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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2024/04/27 (Sat) 10:55:11

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No.310
2010/05/29 (Sat) 20:37:32

一つ目のモンスターは、かつて勤務していた阪急電車に復職し、掃除夫兼「副車掌」として列車に乗り込むことになった。ある日の夕方五時ごろ。
京都線の梅田行き特急の最後尾の車両は、携帯電話電源オフ車両だったが、いつに変わらず携帯電話をいじっている男女が大勢いた。モンスターは規律を重んじる性格だったから、こういう光景を見ると黙ってはおれない。
「携帯電話電源オフ車両ですよ」と、一人ひとりに声をかけて回った。
そのとき「うぎゃあ!」という男性の悲鳴が聞こえてきた。モンスターが駆けつけると、白髪の初老の男が頭を抱えて苦痛に顔をゆがめていた。
「どうしたんだ、おじさん」
「俺は、脳に特殊なホルモン調節装置を埋め込んでいるのだが、携帯電話の電波でその動作が狂うのだ。苦しい! 助けてくれ!」
モンスターは慌てて、車両内で携帯をいじっている者たちに電源を切らせて回り、言うことを聞かないものに対してはその携帯電話を破壊した。
「まだ頭が痛む! なんとかしてくれ!」先ほどの男は叫んだ。モンスターが再び駆け寄ると、男は先ほどより二十は年を取った老人になっていた。しかも見る間に老化は進み、頬はどんどんやせこけていき、髪の毛は抜け落ち、歯もぼろぼろと抜けていった。
「しっかりしろ、爺さん!」
「俺は爺さんじゃねえ。まだ十七歳なんだよ」見ると彼はなるほど学生服を着ており、高校名の入ったバッグを持っていた。
「すると十七歳からいっきにここまで老け込んだのか?」モンスターの問いかけにも老人は答えることが出来なかった。瞳が曇り、ぶくぶくと泡を吹いてこときれてしまったのだ。
モンスターは呆気に取られていたが、やがて憤怒の表情を浮かべ「おい! おい!」と車内に鳴り響く声で叫んだ。「貴様らが携帯電話電源オフという規則を守らなかったから、ひと一人が死んだんだぞ! 見ればいい大人もルールを守っていない! 貴様らは他人の迷惑も考えられない腐れ外道だ!」
モンスターは怒りに震えながら、のっしのっしと次の車両に歩いていった。

次の車両に移ると、優先座席に若者たちが座り、やはり携帯電話をいじっている。優先座席付近はやはり電源オフが原則である。モンスターは先ほどの怒りもあって
「おい貴様ら! 優先座席では電源を切れ!」と怒鳴った。
皆がぽかんとしているとモンスターは再び、「電源を切れと言ってるんだ!」とがなりたてた。そのときである。
「うっ、ペースメーカーが!」と一人の若い男性が叫んで胸を押さえた。
「ペースメーカーが狂ったのか?」モンスターは叫んで、周囲の乗客の携帯電話を片っ端から破壊した。しかしペースメーカーの男性はまだ苦しそうにうめいている。
「心臓が、心臓が止まる! 助けてくれ!」
それにもかかわらず一人、大声で通話している者がいて、モンスターはこれを見て激怒した。
「貴様には心臓はいらん!」と言ってモンスターはその男の胸に勢いよく腕を突っ込み、心臓をつかみ出した。血がぼたぼたとしたたり、どくどくと脈打つ心臓がモンスターの手の中にあった。
「お客さんの中に医者はいないか? 心臓ペースメーカーの患者が苦しんでるんだ」
一人の男が名乗りを上げた。その医師は「ここでは応急処置しか出来んぞ」と言いながら、ペースメーカーの男の処置を始めた。モンスターは「良かったらこれを移植してくれ」と言ってえぐり出されたばかりの心臓を差し出した。医師はそれを見て卒倒しかけたが、なんとか「いや、それには及ばん」と言って首を振った。

今日いちにちで、携帯電話のために二人の命が失われかけた! モンスターは怒りに顔を赤黒くして次の車両に赴いた。
そしてそこにも、携帯をいじっている大勢の老若男女がいた。モンスターは怒り心頭に達し、腰に吊ったライフルを抜いて、携帯を手にしている乗客の頭を片っ端から撃ち抜いていった。モンスターは数々の犯罪解決の功績のため、銃の所持を認められていたのである。頭を吹き飛ばされ、朱色の脳漿を飛び散らせる乗客たち。窓も片端からこなごなに割れ、車内は阿鼻叫喚の惨状を呈した。
「そこまでだ、おっさん」若い男の声がして、モンスターは後頭部に銃口が押し付けられるのを感じた。「冷静になんな」
「誰だお前は?」
「ケチなスリさ。今日の仕事はもう済んだが、この乗客たちは俺のお得意さんたちでもあるんでね。そうむやみに殺されては黙っちゃいられねえ。ライフルを捨てな」
モンスターがライフルを捨てると、全身黒ずくめのスーツを着たスリと名乗った男は、高らかな笑い声とともに次の駅で降りていった。
モンスターは新たなライバルの出現を感じていた。近いうちに、あのスリとはまた出会う気がする。モンスターは列車を降り、今日の行き過ぎた行動に対する始末書を書きながらも、そのスリのことを思い浮かべていた。


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快文書作成ユニット(仮)
自己紹介:
 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


 ❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。

 ❖ 呂仁為 Ⅱ 〜 昭和の想い出話や親しみやすい時代物、歴史小説などについて書きます。

 ✿ 流火-rjuka- ~ 主に漢詩の創作、訳詩などを行っています。架空言語による詩も今後作りたいと思っています。

 ☃ ちゅうごくさるなし
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