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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2024/04/20 (Sat) 21:22:52

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No.163
2009/12/13 (Sun) 21:21:38

カニが島を行く

というのはA・ドニエプロフという旧ソ連の作家による短編小説。誰かの書いた小説の筋を紹介して記事を水増しするのは、前回同様で少し気が引けるが、現在絶版になっている本に載っていてちょっと面白味も感じるから書いてみようかと。

「技術官」と「中尉」と呼ばれる二人の男が、軍のためのある実験をしに小さな無人島に派遣される。その実験を思いつき、機材の準備を整えたのはこの技術官で、中尉のほうは何も知らされていなかった。
十個の重い箱が持ち込まれ、一つ目の箱には工具やテントや食料。二号箱から九号箱までを開けてみると、そこには板状や棒状のインゴット(金属の素材)がぎっしり詰まっていた。鉄、銅、亜鉛のインゴットで、技術官の指示のもと、二人はそれらを島の各所に積み上げたり埋めたりした。その後十番目の箱を開けると、カニの形をした金属性のおもちゃのような物が出てきた。三キログラムぐらいの小さな物で、六本の足、五対のハサミ、二対の触手を持ち、前後には眼があって、背中には小さな放物面反射鏡。砂浜に置かれたそれはじっとしていたが、人の影に入るとササと動いて、また日なたで温まっている。ときどき波打ち際に行って水を飲む。陽が傾くとそのカニは太陽光線を求めて西へ西へと移動。着いた場所の近くにはインゴットの山が一つあった。

翌日二人が観に行くと、なんとカニのロボットは二匹に増えていた。二匹はせわしなく動いていて、触手をインゴットの表面に当てると火花が散り、みるみる金属が切断されていき、その破片をせっせと口の中に放り込んでいた。カニの内部からはブンブンという音がしていて、ほどなく口から機械の部品が幾つも吐き出される。部品は口の下からせり出した工作台の上で素早く組み立てられていき、みるみるうちに自分と同じ形の金属製のカニが出来上がっていった。新たに生まれたカニは砂浜に降り立ち、やはり日光を受けてじっとしたり、水を飲みに行ったりした。驚いた中尉から説明を求められ、技術官が説明して言うには、この機械のカニは自分と同じ機械を作り出すことを唯一の使命としており、背中の反射鏡の奥にある太陽電池でエネルギーを集め、水を飲むことで蓄電池を機能させる。これは軍事目的に役に立つ。敵国の領土にこのカニを放せば、兵器をはじめ金属製の物なら何でも食い荒らして自己複製を続け、ついには敵国の金属物資を全て食い尽くすだろう。味方の領土内にカニが入ってきたら信号を送って機能をストップできるようにすればよい……。

金属製のカニは昼も夜も働いて増殖を続け、ついには島の全てのインゴットを食い尽くした。島中にあふれかえったカニは、次には共食いを始めた。観ていると、動きが他よりすばしこく力強いカニもいて、各々に実力差がある。強いカニは仲間を次々に倒しては相手の体を切り刻み、その金属部品を体内に取り込んで、倦むことなく複製のカニを作っていく。彼らが自分と同じ物を作っているにも関わらず個体差が生まれてくるのは、どんなに精密な機器でも完全に同じ二つの部品を作ることは出来ず、必然的に微妙な誤差が生まれてくるということによる。そしてこの生存競争では、たまたま優れた性能を持ったカニが生き残り、子孫を産んでいくはずだ。つまりは人間が図面を見て改良を重ねなくとも、放って置けばより優れた自動機械カニが生まれてくる……そう技術官は予想していた。

ぱちぱちさらさらと音を立てる火花放電で互いの体を切り刻みあう大戦争を繰り返すうち、ずんぐりとした特別に大きなカニがちらほら生まれてきて、他の小さな金属カニを掃討しだした。その大きなカニはさらに巨大なカニを生んでいった。それらは力強いが動きは鈍く、どうも軍事的観点からは役に立ちそうもない。金属のありかを鋭敏に探知できるカニたちは、やがて二人の食料の缶詰をもズタズタにしてしまう。最後は人間より大きな巨大ガニが、銀歯をはめていた技術官を追い回し、頭から食ってしまう。



読んでいて思ったが、原水爆も恐ろしいけれど、仮にこんな金属カニが実際にいたら、グロテスクさの点でもさらに恐ろしい「最終兵器」になるのではないだろうか。
しかし不気味ではあるけれど、この島でのような実験が本当にやれたらある意味面白そうだ。普通の実験では確かめられないダーウィンの進化論をある程度検証できるのかもしれないし、カニたちの共食いを見ていたら「人間はとどのつまり、何のために戦争をするのだろう?」といった考えを深められるのかも知れない。





