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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2024/04/26 (Fri) 22:28:32

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No.529
2011/12/30 (Fri) 00:32:10

 円盤の出口からのびるタラップを降りてきたのは、マスオだった。正確には「マスオのようなもの」と呼ぶべきかも知れない。なにしろ顔はマスオなのだが、白い手足が八本あり、その手足で這って歩く動物だったから。
「あ、あなた、いったい誰?」サザエが恐怖におののきながら尋ねた。
「マスオのようなもの」は青白い顔で、無表情に首をかしげている。
「パパぁ~」タラちゃんは無邪気に「そのもの」に近づこうとしたが、サザエが制止した。
「タラちゃん戻ってらっしゃい! これはパパじゃないのよ!」
 その八本足の生き物は、長細い前肢を使って胸に装着されている機器をいじりだした。
「バ、ブブブ、ケケラケラケラ。スパスパスパ、トトトーン。ワレ、ワレワレハ、十光年ノ彼方カラヤッて来タ、ハラハラ星人デあル。君たちハ、この星ノ、原住民なのカ?」
「そ、そうよ。そのハラハラ星人が、地球にいったい何のご用?」サザエが持ち前の負けん気の強さを取り戻して言った。
「新タナ居住地を探シに来タのダ。そレニシてもコノ星ノ空気はウマイ」そう言うとマスオの顔をしたハラハラ星人は、胸いっぱいに空気を吸い込み、満足そうに深呼吸した。
「嘘おっしゃい…地球の大気は放射能で汚れてるのよ」
「その放射能ガ、ワレワレにとってはマタトない好物ナノダ」
「ドウシタンダ、ジェームズ」円盤の奥から、もう一匹のハラハラ星人が出てきた。これもマスオの顔をした八本足だ。
「パパが二人いるです」タラちゃんが言った。
「オウ、かわイイ子供ダ。われわれハラハラ星人の幼生にヨク似ている。タラちゃんトカいったネ、こっちへオイデ」
 ジェームズと呼ばれたハラハラ星人は、四本の前肢を使ってタラちゃんを抱き上げた。
「きゃーっ、タラちゃんに触らないでちょうだい!」サザエが叫んだが、ジェームズはそれを無視して、
「タラちゃんの体はドウモ不完全のようダ。透視してミよう……ヤハリ肺がこの星に適応シテイナイ。手術してアゲヨウ」
 すると宇宙船内から金属製の箱がふわふわと浮いてひとりでにジェームズのもとにやって来た。その箱を開けると、きらきら輝く金色のナイフや錐(きり)のようなものがたくさん入っている。ジェームズは無造作にタラちゃんの胸にナイフを突きたて、切り始めた。
「なんてことするの!」サザエが止めに入ったが、ジェームズは別な腕で持った銃のようなものでサザエの動きを止めた。麻痺光線らしい。サザエは微動だに出来なくなった。
 タラちゃんの胸から肺が取り出され、ハラハラ星人の用意した緑色の新しい肺が埋め込まれた。そしてタラちゃんのわき腹に次々と穴が開けられ、新たに四本の手足が取り付けられた。ジェームズがスプレーのようなもので何か手術創に吹きかけると、すぐに血は止まって、なんの困難もなく手術は終わってしまった。
「ホウラ、コレデちょっトは人間らしくナッタ」ジェームズが満足げに言うと、八本足になったタラちゃんは
「ママ、僕どうなったですか?」と戸惑って尋ねた。
 サザエは麻痺から開放されたが、うううと泣き崩れた。
「姉さーん、タラちゃーん!」後ろから声が聞こえてきた。カツオの声だ。
「カツオ!?」サザエが振り向くと、そこにはカツオがいた。それは八本足のカツオだった。うきえもいるが、こちらは人間の姿をしている。
「ふふふ、カツオ君も手術させていただいたわ。サザエさん」
「ど、どうしてうきえさんがそんな真似を?」仰天したサザエが言った。
「私たちの地下施設は、表向きは核シェルターだけど、本当はハラハラ星人の基地なの。ハラハラ星人は地球人を手術して、この汚染された地表に適応させようという善意を施しているの。素晴らしいことだわ」
