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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
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No.132
2009/11/10 (Tue) 00:05:43

期待  デーメル

赤い館のかたわら
海緑色の池から
樫の死木のしたに
月が照る

館がくらく
水にうつるところに
男がひとり立ち
指環をはずす

三粒のオパールがきらめき
青白い石のないぶに
赤や緑がきらきらと浮び
流れ沈みゆく

男は石に口づけし
瞳は海緑色
の水底のようにかがやき
窓がひとつひらく

樫の死木のかたわらの
赤い館から
青白い女の手が
男にむかってひらひらと動く


岩波文庫『ドイツ名詩選』より(檜山哲彦訳)。

好きな作品であると同時に、どうも解釈に苦しむ詩だ。
題名を「期待(Erwartung)」というけれど、いったい誰が何を期待しているのだろうか。
池のほとりに立って指環をはずした男が、宝石のなかに明滅する赤や緑のきらめきを眼にし、何かよいことが起こるのを予感して石に口づけした。まずそんなふうに感じるのだが、館の窓から女の手(Frauenhand)が出てきて男に何事か合図をする、その手が青白い、血色が悪い(bleich)というのが気にかかる。なんとなく、期待というよりは不安になるような女の手だ。

あるいは何かを期待しているのは、手を振った女のほうだろうか。彼女は病弱な体だ。さきほどその男性に、自分の形見にとオパールの指環を渡した。彼が池のほとりで、その宝石をじっと見て口づけし、その瞳のなかに澄んだ輝きを宿しているのを彼女は見た。きっと彼は、彼女のことをずっと忘れないだろう……という期待。

しかし、詩の中では女の手は遠景の一部に過ぎない感もあり、そこまで想像するのは恣意的な気もする。

「樫の死木」という言葉から、男が立っている場所はきっとさびしげな場所だ。館も暗いし、ひとけはないけれど、月が皎々と照らし、そして何より指環の青白い宝石は、周囲のことを忘れて見入ってしまうような美しさだ。男の心は満ち足りている。

なんとなく詩ぜんたいが、ひとつの夢のようにも感じられる。脈絡がないようで意味ありげな青白い女の手も、印象的な夢の幕切れのようだ。だから強いて解釈を試みなくてもいいのかも知れない。じじつ、これまで解釈しようとしなくても好きな作品だったのだから。

元来これが収められている作者デーメル(Richard Dehmel 1863 - 1920)の『女と世界』という詩集をみれば、もっと何か分かるかも知れない。

ドイツ語に詳しい方のために、この詩の原文を掲げておきます。


Erwartung

Aus dem meergrünen Teiche
neben der roten Villa
unter der toten Eiche
scheint der Mond.

Wo ihr dunkles Abbild
durch das Wasser greift,
steht ein Mann und streift
einen Ring von seiner Hand.

Drei Opale blinken;
durch die bleichen Steine
schwimmen rot und grüne
Funken und versinken.

Und er küßt sie, und
seine Augen leuchten
wie der meergrüne Grund:
ein Fenster tut sich auf.

Aus der roten Villa
neben der toten Eiche
winkt ihm eine bleiche
Frauenhand ....


(c) 2009 ntr ,all rights reserved.
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 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


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