は男。本名は不明、出身は関西と思われる。二十一年前に宇宙船ドリムーン号で未成年の少年八名とともに惑星タイタンに向かい、以後消息不明」
「ちょっと待て。二十一年前といったな? 俺が地球を飛び立ったのはせいぜい数か月前のはずだが」
 しかし警官はそれが聞こえなかったかのように「このモンスターなる男は未成年者略取、および少なくとも347件の殺人を犯している」
 それを聞くと警官たちはさっと拳銃をモンスターのほうに向けた。
「いや、俺が正義の使者であることは誰もが知っているはずだ。悪人を懲らしめる過程で確かにそれぐらいの人間は殺しているかも知れない。だが聞いてくれ」
「これが悪人を懲らしめている光景か?」警官の一人はタブレットの画面をモンスターに向けた。そこにはモンスター自身が映っており、学生服を着た十代前半ぐらいの少年の腹から腸をずるずる引きずり出しながら「まだ観念しないか! 親が金を持ってこなければ腎臓を両方握りつぶすぞ!」
 モンスターは慌てて「それはその中学生がたまたま麻薬売買の総元締めでだな、しかたがなかったんだ、だが親に金を持ってこさせろなんて言うはずないんだが」
「とにかく君の身柄はすぐに拘束する。一級危険人物につきパラライザーで身体の自由を剥奪する」
 すると相手の拳銃から白いビームが発射され、モンスターは急速に意識を失っていった。

