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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2024/04/20 (Sat) 06:07:25

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No.154
2009/12/09 (Wed) 17:44:56

一つ目のモンスターがいつものように阪急駅構内をモップで掃除していると、ま新しい小さな清掃車が、円形のモップを回転させながら近づいてきた。
「悪いがモンスター、掃除はすべて清掃車でやることになった。こちらのほうがキレイにかつ安く、構内を美化できるんだ」
「つまり俺はもう用なしということか」
「すまんが、その通りだ」
いたしかたない。モンスターは次の職場を探すことになった。売店で立ち読みした就職雑誌で、次のような記事を見つけた。
「北の大地の牧場で働きませんか? 牧場主も夢ではありません」
牧場か……そういえば、ごみごみした都会に飽き飽きしていたところだ。この街の悪党も、俺がおおかた片付けてしまったから、ここは自分がいなくてももう大丈夫だろう。
決断したモンスターはモップを片手に、北海道へ向かう列車に乗り込んだ。

「私が牧場主の勝山だ。遠いところをよく来てくれた……と労をねぎらいたいところだが、ここの仕事は厳しい。さっそく牛小屋を掃除してもらおう」
モンスターは黙々と働いた。家畜の匂いにもすぐに慣れた。
「おい新入り! そこが終ったら干し草を運んでもらおう」
「新入り! 馬の体を洗ってやるんだ!」
「新入り、まきを割れ」
その程度の仕事で弱音を吐くモンスターではなかったが、都会のような刺激に乏しい牧場での生活に、次第に飽きてこざるを得なかった。
干し草の上に横になって、千切れ雲を一つ、二つと数える。そういえば、阪急宝塚線で不良から救ったあの盲目の少女はどうしているだろうか。列車内の秩序は保たれるようになったから、もう危ない思いはしていないだろうが……。
「どうした新入り、まきを割る時間だぞ」
「わかったよ」
斧で、黙々とまきを割る。そこへ、黒と茶の大きな牛が二頭、さまよってきた。いきなり、黒いほうの牛がもう一頭の後ろからかぶさり、交尾し始めた。モンスターはイラッときた。
「お前ら人が働いてる横で何をおっぱじめるんだー!!」
モンスターは二頭の牛の接合部をチョップで切断した。牡牛はいきなり去勢されてショックで即死した。
「何をするんだ、新入り!」
「こいつら、人の気持ちが分かってないんすよ」
「お前こそ、牛の気持ちが分かっていない。それに牛たちが繁殖するおかげで牧場は富み栄え、雌からは乳が取れるんだ……今日はまき割りはもういい。乳搾りをして来い」
モンスターはイライラしながら牛小屋に向かった。いや、イラついていてはいけない。乳牛は、やさしく扱ってやらなくてはならない。モンスターは最近コツを覚えた乳搾りを始めた。バケツに、みるみる乳が溜まっていく。
「わあ、乳搾り、私もやりたーい」
見ると七歳ぐらいの女児が、好奇心に目を輝かせてモンスターの作業を見守っていた。ときどき、こういう牧場の見学者が来る。
「みゆきちゃん、お仕事の邪魔をしちゃ駄目よ」母親と思しき女が言った。
「いや、いいですよ。コツさえつかめれば子供でもできることです」モンスターはそう言って、女の子のために場所を譲った。見学者には愛想よく接するようにと、牧場主の勝山にふだんから言われている。
「だいじょうぶ? 牛さん暴れない?」女児が言った。
「大丈夫だよ」とモンスター。
女児は牝牛の乳首を握り、いきなり勢いよく引っ張った。そのため乳首からは牛乳ではなく鮮血が飛び出た。
「おまえ加減ってものを知らないのかー!!」モンスターは怒り心頭に達し、女児の頭をねじって百八十度回転させた。
「きゃーっ、みゆきちゃん!!」母親が叫ぶとモンスターは
「こちとら機嫌が悪いんだ、とっとと帰ってくれ!」
陰鬱な表情でモンスターは、再び乳搾りや、その他の雑用に戻った。
日がとっぷりと暮れ、モンスターが使用人の小屋に戻っていこうとすると、母屋で勝山が誰かと話をしているのが聞こえた。
「だから、ここなら絶対ばれませんし、牧場主さんにも損は決してさせませんよ」
「ふーん、大麻草ねえ」
「都会で栽培したらどうしても人目につくんです。それにこのごろでは麻薬もネット販売で、買い手も簡単に見つかる。牧場主さんには売り上げの五割を差し上げましょう」
「よし、試しにやってみるか」
ここでも悪事が行われているとは……モンスターは失望した。明日、勝山に問いただしてみよう。


(c) 2009 ntr ,all rights reserved.
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快文書作成ユニット(仮)
自己紹介:
 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


 ❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。

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