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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2024/05/03 (Fri) 13:06:37

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No.86
2009/10/16 (Fri) 05:00:35

もともと近眼だが、最近さらに視力が落ちてきている気がする。裸眼で0.01ないかも知れない。
生徒の開いている四十センチほど先のテキストの文字がよく見えない。とくにxとかyの右上の、2乗とか3乗とかの文字が識別できない。顔を一生懸命近づけて判読しようとしていると、生徒も最近は慣れてきて「2乗です」とか教えてくれる。優しい子たちだ。顔を近づけるのは、老眼で顔を遠ざけて読もうとする姿よりは見映えがいいのでは、と勝手に考えたりしている。

眼が悪くなったのは、PCに向かう時間が多くなったせいかも知れない。
ふだんは上の写真の右の眼鏡をかけているが、さらに度の強いレンズに替えるべきか。いちど思い切ってコンタクトにしてみようか。僕はコンタクトをしたことがない。あのレンズが眼球と眼窩の間に滑り落ちて取れなくなったら、と思うと怖いのだ。しかしコンタクトをつけたまま寝起きして一週間ぐらい平気、という人も知っている。だから、それほど怖くないのかも知れない。
コンタクトか……青い色つきのコンタクトにして外人になりすますのも面白いだろうな。

しかし新しいフレームの眼鏡も欲しい。写真の左の眼鏡、丸いレンズのジョン・レノン風で、以前は痩せていて面長だったから似合っていたと思うが、最近は自分の顔にそぐわない気がする。
すっかり鼻に眼鏡の跡がついてしまった。耳の上も時々うっとうしく感じる。むかし眉村卓さんのショートショートで読んだ、「未来の眼鏡」の広告を思い出す。
「耳や鼻に引っ掛ける必要のない“レンズだけ”のニュー・タイプの眼鏡。極微の重力制御装置を内蔵、レンズだけが常にあなたの眼前の一定位置に浮遊しています。おしゃれ度満点。ただ装置の故障により、一億人に一人程度の確率で首から上だけが異次元に行ってしまいますが、まずご安心してご使用いただけます」。

話はそれるが「パタリロ」に出てきた「不運クジ」を思い出す。マリネラ王国で宝くじが売り出された。「売り出された」というよりは、そのクジを受け取った人は、一等に当たらない限り一万円(一万マリネラ?)もらえるのである。ただ一等に当たると死刑にされる。その「不運クジ」の主催者パタリロは、クジを受け取った人間に掛けた生命保険で儲けを上げようともくろんでいた。一等に当たる確率は十万人に一人とか、とにかく交通事故で死ぬよりも低い確率だ、などと宣伝し国民を安心させ、そのクジを「買わせる」。
オチはどんなだったっけ……たしかタマネギが一等に当たったような気がする。これ、落語が元ネタなんじゃないかと誰かに聞いたが、その落語を知らない。ご存知の方、いらっしゃいますか?

浮遊レンズの話で思い出したけれど、姉とどういう話の流れからだったか、女性のお化粧について喋ったことがあった。とにかく最近は、化粧品も優れたものが出ていて、美容業界も日進月歩、街を歩いている美しい女性も、ほとんどは化粧を落とせば素顔はまるで別な顔、ということも考えられる。美容整形の技術も進んでいて、とくにアメリカでは整形に対する抵抗のない女性が多く、ハリウッド女優でも五十はゆうに超えているはずなのに、不自然なほどしわのない顔の人がいる。顔面の皮膚を加工しているのがありありと判り、その若さへの執着は痛々しいほどだ。
で、究極の化粧、美容の技術の終着点は何だろうという話になったのだが、それは例えば両肩に小さな立体映像投射機を装着し、その女性の頭部のところに思いのままの美人の顔をホログラムとして映し出す、そういうものではないか、という馬鹿な結論になった。

そういう話をしたのが五年ほど前で、はじめは冗談で言ったことだったが待てよ、これはあるいは技術的に可能なことかも知れない、と考え始めた。
そもそもテレビジョンの原理とは、無数の静止画を高速度でつぎつぎ映して見せることである。その一つひとつの静止画をホログラム画像にすることは可能である。つまり立体映像を動画として記録再生することは原理的には難しくない。だから人間の頭部のところに、別人の顔が笑ったりまばたきする動画を立体として映すことも可能なのである。問題になるのは、たとえばある女性の理想とする美人の顔の立体映像が、その女性が笑えば笑い、まばたきすればまばたきするというように、使用者と立体映像の表情を連動させることである。僕は、まず使用者の女性の顔の動きはそのままホログラム動画として記録し、それを再生する際には「整形関数」というものを用いて、美人の顔の動きとして像を結ぶようにする方針を採った。

整形関数とは、簡単に言えばもとの女性の顔の各点の座標を、美人の顔の対応する点に移すというものである。つまりたとえば、もとの女性の口の周りが美人の口の周りとして変換されて、したがってもとの女性が笑えば立体映像の美人も笑うのである。
しかし人間の表情というのは複雑極まりなく、目的の美人の映像が自然な表情を見せるためには、ただひとつの関数でデータを変換するのではもちろん足りない。だからおおもととなるひとつの整形関数で変換された顔のデータを、別に用意した多くのアルゴリズムで補正してやらなければならないのだが、この辺の話はかなり込み入っているから割愛しよう。
僕は試行錯誤ののち、どうやら満足できるぐらいの整形関数を一つ作り上げた。「もとの女性」のモデルとしては姉に協力してもらい、「理想の美人像」としてはオードリー・ヘップバーンの顔を使った。ホログラム動画の記録再生装置は、実用化はまだされていなかったが研究している機関はいくつもあったから、苦労してその試作品を分けてもらい、それに整形関数を組み込んだ。じっさい姉の表情の変化に応じて、ヘップバーンの立体映像が見せる笑ったり怒ったりの自然な表情は見ものだった!

装置はこれである意味ひとつの完成を見たのだが、実用化にはまだ遠い道のりがあった。つまりこの装置はまだ「人間の両肩にさりげなく乗る」ような小さな物ではなかったのである。「もとの女性」の顔の動きを記録し、美人の顔の動きに変換してただちに映写する「生中継」をやる必要があるのだが、これは小さな装置一つでやるのはなかなか困難なことなのである。そもそもホログラムというのは、通常のカラー画像が持っている「光の光強度と波長」という情報に加え、「光の位相」の情報を持つことによって立体に見える。この「位相」を記録するためには、一つのレーザー光を「ビームスプリッタ」により二つに分解し、一方を被写体にあて他方を鏡に当てて反射させ……いや、あまり長々とした技術の話はきっと退屈だろう。
僕は小型化の前にこの装置の特許を取り、実際の小型化の研究はある電機メーカーがやることになった。そして今年の二月ごろ、かなり実用可能に近い段階まで小型化に成功したらしい。来年の秋ぐらいには発売にこぎつけるだろうとも聞いたから、世間があっと驚くのが今から楽しみである。
もちろんこの発明の話はすべて嘘である。

(c) 2009 ntr ,all rights reserved.
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 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


 ❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。

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