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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2017/10/17 (Tue) 16:31:24

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No.310
2010/05/29 (Sat) 20:37:32

一つ目のモンスターは、かつて勤務していた阪急電車に復職し、掃除夫兼「副車掌」として列車に乗り込むことになった。ある日の夕方五時ごろ。
京都線の梅田行き特急の最後尾の車両は、携帯電話電源オフ車両だったが、いつに変わらず携帯電話をいじっている男女が大勢いた。モンスターは規律を重んじる性格だったから、こういう光景を見ると黙ってはおれない。
「携帯電話電源オフ車両ですよ」と、一人ひとりに声をかけて回った。
そのとき「うぎゃあ!」という男性の悲鳴が聞こえてきた。モンスターが駆けつけると、白髪の初老の男が頭を抱えて苦痛に顔をゆがめていた。
「どうしたんだ、おじさん」
「俺は、脳に特殊なホルモン調節装置を埋め込んでいるのだが、携帯電話の電波でその動作が狂うのだ。苦しい! 助けてくれ!」
モンスターは慌てて、車両内で携帯をいじっている者たちに電源を切らせて回り、言うことを聞かないものに対してはその携帯電話を破壊した。
「まだ頭が痛む! なんとかしてくれ!」先ほどの男は叫んだ。モンスターが再び駆け寄ると、男は先ほどより二十は年を取った老人になっていた。しかも見る間に老化は進み、頬はどんどんやせこけていき、髪の毛は抜け落ち、歯もぼろぼろと抜けていった。
「しっかりしろ、爺さん!」
「俺は爺さんじゃねえ。まだ十七歳なんだよ」見ると彼はなるほど学生服を着ており、高校名の入ったバッグを持っていた。
「すると十七歳からいっきにここまで老け込んだのか?」モンスターの問いかけにも老人は答えることが出来なかった。瞳が曇り、ぶくぶくと泡を吹いてこときれてしまったのだ。
モンスターは呆気に取られていたが、やがて憤怒の表情を浮かべ「おい! おい!」と車内に鳴り響く声で叫んだ。「貴様らが携帯電話電源オフという規則を守らなかったから、ひと一人が死んだんだぞ! 見ればいい大人もルールを守っていない! 貴様らは他人の迷惑も考えられない腐れ外道だ!」
モンスターは怒りに震えながら、のっしのっしと次の車両に歩いていった。

次の車両に移ると、優先座席に若者たちが座り、やはり携帯電話をいじっている。優先座席付近はやはり電源オフが原則である。モンスターは先ほどの怒りもあって
「おい貴様ら! 優先座席では電源を切れ!」と怒鳴った。
皆がぽかんとしているとモンスターは再び、「電源を切れと言ってるんだ!」とがなりたてた。そのときである。
「うっ、ペースメーカーが!」と一人の若い男性が叫んで胸を押さえた。
「ペースメーカーが狂ったのか?」モンスターは叫んで、周囲の乗客の携帯電話を片っ端から破壊した。しかしペースメーカーの男性はまだ苦しそうにうめいている。
「心臓が、心臓が止まる! 助けてくれ!」
それにもかかわらず一人、大声で通話している者がいて、モンスターはこれを見て激怒した。
「貴様には心臓はいらん!」と言ってモンスターはその男の胸に勢いよく腕を突っ込み、心臓をつかみ出した。血がぼたぼたとしたたり、どくどくと脈打つ心臓がモンスターの手の中にあった。
「お客さんの中に医者はいないか? 心臓ペースメーカーの患者が苦しんでるんだ」
一人の男が名乗りを上げた。その医師は「ここでは応急処置しか出来んぞ」と言いながら、ペースメーカーの男の処置を始めた。モンスターは「良かったらこれを移植してくれ」と言ってえぐり出されたばかりの心臓を差し出した。医師はそれを見て卒倒しかけたが、なんとか「いや、それには及ばん」と言って首を振った。

今日いちにちで、携帯電話のために二人の命が失われかけた! モンスターは怒りに顔を赤黒くして次の車両に赴いた。
そしてそこにも、携帯をいじっている大勢の老若男女がいた。モンスターは怒り心頭に達し、腰に吊ったライフルを抜いて、携帯を手にしている乗客の頭を片っ端から撃ち抜いていった。モンスターは数々の犯罪解決の功績のため、銃の所持を認められていたのである。頭を吹き飛ばされ、朱色の脳漿を飛び散らせる乗客たち。窓も片端からこなごなに割れ、車内は阿鼻叫喚の惨状を呈した。
「そこまでだ、おっさん」若い男の声がして、モンスターは後頭部に銃口が押し付けられるのを感じた。「冷静になんな」
「誰だお前は?」
「ケチなスリさ。今日の仕事はもう済んだが、この乗客たちは俺のお得意さんたちでもあるんでね。そうむやみに殺されては黙っちゃいられねえ。ライフルを捨てな」
モンスターがライフルを捨てると、全身黒ずくめのスーツを着たスリと名乗った男は、高らかな笑い声とともに次の駅で降りていった。
モンスターは新たなライバルの出現を感じていた。近いうちに、あのスリとはまた出会う気がする。モンスターは列車を降り、今日の行き過ぎた行動に対する始末書を書きながらも、そのスリのことを思い浮かべていた。


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快文書作成ユニット(仮)
自己紹介:
 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


 ❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。

 ❖ 呂仁為 Ⅱ 〜 昭和の想い出話や親しみやすい時代物、歴史小説などについて書きます。

 ✿ 流火-rjuka- ~ 主に漢詩の創作、訳詩などを行っています。架空言語による詩も今後作りたいと思っています。

 ☃ ちゅうごくさるなし
主に小説を書きます。気が向けば弟のカヲスな物語や、独り言呟きなことを書くかもしれません。

 ♘ ED-209 〜 PNの由来は映画『ロボコップ』に登場するオムニ社の敵役ロボットからです。今まで書き溜めてあった自身の体験談やコラムを発表するには良い機会と思い寄稿させて頂きました。是非、御読みになってみてください。そして何より皆さんに楽しんで貰えれば嬉しいです。

 ☠ 杏仁ブルマ
セカイノハテから覗くモノ 



 我ら一同、只管に【快文書】を綴るのみ。お気に入りの本の頁をめくる感覚で、ゆるりとお楽しみ頂ければ僥倖に御座居ます。









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