 モンスターは天井全体から放射される白い光に目をしばたかせながら、頭を振り、上体を起こそうとしたが、何かが手足に絡みついていて、動くことが出来なかった。よく見ると天井の一角が四角く切り取られ、そこから茶色い制服の警備員らしき男が様子をうかがっていた。
「社長、モンスターが……」と、かすかに頭上から聞こえてくる。ここは警察か? 社長とは誰だ? 朦朧とした意識のままで形にならない思考をいろいろ巡らせていると、間もなく先ほどの天井の穴から別な男が顔を出した。色が白く、細身でスーツを着ているが、まだ若い。
「モンスター、久しぶりだな。俺を覚えているか? バイアンズで野球したことぐらい覚えてるだろ?」
 モンスターがまだ訳のわからない様子をしていると、濃紺色のスーツを着た男は傍らの誰かに言った。「意識をはっきりさせてやれ」
 すると白衣の男と、銃を持った二人の警備服の男が入ってきた。モンスターは上膊(じょうはく)に薬液が注入されるのを感じた……モンスターの一つ目の焦点が上から見下ろしているスーツの男の目と合った。
「よし、どうだ、俺の顔を覚えているか?」男は金縁の眼鏡を外した。「バイアンズでショートを守っていたんだよ」
「む、牟残……」
「そうそう」男は満足げに言った。しかしどこか不安そうな影がその顔にはあった。
「どこだここは? 警察にしては様子が変だ」
「そう、ここは警察ではない。私の会社だ。正確には牟残産業、本社ビルの九十七階だ。私は警察と仲良しでね。とくに私と親交の深いモンスターさんにはたとえ拘留中の犯罪者であっても、ここにおいで願うことが出来るというわけだ」
 牟残はシガーケースから一本取り出して火をつけ、うまそうに煙を吹いた。
「そう、二十年前、俺たちバイアンズのメンバーは散々な目にあったねぇ。お前が監督で岸川ってコーチがいて、しごきに耐えられない奴は容赦なくぶち殺された。忘れたとは言わさねえぞ」
「それより教えてくれ。俺の記憶では、ドリムーン号でタイタンに飛び立ったのはつい数か月前なんだ。それが帰ってきてみれば二十一年経っているという。これはどういうことだ?」
「さあね」牟残はシガーの灰をわざとモンスターの顔に落とした。「まだ科学で明らかにはされてないようだが、火星と木星の間でときどきそういうことが起こるらしいね。ほら、小惑星帯を突っ切るときにやたらと方向転換するだろう? あれがきっかけになって船が時空の歪みにはまりこむことがあるって聞いたことがあるね。まあそんなことはどうだっていい」
 牟残は傍らの男に、モンスターをもっと近づけるように言った。するとモンスターが寝かされているベッドだけが音もなく持ち上がり、牟残社長のすぐ目の前まで来た。
「俺はお前が憎い。今すぐぶち殺してやりたい気持ちもやまやまだが――私の会社のおこなっているある事業の行く末が、あるいは君と深く関わっているかも知れないんでね。隠しても仕方がないから言ってしまうが、わが社が手掛けているダイヤモンド産業の多くの部分が、タイタンにある鉱山に負っていてね。だからタイタン・地球間の航路の安全はわが社にとって、非常に大切なのだが、最近その航路の安全が脅かされている。タイタンの軌道に乗る地球の船がかたっぱしから撃墜されている。この件についてモンスター君は何か知ってはいないかね?」
 牟残はつとめて平静を保って喋っていたが、こめかみから汗が浮き出ていた。
 モンスターは言った。
「知らんね。本当に知らん。タイタンで私の知っている地球人は松平平平とその妹ぐらいで、そいつらなら知ってるかも知れん。それしか言えないね。そして言っておくが、俺もお前を恨んでいる。俺をタイタンに置き去りにして地球に帰って行った、当時中学生だったバイアンズの六人を、そうお前を含む六人を、心の底から恨んでいる。絶対に復讐してやる。絶対にだ」
 牟残は顔面のそこかしこをぴくぴくさせながら聞いていた。こいつはまだ俺を恐れている、とモンスターは感じた。モンスターがチームメイトの顔面を握り潰し目や鼻と一緒に脳味噌をつかみ出すのを牟残は見ていた。モンスターが仲間の胸に腕を突っ込み心臓をつかみ出したとき、牟残はその熱い血しぶきを浴びていた。二十年以上前のこととはいえ、そう簡単に忘れられるものではない。
「ベッドを下げろ」牟残が命じると、また音もなくモンスターの寝台が下がっていった。モンスターが牟残の顔に唾を吐きかけると、若い社長は「こいつ」と言いかけてモンスターにつかみかかったが、左右から警備員に止められた。
 寝台がもとの位置まで下がると、上の階から社長が覗き込んでいた穴が消えた。
「面白いものを見せてやろう、モンスター君」
 天井からガチンという音が聞こえた。
「よく見てごらん。上から針がたくさん突き出ているだろう? モンスター君はもともと鉄道会社で清掃員をやっていたのだったね。モップは正義の味方モンスターのシンボルだった。そこにモップがあるから、君のいる階を毎日くまなく掃除してもらおう。いちにち掃除を怠るとその天井は一メートルずつ下がる仕組みになっている。タイタンの件について何か言う気になったらいつでもそう言ってくれたまえ。誰かは聞いていると思うから。では自由にしてやろう」
 するとモンスターを縛りつけていた見えない戒めが解けて、自由に動けるようになった。と同時に白い照明が消えて、ビルの外から入ってくる光だけがあたりを照らしていた。牟残の言った通り、モップが一本転がっていた。
 牟残は抜け目のない奴だから、ここから抜け出ようという試みは無駄だろう。
 モンスターは外界とそこを仕切っている冷たい硬質ガラスに触れて、まだ見慣れぬ未来世界を眺めやった。

(つづく)

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執筆陣
HN:
快文書作成ユニット(仮)
自己紹介:
 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


 ❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。

 ❖ 呂仁為 Ⅱ 〜 昭和の想い出話や親しみやすい時代物、歴史小説などについて書きます。

 ✿ 流火-rjuka- ~ 主に漢詩の創作、訳詩などを行っています。架空言語による詩も今後作りたいと思っています。

 ☃ ちゅうごくさるなし
主に小説を書きます。気が向けば弟のカヲスな物語や、独り言呟きなことを書くかもしれません。

 ♘ ED-209ブログ引っ越しました。

 ☠ 杏仁ブルマ
セカイノハテから覗くモノ 



 我ら一同、只管に【快文書】を綴るのみ。お気に入りの本の頁をめくる感覚で、ゆるりとお楽しみ頂ければ僥倖に御座居ます。









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