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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2024/04/26 (Fri) 08:47:42

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No.162
2009/12/13 (Sun) 21:18:06

自分が教えに行っている個人指導の塾では、ちょっと目を離すとすぐに携帯電話をいじる生徒が結構いる。とくに女子。
自分の授業に緊迫感がないのかな、とも思うが、彼女らは勉強そのものは熱心にやっている。
僕の話を興味深げに聞き、一所懸命に問題を解くのだが、ちょっと疲れたり手持ち無沙汰になるとメールを打ったりして、携帯の小窓に没入するのである。あれは普段から空気を吸うのと同じぐらい、日常に溶け込んだ行為になっているのだと思う。

何事も中毒というのは気持ちのいいものではないな、と思うが、あまり人のことは言えない。自分も自宅にいてちょっとでも暇があれば、mixiにログインして足あとをチェックしたりしているし。


「卵形の水晶球」というH・G・ウェルズの短編がある。
ある古ぼけた骨董屋のかたすみに、その卵形の水晶球は陳列されていた。店を訪れた者がそれを買いたいと言うと、年老いた店主は法外な高値を付けて決して売るまいとする。それでも客がその値で買おうと言うと、店主はなんだかんだ言い訳して追い返してしまう。店主の女房は怒り、なぜ売らないのか、今度あの客が来たら何が何でも買ってもらうと主張したが、どうしても手放したくない店主は、秘かに懇意にしている大学の講師のところに水晶球をあずけることにした。

彼がその水晶球を大切にしていたのは、その球にある角度から光線を当てると、中に不思議なものが見えるからだった。
水晶球の中に見えるのはどうも異国の風景のようで、野原が広がっており鳥のようなものが飛んでいて、建物も見える。大きな運河が見え、その岸には奇妙な苔や樹木が生えている。あまりに不思議な風景が見えるため、それを観察するのに病み付きになった店主は、日常の仕事が手につかなくなり、暇さえあればそれを覗き込んでいたのだった。
水晶球をあずけられた若い大学の講師は大いに興味を持ち、店主とともに球の中の光景をさらに細かく観察し、精密に研究することにした。

まず風景の中でたくさん飛び回っていた鳥のようなものだが、よく観るとどうも天使のような姿の生物らしい。人間のような頭をしていて、羽毛のないつるつるした翼を持ち、口の下から長細い触手のような器官が二つのびている。その世界に並んでいる建物も、どうやらその翼を持った生物が建設したように思われる。その建物は人間の住居とよく似ているが、ただドアが一つもなく、円い天窓が開いているだけだった。翼を持った生物はその天窓から建物に出入りしているのだった。生物はそれ以外にも、巨大な甲虫のようなものやトンボに似たものも多く見られたが、それらは下等動物らしい。

建物の並んでいる手前に段丘があり、その中腹には幾つもの高い柱が並んでいる。はじめはボンヤリしていて見えなかったが、よく観察するとどの柱の頂にも、二人がいま手にしている卵形の水晶球とそっくり同じものが載っているではないか。そして例の有翼人たちは、ときどき柱の頂上のところへ飛んでいき、そこの水晶球を覗き込んでいる。
一度、その有翼人の一人が飛んできて、顔を近づけてまじまじとこちらを覗き込んできたものだから、観察していた二人は大いに驚いた。
そのことから察するに、いま二人が手にしている水晶球は、あのずらりと並んだ柱のうちの一本の上に載っているものなのだろう……そう解釈された。
さらに仔細に水晶球の中の風景、とくに空を観察すると、北斗七星やすばるなど地球から見えるのと全く同じ星が見られた。
そのことから水晶球の世界は太陽系のどこかだと思われ、さらに太陽が小さく見えること、小さな月が二つあることから、そこは火星であろうと推測された。
そして何故かは分からないが、翼を持った火星人たちは各々の柱の上の水晶球を覗き込んで、地球の様子を観察しているらしい……。


どうも奇想天外な話で、骨董屋の店主が心を奪われるのも無理はないような気がする。
僕は携帯電話を夢中になって覗き込んでいる人を見ると、なんとなくこの小説を思い出すのである。

ネットというのも、PCの画面の向こうに広大な未知の世界が広がっているようで、抗しがたい魅力があるのだな。
PCの向こうには、上記の小説のごとく、地球外生命もいるのかもしれない。

宇宙人とは言わないまでも、たとえば「リアルで付き合いのある人以外とは交流しない」というmixi参加者は、顔の見えない相手を非常に得体の知れないものとイメージしているのかもしれない。
僕などは顔を知らない相手ともどんどん絡んでいるから、そういう考えの人の感覚はいまいちよく分からないのだけど。

とはいえ自分も人に信頼してもらおうと結構エネルギーを費やして言葉をつづっているつもりだから、すくなくとも「人間」としては認めてもらいたい、とは思っているのだが。


(c) 2009 ntr ,all rights reserved.
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快文書作成ユニット(仮)
自己紹介:
 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


 ❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。

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