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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
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No.637
2013/05/02 (Thu) 18:05:44

                            

  春秋左氏伝に呉の王の言葉として「溺るる人は必ず笑う」というのがあると知り、そんな馬鹿なと思い原本を見てみたら註に「水に溺るる者口を張りて笑う状をなすという諺あり」とあった。なるほど必死で息を吸おうとする口の形が笑っているように見えることがある、ということか。しかしこれが事実だとすると本当に溺れかかっている人がへらへら笑いながらふざけているように見える可能性があるということで、通りがかった船の上の人も同調してげらげら笑いながら溺れている人を櫂で引っぱたいたり棒でつつきまわしたりしていっこうに助けない、ということもあるかも知れない。とくにシンクロナイズド・スイミングの選手は水面で笑顔を作る癖があるだろうから、例えば海水浴で沖を泳いでいるときに溺死した亡者が海中から足を引っ張ってくるような際には注意が必要だろう。化粧をばっちりして笑顔で海に沈んでいったら、誰しもシンクロの技だと思うに違いない。

 女性はいつでも笑顔でいて欲しいと多くの人は思うが、それも時と場合によるのである。だからときには鏡を見て死ぬほど苦しい顔の練習もすべきかも知れない。そしてもちろん、嫌な人間をきっぱりと遠ざける毅然とした態度を表に出せることも大事だ。イルカという動物にはそれが出来ない。何しろ人間が好きで好きでしかたがなく、人の乗った船が通りかかるともう嬉しくてどこまでもついてくる。むかしイルカが食用にされた時代には、そうしたイルカの習性を利用して、沖からイルカを撫でたりしながら浅瀬まで連れてきて、砂浜近くまで来たところを皆でよってたかって棒でぶち殺したのだ。愛想が良すぎてひどい目にあいがちな、いわゆる男にとって「都合の良い」芸者をイルカ芸者とも言ったらしい。

 むかし子供向けのテレビ番組に「ママと遊ぼうピンポンパン」というのがあり、進行役のお姉さんを支えるキャラクターとしてカッパのカータンというのが出てきた。写真のように愛らしく笑顔の親しみやすいキャラクターである。視聴者参加型の番組で毎回多くの子供たちが母親といっしょに出てくるが、中にはやんちゃな子もいて、カータンを殴ったり蹴ったりする。
 聞くところによるとカータンの着ぐるみにはいつも同じ人物が入っていたわけではなく、ある代のお姉さんのころによく入っていた人物は番組中彼女のお尻を執拗に触ってくる品の悪い男で「エロガッパ」と陰口を叩かれたらしいが、それはともかくカータンには似つかわしからぬ子供嫌いの人物が入っていることもあって、そういうとき子供がカータンを殴ったり蹴ったりするとある種の問題が発生する。そのカータンは子供をカメラに映らない物影に連れて行って、その大きな重い頭で頭突きを浴びせるのである。とうぜん子供は泣きながら母親にこのことを報告する。しかしカータンの顔というのはとても子供に暴力を振るうようには見えない愛くるしいものであって、母親は子供の言うことを本気にしない。逆に気の弱い男がカータンに入っている場合は子供に好き放題に小突き回されてしまうが、しかしやはりカータンの顔は幸福そのものといった笑顔であって、とても不幸な目にあっているようには見えない。この場合はその可愛らしい顔が中の人物に不利に働くのである。
 カータンの顔はそのように幸福のシンボルそのものといってもいいほどで、それが逆に見るものに「実は残酷なカッパだったら」「実は好色なカッパだったら」という空想をたくましくさせるところがある。ある漫画ではカータンの着ぐるみを着た男がチンポだけ出して女と激しくセックスする場面があったらしく、自分はそれを見ていないけれどもさぞ抱腹絶倒ものだったろう。

 チャップリンの映画の一場面で、兵士に扮したチャップリンが手榴弾を投げようとしたらそれが袖の中に入ってしまい取れなくなる、というシーンがあって、現実にそういうことがあったら生きるか死ぬかの重大事だが、しかしだからこそチャップリンの慌てぶりが可笑しくてしかたがない。
 また作家の筒井康隆があるとき自宅で鍋焼きうどんを作って、さあ食べようというのでレンジから食卓に運ぶ途中、何かにつまづいて転びそうになった。鍋焼きうどんで火傷したら大変だととっさに思った彼は、その鍋を出来るだけ遠くに放り投げた。鍋が落ちたところは金魚の水槽で、その熱で水槽の水はあっという間にぐらぐらと沸騰し金魚はすべて煮えてしまったという。
 必死な人間はしばしば非常に面白い。僕の場合で言えば、教室で授業していて下に落ちたものを拾おうとして、しゃがんだ瞬間にスーツの股が派手に裂けてしまったということがあった。「あー裂けちゃった」と堂々と言ってのけるほど人間の出来ていなかった僕は、できるだけ何事もなかったように授業を続けたが、生徒のうち一人が気づき二人が気づき、最後にはみんな気づいていたと思うが、生徒たちは僕の「何もなかったふり」に付き合ってくれて、チャイムが鳴るまで静かに授業を受けてくれた。なんとも優しい子たちである。

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快文書作成ユニット(仮)
自己紹介:
 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


 ❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。

 ❖ 呂仁為 Ⅱ 〜 昭和の想い出話や親しみやすい時代物、歴史小説などについて書きます。

 ✿ 流火-rjuka- ~ 主に漢詩の創作、訳詩などを行っています。架空言語による詩も今後作りたいと思っています。

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