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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2024/04/20 (Sat) 13:47:18

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No.297
2010/05/15 (Sat) 09:14:40

モンスターは熊谷谷谷(くまがや・やつや)の弟子となり、ゾンビ狩りの手ほどきを受けることになった。熊谷の猛特訓で体中あざだらけになったモンスターは一人、伝授された技を磨くべく、古びた小屋で隙間風に吹かれながら座り込み、庖丁を片手に枯葉を目で追っていた。
「モンスター、今まで不死身だったからといって自惚れるなよ。お前なんか、早い話俺の手にかかれば、新聞紙一枚あれば簡単にあの世に送れるんだからな」モンスターは格闘技の特訓でこってりしぼられ、ダウンして天井を見上げながら熊谷のそんなセリフを何度となく聞いた。訓練を始めて一ヵ月が過ぎ、いまモンスターは眼光鋭く今までにない精悍な顔立ちになって、ちらちらと動く木の葉を見つめている。
シュタッ。庖丁が木の葉を射止めて床に突き刺さる。シュタッ、シュタッ。モンスターは何度もその訓練を繰り返す。
「モンスター、粥が出来たぜ」うどん屋の権爺(ごんじい)が小屋に入ってきた。権爺はすっかりモンスターと打ち解け、身の回りの世話を焼いてくれる。
「権爺、お師匠さんは見なかったか?」モンスターは尋ねた。
「熊谷さんかい。今朝ふらりと出て行ったぜ。こんな書置きを残してな」
書置きを見るとこんなことが書かれてあった。「モンスターよ、お前に教えることはもう何もない。わしは再び大空を天井とし大地をねぐらとする生活に戻るとしよう。ぞんぶんにゾンビと戦うがよい」
「お師匠さん!」モンスターは感に堪えず一つ目から涙をこぼしながら、あてどもなく走った。何度も転び、なおも走った。自分でもどこに向かっているのか皆目分からない。薄闇の中、朝日が昇り、モンスターの茶色い顔を照らした。俺はこれからどうすればいいんだ……モンスターは途方に暮れた。

そのとき、熊沢病院と丑寅病院の間の道路には、青白い顔をした数百のゾンビがぞろぞろとうごめいていた。ゾンビたちは毎日増えてくる。今までは安全だった権爺のうどん屋にも、窓からゾンビたちが侵入してこようとしてきた。
「この権爺、昔は爆弾屋として朝鮮で鳴らしたもんだ。最後の一花、咲かしてくれる!」権爺がもろ肌脱ぐと、その胴や胸には無数のダイナマイトが縛り付けられ、導火線は一斉に火を吹いていた。「うはははは、この宿場はこの権爺とともに滅ぶのよ!」彼がそう叫ぶと、宿場全体が一瞬白く輝いた。

モンスターは背後で轟音が鳴り響いたのに気付き、はっとして振り向いた。宿場からキノコ雲が上がっているではないか。そう、ゾンビたち……俺の戦うべき相手、俺の宿敵どもはどうなったのだろう? モンスターが呆然としていると、宿場のほうから足を引きずりながら、痩せた男がゆっくりと歩いてきた。手には拳銃を持っている。熊沢の卯之介だ。
「おい、モンスター! よくも俺たちをコケにしてくれたな! もう宿場はくろこげで熊沢も丑寅もゾンビも何もありゃしねぇ。だが大金を巻き上げ何も仕事をせずずらかろうとするお前を、俺は許しちゃおけねえ。最後の勝負だ!」
「……どうしてもやるのか。やればどっちか死ぬだけだ。つまらねえぜ」
「やる! やらなきゃ俺の気がすまねえ」
「そうか。じゃ、やろう」
二人が至近距離で沈黙し向かい合っていると、遠くから若い男の声が聞こえてきた。
「モンスターさーん。そこにいらっしゃいますかーっ? IR鉄道のものです! あなたの解雇は取り消しになりました! IRの鉄道員に戻っていただきたいのです!」
突然の朗報だったが、モンスターは「そこで待ってろ! こいつとの勝負が先だ」と決然と言った。
再び沈黙。重苦しい空気が二人の間に流れた。
卯之介が拳銃を抜く。と同時にモンスターの短刀が光り、卯之介の腕を切り捨てた。次いで繰り出されたモンスターの一突きが卯之介の心臓を切り裂き、驚くほどの血しぶきが吹き出た。卯之介の拳銃を持った腕は宙を舞い、空しく弾丸を発射した。
IRの若手社員は茫然としてこの決闘を見つめていた。平凡な鉄道会社の社員がこのような光景を目の当たりにすることはまずあるまい。
モンスターは刀を納め、さっさと立ち去っていく。
「モンスターさん……」IRの若者は何か言葉をかけようとしたが、モンスターは
「てめえは首でもくくりな!」と訳の分からないことを叫んだ。
長めの棒を拾い、宙に放り投げる。さて次に行くべき道は、東か西か。
モンスターは、やはり天性の風来坊だったのだ。


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快文書作成ユニット(仮)
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 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


 ❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。

 ❖ 呂仁為 Ⅱ 〜 昭和の想い出話や親しみやすい時代物、歴史小説などについて書きます。

 ✿ 流火-rjuka- ~ 主に漢詩の創作、訳詩などを行っています。架空言語による詩も今後作りたいと思っています。

 ☃ ちゅうごくさるなし
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