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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2024/04/26 (Fri) 04:15:33

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No.614
2012/12/11 (Tue) 01:47:48

 中国前漢の時代の李廣という武人は、弓術に長けていたけれども、猟に出たとき草むらの中の石を見て虎と間違え、夢中で矢を放った。するとそこにあったのは石で、矢は羽が隠れるほどに深く刺さっていた。後日彼は、石に向かって何度も弓を射てみたけれども、ついに矢は石に刺さることはなかったという。

 人間本気になれば思わぬ力を発揮することがあるが、さてその本気は本当の窮地におちいらなければそう出るものではないという、この種の話はよくあるけれども、しかしフランスのジェラール・フィリップという俳優にこういう逸話がある。彼はある映画で馬を乗りこなさなければならなかった。しかしそれまで馬に乗ったことはなく、乗馬の練習をする時間もない。馬は通常、乗馬の経験のない者が乗ってもなかなか言うことをきかないが、フィリップは徹底的に役作りし、内面も外見も馬術に巧みな剣士になりきった。すると撮影時には見事な手綱さばきで馬を乗りこなすことができたという。

 また昭和初期に佐藤垢石という文士がいて、文才はさほどではなかったようだが、無銭飲食の達人だったと聞く。何しろ身なりがこざっぱりしていて品があり態度が鷹揚で、どこから見ても大金持ちにしか見えない。浴衣姿、手ぶらで旅館などに入っていくと、応対に出た者もその外見にだまされ、どうぞどうぞと奥へ通し大層にもてなす。財布も持っていないが、それがかえって通の遊び人を思わせ、あとで使いの者がお金を持ってくるのだろう、ここは大いに遊んでもらい今後も贔屓にしてもらおうと旅館のほうもこまごまと気を遣う。そして何日も逗留し、芸者を呼んで山海の珍味がふるまわれる毎日が続くが、いつまでたってもこの客から金銭の話が出てこないから、旅館の番頭もだんだん不安になってくる。思い切って客の身分を問いただすと、実はまったくの一文無しだという。しかしこの文士は、自分が金を持っているなどとは初めからひとことも言っていない。勝手に勘違いした旅館のほうは、もう参りました、どうぞお引取り下さいと言うほかない。この佐藤垢石という人も、あたかも役者のように、日ごろから金持ちの役作りに余念がなかったのだろう。

 こういう例をみていると、役作りやイメージトレーニングで人生かなりどうにでもなるような気もしてくる。「私は大金持ちだ」「俺は非常にモテる」「わたしは頭が切れる」などと強く念じ、自分でそれを信じてしまうぐらいになってくると、じっさい望んだようにものごとが開けてくることもあるやも知れぬ。
 しかしそうしたイメージトレーニングの中には無謀なものもきっとあって、無茶な考えで頭をいっぱいにしている人も世には多いだろう。思うに全国でこれまで飛び降り自殺した人たちの中には「自分は空を飛べると思った」という人が、大人も含めて相当数いるのではなかろうか。


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快文書作成ユニット(仮)
自己紹介:
 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


 ❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。

 ❖ 呂仁為 Ⅱ 〜 昭和の想い出話や親しみやすい時代物、歴史小説などについて書きます。

 ✿ 流火-rjuka- ~ 主に漢詩の創作、訳詩などを行っています。架空言語による詩も今後作りたいと思っています。

 ☃ ちゅうごくさるなし
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