「何が素晴らしいもんですか……」
 すると泣き崩れたサザエのもとに、カツオが八本足でシャカシャカと近づいてきた。
「素晴らしいじゃないか、姉さん。姉さんもこの姿になってごらんよ、放射能が美味く感じられんだよ」
「あっち行って! あたしには八本足の兄弟なんていません!」
「姉さん、なに怒ってんのかしら」と、こちらも八本足のワカメ。
「サーザエー。サーザエー」遠くから、しわがれた男の声が聞こえてきた。
「その声は、お父さん!?」
 そう、落とし戸から顔をのぞかせたのは波平だった。しかしだんだん姿を現すにつれ、首から下は灰色のパイプのようなものが長く伸びていて、五体満足ではないことが分かった。波平の首を持っていたのは、花沢だった。黒縁の眼鏡をかけた白衣の花沢は、冷たい目をして言った。
「こんにちは、磯野さん。波平さんをお連れしました」
「で、でも、お父さん首だけじゃないの」
「私は医者なんですよ、磯野さん。私たちは放射能を摂取しても体内で無害化できる人工臓器の研究をしてまいりました。その栄えある実験台の第一号が波平さんです」
 そう言うと、頬のやせこけた青白い波平の首をぐいと突き出した。
「この人工臓器は今のところ五百平米の場所をとる大きなもので、地下に設置されています。でもご覧のように首だけは自由に移動できるんですよ。波平さん、波平さん。ご家族に会えて良かったですね」
 しかし波平は感情の回路が切れてでもいるかのように、うつろな目をして無表情に
「サーザエー、サーザエー」
と言うのみだった。
 そこへフネが現れた。
「サザエ。気をしっかり持ちなさい。とはいっても、私もこの世界で生きていくのはもう無理そうだけど」
 サザエが涙ににじんだ目をフネに向けると、フネは銀色に輝く拳銃を差し出した。
「私はまだ思い切りがつかないのだけど、サザエ、こんな世の中とはお別れしましょ。これで頭を撃ちぬくのよ」
 サザエは力なく拳銃を受け取ると、涙を拭きながら安全装置を外した。そしてのろのろと銃口をこめかみに持っていく……かに思えたが、銃口は花沢に向けられた。
「な、何するんですか、サザエさ」銃声が鳴り響き、花沢は眉間を撃ちぬかれてこときれた。
 サザエは涙をぬぐって、ハラハラ星人たちの頭も次々と撃ち抜いていった。
「姉さん、馬鹿な真似はよすんだ」
 しかし止めに入ったカツオも頭を撃たれてばったと倒れた。
「みんなみんな、死んじまえ……」
 弾をすべて撃ち尽くしたときには、地球人、ハラハラ星人のしかばねが辺りに散乱して風に吹かれ、もうサザエの邪魔をするものはいなかった。
「これからどうするの、サザエ」フネが力なく言った。
「決まってるわ、ハラハラ星に復讐に行くのよ」
 放射能の風が吹き荒れる大地を、サザエは雄雄しく踏みしめ、真っ赤な夕陽に照らされてその影を長くのばしていた。

(完)

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快文書作成ユニット(仮)
自己紹介:
 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


 ❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。

 ❖ 呂仁為 Ⅱ 〜 昭和の想い出話や親しみやすい時代物、歴史小説などについて書きます。

 ✿ 流火-rjuka- ~ 主に漢詩の創作、訳詩などを行っています。架空言語による詩も今後作りたいと思っています。

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 我ら一同、只管に【快文書】を綴るのみ。お気に入りの本の頁をめくる感覚で、ゆるりとお楽しみ頂ければ僥倖に御座居ます。









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