有向ミクシィ

(以下、毒にも薬にもならぬ長い妄想話。)

上の小説を読んでいてふと思ったことだが、ミクシィに次のようにして競争原理を持ち込んだらどうなるのだろう。
ミクシィでは、AさんとBさんがマイミク同士のとき

Aさん ― Bさん

というように、どちらが優位でもない関係が結ばれている。これを

Aさん → Bさん

のように、Bさんの方が優位に立つようなマイミク関係にする。Bさんを「親マイミク」、Aさんを「子マイミク」と呼ぶことにする。で、次のような規約を設ける。

1.誰でも一人の親マイミクを持たなくてはならない。
2.子マイミクは何人でも持てるが、親マイミクは一人しか持てない。
3.誰かをミクシィに招待した場合、招待したほうが親マイミクになる。

「子 → 親」と向きの付いたマイミク関係だから、仮にこの世界を「有向ミクシィ」と名付けよう。
有向ミクシィでは、マイミク申請もこれまでとは違ったスリリングなものになるだろう。今まではただ「マイミクになりませんか?」というだけで済んでいたのが、子マイミク・親マイミクのどちらになってもらうのか選ばなくてはならない。
「親マイミクになってもらえませんか?」という場合、従来の自分の親マイミクとの縁を切らなくてはならないから、「自分の今までの親よりあなたの方が好きなんです」という切実なメッセージが込められることになる。
「子マイミクになってもらえませんか?」という場合、相手に従来の親マイミクと縁を切ってもらうようお願いするのだから、厚かましい申し出になる。この申請が通れば、今までの相手の親から彼(彼女)を「略奪」する形になる。

親マイミクは一人しか選べないから、子マイミクを増やすべく皆が奮闘することになる。より面白い日記を書いて皆の気を引こうとする者が増えるだろう。目立つための自己アピールが激化し、さまざまな迷惑メッセージが急増するかもしれない。
これまでひっそりと、マイミク少なめで満足していた人も、ある朝ログインしてみたら自分の子マイミクがゴッソリ誰かに引き抜かれているといった事もあり、心中穏やかでなくなるに違いない。

かくして面白い日記を書き、子マイミクへの気遣いも行き届いたマメな人物が、親マイミクとして「子分」を増やしていくことになる。
「親分、うちのページに荒らしが来ました!」と子マイミクから報告を受ければ飛んでいって、「うちの子分に何してくれてる、おう?」と凄むなどして荒らしを追い払う。子マイミクの人生相談にも親身になって乗ってやる。
面倒見が悪いと他の親の所に逃げられるかもしれないからだ。

子マイミクが一万人もいる「大親分」が何人か出現するようになったら、子マイミクの統制の仕方にも個性が現れて面白いかもしれない。
新興宗教の教祖のように独自の教理で子マイミクを洗脳する者、恐怖政治を布く者、セクシー路線で子マイミクを悩殺し続ける者など、色々だろう。

好きな親が既にいるのに、気になる人物から「子マイミクになって欲しい」と申請を受け、懊悩する人々が増える。
「ああ立派な親がいる身でありながら、他の方に心奪われるなんて! こんなとき体が二つあったらどんなにかいいだろう……え、体が二つ? そうだアカウントを二つ持てばいいんだ!」
と、マルチアカウントの者が急増する。それが親マイミクにばれると、
「おのれ浮気をしておったか!」
と折檻されるわけだ。といってもネット上だから、主に「言葉責め」だが。

こんなSNS、流行らないかもしれないな。日頃の煩わしい上下関係や、他人との競争を忘れられるのもミクシィの良いところだろうし。

もし「有向ミクシィ」なんて流行ったら、参加者のハマり方は尋常ではなくなるだろう。面白いけどやっぱり「やりすぎ」かも知れない。


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執筆陣
HN:
快文書作成ユニット(仮)
自己紹介:
 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


 ❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。

 ❖ 呂仁為 Ⅱ 〜 昭和の想い出話や親しみやすい時代物、歴史小説などについて書きます。

 ✿ 流火-rjuka- ~ 主に漢詩の創作、訳詩などを行っています。架空言語による詩も今後作りたいと思っています。

 ☃ ちゅうごくさるなし
主に小説を書きます。気が向けば弟のカヲスな物語や、独り言呟きなことを書くかもしれません。

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