忍者ブログ
AdminWriteComment
 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2017/10/17 (Tue) 18:47:01

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

No.133
2009/11/11 (Wed) 18:11:54

竹里館  王維

獨坐幽篁裏
彈琴復長嘯
深林人不知
明月來相照

深い竹やぶの中に、私はただ一人すわって、
琴を弾じ、また声長くうたう。
深い林に包まれたこの楽しい世界を、人は知らないが、
しかし明月は私を照らしてくれる。

(前野直彬訳)

満月の夜、私がいつものように深林で琴を調べ歌っていると、空気が澄んだためか月がひときわ強く輝きだした。かなたに光る白い月から、雲に乗って、桃色の羅衣を身にまとい美しい黒髪を結い上げた、天女と思しき女がすーっと飛んできた。
「すがしき琴の音だこと……もっと弾いてたもれ」
私は夢を見ているのではないかと思いながら、得意の曲をもう一つ弾じた。
「そなたはまさに天の巧を奪う楽人。この笛をそちにとらそう」
「あいにく笛の心得はございませんので」
「よいよい。何か困ったことがあれば吹くがよい。ところでそなたは富者か」
「いえ、この近くの草堂で粗末な暮らしをしております」
「明日からはきっと良いこともあろう。ではわたくしは月に帰ろう。今日は本当に楽しかった。さようなら」
といって天女の乗った雲は月に帰りかけたが、天女はふと思いついたように振り返り、じっと私を見つめた。そして戻ってきて言うには
「本当に困ったときは、この箱を開けなさい」
私は天女から黒い箱を賜った。私が茫然としていると、天女は来たときのようにすーっと月に帰っていった。

翌日。私は月の光の下、林の中でやはり琴を弾いていた。冷たい月光に照らされて琴を弾くのは私の何よりの楽しみだ。
しかしある曲の佳境に入ったころ、林のそこここからうめくような人声が聞こえてきた。そして驚くまいことか、地面からたくさんの人間が這い出してきたではないか。顔は灰色だったり土色だったりで、腐って骨が露出している者もいる。
私は恐怖のあまり琴を弾く手を止めた。そのとき、心の中に天女の声がこだました。琴を弾き続けるのじゃ、と。
私は夢中になって琴を弾いた。すると、襲いかかってくるかに見えた死人の群れはピタリと動きを止め、落ち窪んだうつろな目で私をじっと見た。
長い曲をなんとか弾き終えると、死人たちは顔を見合わせ、ぞろぞろと私のほうに向かってきた。私はその動きを止めようとまた琴を弾こうとした。すると、死人たちは懐から取り出した金貨を、ぽいぽいと私に放るではないか。私の前には金貨の山ができた。
これが天女の言っていた「良いこと」なのか。私は最初ゾンビどもが恐ろしかったが、大変な額の金を目にし、翌日以降もこの林に来て琴を弾こうと思った。

そして毎日ゾンビたちは地面から這い出してきて、私の音楽に聞きほれ、金貨を与えた。毎日同じような曲では飽きられるから、古典的な曲だけでなく、長渕剛やポルノグラフィティなども弾き語りした。いつもゾンビたちはふらふら頭をゆらして、音楽の調子を楽しんでいるようだった。頑張った甲斐あってか、毎日同じように金貨を受け取ることができた。
しかしある日のこと。「春の海」の佳境に入ったとき、琴糸が三四本いちどにぶつんと切れてしまった。曲は急に中断した。突然の沈黙に、死人たちは不思議そうに顔を見合わせた。そしてやおら手を前に突き出し、私のほうに近づいてくる。ゾンビの一人は、私の肩に噛み付こうとした。私は慌ててそれを払いのけ、琴の残った弦でなんとか音楽らしきものを奏でた。貧弱な音だったが、それで死人たちの動きは止まった。なんとか弾きつづけなければならない。なんとか……。しかし、私の苦境をあざ笑うかのように、琴の残りの糸が全部ぶつんと切れてしまったのだ。ふたたび動き出すゾンビ。
そのとき、私は懐に笛が入っているのを思い出した。何か困ったことがあれば吹くがよい、と天女は言った。よしこれだ、と思いそれを口にあてがい、思い切り吹いた。フーッ。音が出ない。フーッ。不良品か、これではどうしようもない! ゾンビどもが汚い顔を近づけ、私の二の腕や太腿にいっせいに噛み付こうとしたとき、懐に黒い小箱が入っているのに気がついた。天女は「本当に困ったとき開けなさい」と言った。これだ! 私は急いでその小箱をあけると、中に白い紙が一枚。そこには肉太の毛筆で「にんげんだもの」と書かれていた。
「こんな格言、こんなときに役に立つか!!」と叫びながら、私はゾンビに八つ裂きにされてしまった。


(c) 2009 ntr ,all rights reserved.

PR
この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:
[138]  [137]  [136]  [135]  [134]  [133]  [132]  [131]  [130]  [129]  [128
執筆陣
HN:
快文書作成ユニット(仮)
自己紹介:
 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


 ❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。

 ❖ 呂仁為 Ⅱ 〜 昭和の想い出話や親しみやすい時代物、歴史小説などについて書きます。

 ✿ 流火-rjuka- ~ 主に漢詩の創作、訳詩などを行っています。架空言語による詩も今後作りたいと思っています。

 ☃ ちゅうごくさるなし
主に小説を書きます。気が向けば弟のカヲスな物語や、独り言呟きなことを書くかもしれません。

 ♘ ED-209 〜 PNの由来は映画『ロボコップ』に登場するオムニ社の敵役ロボットからです。今まで書き溜めてあった自身の体験談やコラムを発表するには良い機会と思い寄稿させて頂きました。是非、御読みになってみてください。そして何より皆さんに楽しんで貰えれば嬉しいです。

 ☠ 杏仁ブルマ
セカイノハテから覗くモノ 



 我ら一同、只管に【快文書】を綴るのみ。お気に入りの本の頁をめくる感覚で、ゆるりとお楽しみ頂ければ僥倖に御座居ます。









 ※ 基本的に当ページはリンクフリーです。然し乍ら見易さ追求の為、相互には承っておりません。悪しからず御了承下さい。※







文書館内検索
バーコード
忍者ブログ [PR]