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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2024/03/28 (Thu) 23:46:47

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No.134
2009/11/11 (Wed) 22:01:07

八丈島。そこには流罪の者が大勢暮らす刑務所があった。
「ここの監獄の通風孔、もろいぜ。なにしろ爪切りでぼろぼろ崩れちまうんだ」
食堂で朝食をとりながら、流人・惨九郎(ざんくろう)は言った。流人仲間の喜三郎・幸四郎兄弟は難しい顔をして聞いていた。
「でもよ、ムショから逃げ出したとして、海はどうやって渡る?」
「レインコートを四着ばかりかっぱらって、接着剤でつなぎあわせてボートを作るんだ」
「トンネル掘ってるあいだに看守が見回りに来たらどうするんだよ」
「紙で張り子の頭を作るんだ。絵の具は簡単に手に入るし、幸四郎は理髪部だから、髪の毛が手に入るだろう。トンネルを掘ってるときは模型の頭をベッドのところに置いておけば、寝てるように見える」
「なるほど」

惨九郎は刑務所では音楽部に所属し、アコーディオンを担当していた。アコーディオンを独房の通風孔のところに置けば、トンネルを掘っているのを隠せる。
ある日、刑務所長が惨九郎の独房にやって来た。彼はアコーディオンを一瞥し
「上手くなったかね」
「全然」
「すぐ上手くなる。ここの刑務所の良いところは、時間が豊富にあるところだ」
刑務所長は惨九郎の部屋を出てから、看守の一人に言った。
「あいつには特に注意しろ。何かたくらんどる」
しかし、並外れて知能の高い惨九郎は、看守の眼をごまかし着々と脱走計画を進めたのだった。

脱走決行の夜。いつにも増して冷たい風が吹いていた。なんとか刑務所を抜け出した惨九郎ら三人は、必死でレインコートのボートを息で膨らまし、海にこぎ出した。ときおり、刑務所のサーチライトがすぐ近くを照らしたが、ここまで来れば見張りに見つかる心配はない。あとは海を無事渡れるかどうかだ。
「おい惨九郎、方向はこっちでいいのか」
「いいはずだ」
三人は氷のように冷たい海水を手でかきわけ、ばた足で進みつつ、一路日本本土をめざした。

幾日たったことだろう。飢えと渇きに苦しむ三人の目に、ようやく陸地が姿をあらわした。しかし、陸が近づくにつれ、三人は様子がおかしいのに気づかないわけにいかなかった。
そこは見慣れた日本ではないようだった。なにやら白い像が見える。だんだんと陸地に近づくと、それが大きく傾いた自由の女神像であることが判明した。土台が完全に崩れ、倒れかかっているのだ。あたりは人気のない廃墟。
「ちくしょう、なんだって人類は滅んじまったんだ! 人類のばっきゃろう!!」惨九郎は叫んだ。
「いやそれより、八丈島から舟で出発して、どうやってニューヨーク沿岸に着くんだ!」
「そんなことはどうでもいい! あれは敵らしいぞ」
見ると馬に乗ったゴリラの集団が、大挙してやってくるのが見えた。まもなく三人は人語を話すゴリラやオランウータンに捕まり、檻に入れられた。人間は下等動物とみなされ、三人はひどいしうちを受けた。
「こんどは猿たちからどうやって逃げ出すかだ」
抜け人・惨九郎の苦難はまだ始まったばかりだった。


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快文書作成ユニット(仮)
自己紹介:
 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


 ❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。

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