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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
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No.107
2009/10/21 (Wed) 18:36:27

 埼玉に住む中学生の甥Dが、修学旅行で関西に来た。奈良と京都に一泊ずつだったらしい。最近の修学旅行生は、班行動の時間はタクシーに乗って移動するのが一般的だそうで、Dもタクシーで奈良・京都を観光したと聞いた。

 Dの班にいた乱暴者K。「やっぱり奈良の土産は鹿の頭だな。親父から猟銃を借りてきたぜ」
「だめですよ、奈良県で鹿殺しは重罪なんですから」とタクシーの運転手。
「おい、客のニーズにこたえられなくてどうする。奈良公園がすぐそこだ、停めてくれ」
「その銃をしまったら停めますがね」
「やかましい、運転手ふぜいが!」
 Kはハンドルに手をかけ、タクシーの進路を強引に奈良公園へ向けた。広場に群がっていた鹿たちは、一目散に逃げていった……いや、一頭だけ、逃げずにタクシーに向かってくる鹿がいた。
「関東のガキたちになめられたんじゃあ、古都奈良の名物としての名がすたるぜ、かかってきやがれ」
 その雄々しい鹿は二本の角でがっしとタクシーを受け止め、前輪はきゅんきゅんと空しく回転しやがて停止するかに見えたが、じりじりと後退する牡鹿、後ろにあった大きな楠とバンパーに挟まれついに息絶えた。

「さいたま市O中学三年一組、二班の四名、ならびにタクシー運転手、喜多川淀五郎、おもてを上げい」奈良の町奉行が言った。
「ははぁ」五名のものは顔を上げた。
「そのほうらO中学の四名、奈良観光せんとてタクシーに乗り合わせしところ、班員K、奈良公園の近くにて強引にハンドルを操作し、公園内にタクシーを侵入させ、牡鹿を一頭死なせしと訴えにあるが、左様相違ないか」
「相違ございません」二班の班員たちは恐れ入って答えた。
「運転手、喜多川淀五郎、相違ないか」
「へえ、相違ございません」
「奈良での鹿殺しは大罪と知っての所業か」
「へへえー」
「牡鹿の遺骸をこれへ」
 役人が鹿の死骸を戸板に乗せて運んできた。
「はて、これが鹿か。奉行にはこれは犬に見えるがな」
「そのようなこと仰せられては困ります」傍らにいた鹿奉行が口を挟んだ。
「ほう、そちにはこれが鹿に見えるか」
「拙者これでも鹿奉行をおおせつかっている身、鹿と犬を見間違えるはずもございません。これは鹿にございます」
「ではそちに尋ねるが」奉行はふところから何やら絵が描かれた紙を取り出した。「これはせんとくんかまんとくんか」
「ははぁ、せんとくんにございます」
「せんとくんに相違ないか」
「相違ございません」
「近頃これとよく似たキャラクターが奈良公園にて鹿をなぶり殺しにした上、その鹿を煮て食っているところを見たと民百姓が申し出たそうな。その際そのほうが、殺されたのは犬じゃと言い張ったと耳にしたが、はてこれは奉行の聞き違いか」
「お恐れながら申し上げます。せんとくんがなぶり殺したのは確かに犬にございました。お奉行様のお聞き違えかと存じます」
「黙れ黙れ黙れ。そのほうがせんとくんから多額の賄賂を受け取ったというのは明々白々たる事実、せんとくんをこれへ!」
 縄でしばられたせんとくんがお白州に引き立てられた。
「鹿奉行、これでもここにある死骸は鹿だと申すか、犬か鹿かしっかと目を見開いて返答いたせ、犬か鹿か!?」
「い、犬にございます」

 という夢を見た。
 Dは京都では金閣寺などを観てまわったらしい。お土産にはなぜか「やつはし」を山ほど買ってきて、彼の弟Tには「やつはしのぬいぐるみ」を買ったそうだ。
 Dいわく「ほかには何にもなくて」。嘘だろ。

(c) 2009 ntr ,all rights reserved.
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快文書作成ユニット(仮)
自己紹介:
 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


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